アイルランド貴族の娘


 アシュレイ・スマイスは、アイルランド貴族の娘でした。

 ただ父親が祖父より勘当され、その後、祖父と両親も死去、祖父のあとを継いだ、父親の弟が放蕩の結果、破産、自殺したのです。


 アシュレイは、母方の実家に引き取られましたが、ここも夜逃げ同然、なんとか伝手を頼って、仕事がアイルランドよりはあるという、グラスゴーにやって来たとのことでした。


 生活は苦しく、アシュレイはこれ以上迷惑はかけられないと、家を出て女子寮がある紡績工場に職を求めたのです。

「毎月、賃金の半分をおじさん夫婦に渡していましたが、お二人ともコレラにかかって……半年前でした……」


「詳しくは後で聞きましょう、とにかくその服ではホテルに入れないかも……とにかくついてきなさい」


 マーガレットはアシュレイを連れてホテルへ、そしてドアマンへチップをかなり渡して、

「悪いけど、ベルガールを呼んで来てくれない」

 

 そしてやってきたベルガールに向かって、

「この子が着替えするので、どこか差し障りのない部屋を貸してくれない?」

「着替えが終わったら、私は喫茶室にいるので連れてきて」

 と、これまた潤沢なチップを渡します。


 アシュレイには、

「この服に着替えて、私のところまで来なさい、多分サイズは合うはずよ」

 どこから出したのか、セパレイティスト・クラブのイギリス支部、いまではイギリスコロニーの、ウイッチ用外出制服一式を渡しました。


 いわゆるウイッチ用の通販カタログには、所属ハレムの専用商品があり、このようなものも取り扱えるようなのです。


 しばらくして、一人の可愛らしい娘さんがやってきました。

「少し大きいかしらね……問題はない?」

 

「……」

 少し恥ずかしそうな顔をしたアシュレイ。


「つけたのね?」

「はい……鍵は……」

「持っておきなさい、本当は同行している上位者が預かる決まりですが、なれないでしょうからね」

「……」


「そろそろ夕食ね、お腹減ったでしょう、レストランへ行きますよ」

 侍女のように付き従うアシュレイ。


 途中、フロントクラークに、

「この娘も一泊します、私の部屋に泊めます」

「それからコンシェルジュにいって、明日のロンドン行きのデイ・スコッチ・エクスプレスの座席を、一つ確保してください」


「たしか一等のコンパーメントを借り切っているので、問題はないはずです」

 上から目線のマーガレットです。


 本来、イギリスの夕食は軽いものですが、アシュレイのために、レストランでアイリッシュシチューをメインに色々頼んでいました。


 自身はフィッシュ・アンド・チップスとケジャリー――魚の炊き込みご飯、スコットランド料理――を注文しています。

 高級ホテルの高級レストランなのですけどね……


 怪訝な顔のアシュレイに、少々苦笑いしながら、

「アウグスタ様は庶民的なのよ、私もお仕えする方になんとなく似きてたのよ」

「気にしなくていいわよ、貴女は食べなくてはいけないわよ」


 アシュレイは泣きそうな顔をしながら、食べていました。

 そして久しぶりにお風呂に入り、直ぐにベッドで寝たのでした。


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