第26話 食いしん坊のチェト

 ドンッ!!

 凄い衝撃が僕を襲った。そして、激痛も襲い掛かって来た。なんかクルクル回っている感じがする……。


 ――『体当たり』の条件が整いました。『体当たり』を作成しますか?


 あぁ。そっか……僕体当たりしたんだ――。



 「よかった。目を覚ましたか」


 目を開けると心配そうに、ユイジュさんとチェトが僕を覗き込んでいた。


 ――『体当たり』の条件が整いました。『体当たり』を作成しますか?

 ――『土魔法』の条件が整いました。『土魔法』を作成しますか?


 なんか、作成出来るのが一つ増えてるんだけど?


 「大丈夫か?」


 「はい……」


 ――『体当たり』のスキルを取得しました。

 ――『土魔法』のスキルを取得しました。


 「しかし驚いたぞ。かなり転がったからな。地面が土でよかった」


 安堵したように、ユイジュさんが言った。

 あぁ、そういえば、土魔法の条件って土にまみれるだったっけ?


 「チェト大丈夫?」


 『我は大丈夫だ。すまないな。我の力不足で』


 「ううん。チェトが無事ならよかった」


 「お前な……。まあでも助かったよ。吹き飛ばしてくれたおかげで、一瞬モンスターが気を失った。俺が心臓を突き、チェトが首にかぶりついて倒した」


 「チェト大活躍だね!」


 「あぁ。そうだな。起き上がれそうか?」


 「うん……。いててて……」


 「たぶん、打ち身だ。暫く痛いだろう。キノコも採取したし帰ろう。おぶるか?」


 「え? いや、大丈夫です」


 起き上がって驚いた。オオカミ達が血だらけだった……。


 「ひい……」


 「あぁ。牙とか爪とか、色々取ったからな……」


 僕が何に驚いたのかわかったユイジュさんが説明してくれた。僕は、採取だけにしておこう。

 うん? って、よくみると、チェトが赤黒く染まっている……。


 「ぎゃ~!! チェト! どうしたの!?」


 「その犬、恐ろしいな。……肉を食っていたぞ」


 「え~~!! 生肉食べたの? どうして止めてくれなかったのさ! おなか壊したらどうするんだよ!」


 「げ、元気だな……。そう思うならもう連れてくるな! 犬まで面倒みないって言っただろうが」


 「もうチェトの食いしん坊! ちゃんと買ってあげるって言ったでしょう! もう絶対に生肉なんて食べてはダメだからね!!」


 『……だから我は犬ではないと言っているのに』


 「犬じゃなくてもダメなの! おなか壊すでしょう!」


 「本当に会話しているみたいだな」


 「え? 本当に会話してるけど?」


 スキルを覚えるのは信じたのに、チェトと会話しているのは信じてないの?


 「それって、チェト限定? それとも犬限定?」


 「チェト限定だと思うけど? 他の犬が話しているのは聞いた事ないから」


 「なぜチェト限定?」


 なぜ? 本当はスキルじゃないから? うん? でもなんでチェトだけ話せるんだろう?


 「なんで?」


 「俺が聞いているんだけどな。まあ、いっか。話せるならもう今日みたいな事はするなとちゃんと言っておけよ」


 「うん。言い聞かせるね!」


 『はぁ……どうやったら通じるのやら』


 「まったく。凄く汚れちゃってるじゃないか!」


 「お前もな……」


 僕も? あ、本当だ。

 全身土だらけ。転がったって言っていたっけ。


 「しかし命拾いした。ありがとうな」


 「うん? 倒したのユイジュさんでしょう?」


 「俺だけじゃ倒せる相手じゃなかった……」


 「えぇ!!」


 「驚いたよ。一応ここは、Eランクの場所だからな。Eランクのモンスターまでしかいない事になっていた。あれはAランク」


 「うん。チェトもそう言っていた」


 「チェトも? 今更だけど、チェトって本当に犬か?」


 「うん? 犬だよね? 猫に見えないよね?」


 「いや、そうではなくて……」


 はぁっとユイジュさんがため息をついた。


 『普通ならそう思ってくれるんだけどな……はぁ……』


 そしてチェトまでもため息をつく。

 そういえば、前にチェトが犬じゃなくて……


 「セイジュウ?」


 『まて、それは内緒のはずだ』


 「あ、やっぱり! あってた?」


 『あってた? じゃない! 余計な事を言わなくていい!』


 「あ、ごめんなさい。怒らないで~」


 「聖獣? ……か」


 「うん? 何?」


 「いや、戻るぞ」


 「チェトおいで」


 『我は歩けるぞ』


 「ダメ! 勝手に行っちゃうから抱っこする!」


 「そうしとけ」


 体中痛いけど歩ける。チェトを連れて帰らないとね。それにしてもダッシュ覚えておいてよかった。

 僕達は、森を後にした。

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