第36話 キュウの かいたくちの いちにち(よる)

「失礼しま~す」

「夕食の食材をお持ちしました」


 コロッケのあじがすごくて、しばらくうごけないでいたら、うらぐちからへいしのひとたちがはいってきた。

 みんな、おおきなきばこを、りょうてでかかえてる。

 なかにはパンとか、やさいとか、たべものがいっぱい。


「お疲れ様です。そこのテーブルに置いてください」


 カエデがゆびさしたテーブルのうえに、きばこがどんどんならんでいく。


「お昼のマッシュポテトがけっこう余ってますね。油には余裕がありますし、今日のメインの野菜炒めにクロケットを追加しましょう。キュウさん、カブトイノシシの肉をもう二枚ほど用意するので、さっきと同じくらい柔らかくなるまで叩いてもらっていいですか?」

「あい!」

「ん、そろそろあたしはお邪魔かな?」


 おなかをなでてたユニが、テーブルからはなれる。


「ねえカエデー。お礼用の魔道具は作っておくから、今度クロケットをいっぱい作ってくれるー?」

「あらあら。そんなに気に入りましたか?」

「最高だった!」

「ふふ、わかりました。次に揚げ物を作る日、たくさん作りましょうか」

「ありがとー、おねがいね。キュウちゃんもがんばってねー」


 ユニはマラカスをふりながら、ちょうりばからでていった。

 いれかわりで、おりょうりたんとうのへいしのひとたちがはいってくる。

 カエデがおりょうりのせつめいをして、ちょうりばのテーブルにへいしのひとたちがならんで。わたしのまえにおにくがおかれて。

 みんなでおりょうりがはじまった。


 わたしのみぎのひとが、おいものかわをむいて、なかみをつぶす。わたしのひだりのひとが、トウモロコシのはっぱをとって、つぶをむしる。

 テーブルのむこうにいるカエデが、おててをのばして、つぶれたおいもとトウモロコシのつぶ、さっきわたしのたたいたおにくをとっていく。

 それをカエデがにぎって、コロッケになるかたまりをつくって、おおきなおさらにつんでいく。つまれたかたまりは、ほかのひとがもっていって、おなべにいれて、じゅわー。

 コロッケが、たくさんつくられていく。


 さっきたたいたおにく、どんどんへってる。はやく、つぎのおにくをたたかないと。

 とんとんぐりぐり、とんとんごりごり。

 でも、つよくたたきすぎると、テーブルがゆれて、となりのひとのじゃまになる。

 どかんどかんじゃだめ。どすんどすんでもだめ。でも、とんとんだけだとまにあわない。ぐりぐりがだいじ。


 おにくをいちまい、たたきおわって、にまいめ。いそいで、とんとんぐりぐり。

 まどのそとは、くらくなってきてる。もう、ゆうごはんのじかんだ。となりのしょくどうに、ひとがはいりはじめてる。

 できたおりょうりは、おさらにのって、それをみんながもっていく。


「お、これうまいぞ」

「コロッケか。懐かしいな」

「あら、おいしい。でもこれクロケットじゃないの?」

「私の故郷だとコロッケね。でも、どっちでもいいじゃない。おいしいんだし」


 しょくどうから、こえがきこえてくる。コロッケ、にんきみたい。

 カエデ、うれしそうだけど、わらうのをがまんしてる。ロンとくんれんのときも、ひょうじょうをかえないようにがまんしてたし、ラパックスのかみどめをみたいのも、がまんしてた。

 カエデって、いろいろがまんするなあ。ユニみたいに、すなおになればいいのに。


 かぜのむきがかわって、まどからかぜがはいってくる。

 そのなかに、すこしロンのにおいがまざってた。


「キュウさんも気づきましたか?」


 まどのほうをみてたら、カエデもそっちをちらっとみた。


「ほんと、似た者主従ですね。気になるけど邪魔しちゃいけないから窓の外から見つめるって、やることがそっくりなんだもの」


 ロン、まえからいたのかな。きづかなかった。カエデはいつから、きづいてたんだろう。

 カエデはちいさくわらってから、わたしがたたいてたおにくをつまんだ。


「これだけ柔らかくなっていれば十分ですね。今日のお料理の練習はここまでにしましょうか。手を洗ってから、その窓の外にいるあなたのご主人様を食堂のほうに呼んできてください」


 カエデが、おにくをもっていく。わたしはエプロンをはずして、おててをあらって、うらぐちからそとにでた。

 まどのほうにまわると、ロンはまどからちょうりばのなかをみてる。

 みぎをむいたり、ひだりをむいたり。わたしのこと、さがしてるのかな。でも、うしろにいるわたしには、きづいてない。

 わたしなら、ここまでちかくにいたら、においでわかるんだけどな。ロンは、おめめはよくみえるけど、おはなはふつう。


「オォン」

「おおう?」


 わたしがこえをかけたら、ロンがぱっとふりむく。


「こっちに来たのか」


 びっくりしてたロンは、ちょっとこまったようにわらった。


「料理するって聞いたから様子を見ようとしてたんだけど、気にさせちゃったかな」


 カエデが、よんでほしいっていったし、そんなことない。


「ンーン」

「そっか、ならよかった」


 わたしがくびをよこにふったら、ロンにつたわった。おててを、にかいたたいてもいいけど、くびのよこふりでもつたわる。


「クォンから聞いてたけど、新しい服を着てるんだな」


 ロンが、くびのかくどをかえて、わたしのことをみつめる。りゅうのとき、ブラシでうろこをみがいてくれたあとみたいに。


「うん、似合ってるよ。それにサイズもぴったりみたいだ。送ってくれた二人には、お礼をしないとな」


 ロンがほめてくれた。

 ふたりだから、ロンのかおをなめたいけど、まだだめ。いまはカエデによばれてる。

 わたしはロンのふくの、はじっこをつまんで、にかいひっぱった。りゅうのときからやってる、ロンがだれかによばれてるときの、あいず。


「ん? 誰か呼んでるのか?」


 ロンは、すぐわかってくれて、ひっぱるほうにあるきだす。


「アエレ!」

「カエデか? なんだろう。まさか窓から見てたのを怒ってるのかな。料理してるのに邪魔したからって」


 そんなことは、ないとおもうな。

 ロンといっしょに、しょくどうにはいると、カエデがちょうりばからでてきた。

 カウンターごしに、カエデがもってた、ふたつのおさらが、わたしとロンにわたされる。

 おさらのうえには、パンとスープ、やさいいため、それにコロッケがのってた。


「はい、今日の晩ご飯ですよ」

「おおう、ありがとう」

「なにを警戒してるんですか」

「いや、料理の邪魔をしなかったかなって」

「ただ窓から見てただけでしょう? それくらいなら別に何も言いませんよ。それよりそのコロッケ、作るのにキュウさんも手伝ったものですから、よく味わって食べてくださいね?」

「そうなのか!」


 ロンはうれしそうにしてから、すぐにまじめなかおになった。


「いやでも、いきなり揚げ物って難しくないか? コロッケなら刃物は使わないかもしれないけど、油を使わせるのは危ないだろ」

「揚げるのは私がやりましたよ。キュウさんがやったのは下ごしらえの部分です。私は料理の初心者にいきなり火や油を使わせませんよ?」

「ん、まあ、そりゃそうか」

「相変わらず過保護なんですから。ほらほら、動いてください。そこに立ってたら次の人が食事を受け取れませんよ」


 カエデにいわれて、ロンとふたりでしょくどうのおくにいく。


「あー、キュウちゃーん、ローン。一緒に食べよー?」


 こえのほうをみると、テーブルにユニとリアラさんがいた。

 ふたりのまえのイスに、ロンとならんですわって、みんなでばんごはん。


「うむ。良い味なのじゃ」

「おいしー!」

「そうだな。うまい」

「キュ」

「油っぽい料理は苦手なのじゃが、これは食べやすいの。しぼりたての新鮮な油ならでは、じゃな」

「この料理もカエデのアイデアだろ? カエデの指導でメニューの種類もけっこう増えたな」

「そういえば、キュウちゃんがカエデと一緒にお料理を作っててねー、がんばってたよー」

「お、それ詳しく」

「身を乗り出すでない。料理がこぼれるのじゃ」


 ロンが、わたしのおりょうりのおはなしをきいてる。ちょっとはずかしい。

 まわりのみんなも、ごはんをたべながら、たのしそうにおしゃべりしてる。


 りゅうのときは、だいたいロンとふたりでたべてた。

 ロンとふたりでおしょくじも、たのしい。ロンがほしくさをもってきてくれて、おはなしもしてくれる。しょくじのあとは、ロンのかおもなめれる。

 だけど、ロンいがいのひととおしょくじすると、わたしのことをジロジロみられることがおおかった。

 それはなんだか、おこられてるみたいで、にがて。

 おしょくじは、じゃまされずに、おいしくたべるのが、いいよね。


 たべおわったら、みんな、ねむそうなかおになってる。もう、そとはまっくら。こんどは、ねるじゅんびだ。

 だんじょにわかれて、おゆがためてあるへやにはいって、からだをあらう。クォンが、ねるときにきる、ふわふわのふくをもってきてくれた。これも、ラパックスのふくなんだって。


 へやにもどると、ロンがまっててくれた。


「おかえりキュウ。もう寝るか?」

「キュ」


 おててをいっかいたたいて、ロンといっしょにベッドにもぐる。

 ベッドはふかふかで、ロンはほかほか。ここにいると、すぐにねちゃう。

 だから、ねるまえに。


「ん、どうした?」


 ねころがったロンのうえにのぼって、ロンのふくをちょっとずらして、かたをなめる。

 いまはへいきそうだったけど、あさのカエデのくんれんのあとは、いたそうにしてたし、ねんのため。


「おーいおい。大丈夫だよ。そんな眠そうな顔で無理するなって」


 ロンが、わたしのくびのうしろを、やさしくたたいた。しんぱいないよ、のあいず。


「俺も眠くなったよ。今日は朝早かったからなぁ」


 ロンにだっこされて、めをとじると、すごくねむい。さっきまではへいきだったのに。

 かおもなめたかったけど、あしたのあさにしよう。 


「冷えないように、ちゃんと毛布の中に入って。寒くないか?」

「あーい……」


 ロンにせなかをなでられて、やわらかいベッドにねそべるのは、すごくきもちいい。

 りゅうのときは、くさのうえでぐっすりねむれたけど、いまだとさむくてむり。


 でも、このまえまで、ロンはりゅうのわたしといっしょに、ねてた。

 くさのうえとか、こやのゆかとか。


 しょくじのときも、おもったけど、ロンはいつも、りゅうのわたしと、いっしょにいてくれた。

 でも、そのあいだ、ロンはほかのひとと、しょくじしてないし、ベッドもつかってない。

 こんな、あったかくて、きもちいい、ベッドなのに。


「おやすみ」


 ロンは、やさしい。いつも、いっしょ。

 だいすき。

 だけど、りゅうのわたしがロンといるあいだ、ほかのひとは、あんまり、ちかよってこない。

 わたしって、ほかのひととか、ひとがつかうものを、ロンから、ひきはなしてたのかな……?

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