第4話 ダッシュ!

 「ふんふんふふん♪」


 僕は、鼻歌交じりで丘に向かった。

 道から外れ少し行くとあった。結構近い。

 道には、結界石が埋め込まれていて、滅多にモンスターは近づいて来ない。また、定期的に冒険者が見回りをしている。

 なので、僕はモンスターなんて見た事がなかった。


 「特徴は、お花の様に広がった水滴の様な形の葉が五枚。色は青っぽい。か……」


 丘を見ると少し青っぽい場所があった。


 「あそこか?」


 走って向かうと、特徴と似た形の草があった。


 「やったぁ! 本を買ってよかった!」


 僕は、ラビット草をスポッと抜いた。いや採取した。


 ――『採取』の条件が整いました。『採取』を作成しますか?


 おぉ! やっぱりこれがラビット草だった!


 「はい」


 ――『採取』のスキルを取得しました。


 「やったぁ!!」


 って、鑑定がないから自分で確認できないけど、スキル増えたんじゃないか?


 ガサガサガサ!


 うん? え? 何あれ? 角のが生えた兎? うん?


 「もしかして一角兎!? ぎゃー」


 僕は、街へ向かって全速力で走る。けど、あいつ速い! 必死に走るけど、まだ諦めてくれない。そして、こういう時に誰とも出会わない!


 もうダメかも……。


 ――『ダッシュ』の条件が整いました。『ダッシュ』を作成しますか?


 え? 何これ? とりあえず……


 「はい」


 ――『ダッシュ』のスキルを取得しました。


 あ、何か苦しくなくなった? でもまだ追いかけて来る!


 「ひ~! 誰か助けて!」


 「とりゃ!」


 うん? あ?

 振り返ると、一角兎は吹き飛ばされていた。いや斬られて倒された。


 「あ、ありがとうございます」


 「あんたさ。モンスターを街へ連れて行く気? それ持って走ればついてくるに決まってるだろう?」


 僕と変わらない年齢ぐらいの赤髪の男が、僕を睨み付けて言った。

 そう言えばこれ、一角兎の好物だったっけ?


 「あぁ。それでか」


 「気がついてなかったのかよ! 習っただろう?」


 「……いや、僕、武術系でも魔法系でもないんだ」


 「っち。それ以外の冒険者かよ」


 「いや、冒険者でもないかな?」


 「はぁ!? じゃ、なんでそんなもん、持ち歩いてるんだよ!」


 「えーと……」


 なんと説明すればいいんだろうか?


 「興味があったから? あ、ほら、この本を買ってさ」


 さっき買ったばかりの本を見せた。


 「相当なアホだな」


 ボソッと彼は呟いた。悪かったね!


 「俺は、ユイジェ。冒険者になって一年ぐらい。で、それどうするの?」


 「さて、どうしよう……どうしたらいい?」


 「……使う予定もないなら売るしかないだろうけど。いる人がいなければ、売れないぞ? 基本、欲しいと依頼があって採取に行くもんだ」


 だよね。スキル習得の事しか考えてなかったから後の事は……。

 そうだ。さっき覚えたスキルってなんだろう? ちょっと見てみようかな。


 「色々ありがとう。じゃ」


 「まてよ。名前ぐらい名乗れよ」


 「あ、忘れてた! ロマドです。先日、スキルがわかったばかりで……」


 「冒険者になりにきたのか? もしかして適正検査だった?」


 「へ? 適正検査?」


 「……本当にただ単に興味だけで採取したのかよ。立派なもんだ」


 呆れた様に言われてしまった。最後の台詞は皮肉だろう。


 「ついて来いよ!」


 一角兎を持ってユイジュさんは言った。


 「へ? どこに行くの?」


 「冒険者商会。それ、採取できたんならそのまま冒険者登録出来る。登録出来れば、依頼を受けられる。もし、それの依頼があれば渡せばお金になる」


 「あぁ! なるほど! ありがとう!」


 はぁ。ため息をつかれてしまった。

 死んだらモンスターは、街の中に持って行ってもいいんだな。って、どうするんだろう?


 色々聞きたいけど後にする事にして、僕は大人しく彼の後をついて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る