6.創作裏話(後編)

 さて、創作裏話の続き。

 独立した三作品をなぜまとめようと思ったか、というところからになります。


   * * *


④少女の味方(『旅人達の錯綜』第1部)


 『漆黒の昔方』を書き終えて、思いました。

「私が続きを書かなかったら、この人たちみんなこのまんまなんだな」

……と。

 だったらハッピーエンドにしとけ、作者の匙加減だろ、という意見もあるとは思いますが、物語の中でキャラは確かに生きていますし、流れというものがあるのでどうしてもそうせざるを得ない、みたいなのがあるんですよ。


 高校時代、どうやら私はせつないのが好きだったらしい。

 そして『あの夏の日に』を受けて書いた『漆黒の昔方』も、私の中ではあの結末しかあり得なかった。


 だけど私はこの『ソータ』というキャラが気に入ってしまったので、

「よし、ちゃんと水那と会わせてあげよう! 救い出せるまで書こう!」

と決めたのでした。


 で、『漆黒の昔方』を読んだNがやたらとアズマ・シズルの双子の事情を気にしていましたし、作中ではラティブには全然行かなかったので、続編の舞台としてはちょうどいいかな、と双子の生い立ちを考えることになりました。


 なお、続きを書くと決めた時点で前三作には少し手を入れたのですが、設定等は全くいじりませんでした。

 ここをいじってしまうと、「この三作が独立して読める」という部分が成り立たなくなりそうだったからですね。


 手を入れたのは描写ですね。裏付け設定を決めていなかったために曖昧になっていたところをより明確にしました。

 例えば、『あの夏の日に』において

『トーマが剣を支えきれずに苦しんでいると、剣が自ら唸り、光を放ち、闇を封じ込めた』

というのはもともとあった場面です。


 これが後に『三種の神器の一つである神剣みつるぎ』『剣の宣詞』という『漆黒の昔方』由来の設定が乗っかりましたので、


 ――ヒコ……イナ……クゴ…………セイバオ、タマワラ……!


 と、『剣の唸り』をより具体的にし(剣の宣詞の一部になっています)、『剣から光の刃が放たれてギャレットの身体を突き抜けた』という風に、光の放たれ方をきちんと書いた、という感じです。

 つまり、もともと書いた内容の「表現」は変えても「根本」は一切変えなかった、ということですね。


 だから手法としては、前三作を読んで、拾えそうなものは拾う、伏線にできそうなものは伏線にする(当初は当然そんなつもりでは書いてないのですが……)という感じ?

 そもそも続きを書くつもりで書いてないから、

「どうすればこの異世界パラリュスを救えるんだろう……」

とここに来て初めて考えることになったので、そういう意味では難しかったです。


 この時点で、浄化者の定義や『天上の彼方』で明かされる神々の諍いなどは決めましたね。

 ここからは旅人シリーズの中で言うと解決編に向かう訳で、この時点である程度決めておかないと風呂敷が畳めない(笑)。

 『少女の味方』はその第一歩、という感じですかね。


 だからエンディングがまるで次回予告のように……。

 いやいや、ソータがいい加減可哀想なので、どうにかしたかったのです。読者に向けてというより、ソータに向けて期待を持たせた、という感じでしょうか?

「ちゃんと会わせてあげるから。しばし待て!」

……みたいな。

 そもそも読者は、この時点でNしかいませんしね。



⑤異国六景(『旅人達の錯綜』第2部)


 三つの物語を繋げるためには何か事件が起こらなければ駄目で、それは所在が判明している三種の神器の二つ目『神剣みつるぎ』だろう、というのは前作のラストの時点で決めていました。


 ただ、だからといって急にみんなが何の理由もなく集まるのは変ですよね。

 ソータとトーマはウルスラに行く理由がありますが、朝日にはない。


 あと、この三つの物語の時系列もはっきりしてないですしね。まだ読者に伝えられていない。(Nに「どうなってんの?」と聞かれました)


 ……ということで、その前段階としての物語、ということで短編集の形になりました。事件前夜、的な?


 あとここで決めたのは、デュークについてですね。

 それについてきちんと語られるのは『還る、トコロ』(そしてデュークの存在が明らかになるのは最終作『天上の彼方』)なんですが、ここで決めておかないと前フリの話が書けないですしね。


 合わせて、テスラに眠る闇についても触れておこう、と思いました。


 『想い紡ぐ旅人』を書いていた時点で、ザイゼルがエルトラとの戦争に至った理由は、実は決めてありました。

 それは、

「東の大地の地下には反旗を翻したくなるほどのが眠っていた」

ということ。(ただこの時点ではナニカがあった、ぐらい。例によって設定の余白というやつです)

 そしてザイゼルはそれを使いこなせず、カンゼルがフルに活用した結果、キエラは急成長を遂げたということ。


 しかし『想い紡ぐ旅人』の作中では触れませんでした。

 なぜ書かなかったかというと、戦争が長引いて代が変わった今となっては「戦争を終わらせる」ことが重要であり、「なぜ戦争が起こったか」について考える余裕は、エルトラにはなかったからです。


 あとは……やっぱりソータかな。

 さて、ソータはどうやってウルスラに行けばいいんかね、と作中のネイアと同じく私も考え込みました。何しろ三作を書いた当初はなーんにも準備をしてなかった訳ですから。


 ここで思いついたのが『想い紡ぐ旅人』で登場していた『飛龍』ですね。それと、亡くなった人を海に流すという儀式(『想い紡ぐ旅人』でのヒール、『少女の味方』でのベラ)。

 ここから『飛龍』と『廻龍』の設定を作りました。


 『廻龍』については、ずっと独りで旅をしていたソータに、旅のお供をつけてあげたかった、というのもあります。

 それに、ソータはとにかく素直じゃないので、子供のように純真で素直なコに癒しとして傍にいてほしかったのです。



⑥還る、トコロ(『旅人達の永遠』第1部)


 さて、本格的に風呂敷を畳むよ第1弾、といったところですか。この時点でエンディングまでの大枠はできていましたので、心情的には「いよいよ、やるか!」……という感じ。


 当初はソータが神剣みつるぎを手に入れて終わり、という予定でした。

 ……が、物語的にはこのあとソータの存在を知ったウルスラやらテスラやらが絶対に何かしらの動きを見せるはずですし、ソータ自身も急いでますしね。

 時系列的にも何か月後、という離れ方はせずにすぐ話が繋がるはずなのでまとめて書くことにした、という感じです。だから3章構成になりました。


 この巻は『出会いの巻』なので、私的にはかなりワクワクでした。

 旅人シリーズ全ての中で、一番気に入っているかもしれないです。



⑦まくあいのこと。(『旅人達の永遠』第2部)


 これは、次作の『天上の彼方』と合わせてプロットを作りました。

 水那復活後は怒涛のように話が進みます。そうなると、表の主人公である朝日、裏の主人公であるソータの話が中心になり、それ以外はちょっと拾えそうもない。

 そしてストーリーも、ファンタジー部分が主軸になります。事態は緊迫しているのだから、個人の事情は絶対に後回しになるはず。(要するに人間関係とかで悩んでいる暇はなくなる)


 水那が復活するまでの四年は、暁やシャロットもちょっと大人になりますし、トーマは社会人になります。

 異世界パラリュスを舞台としたファンタジー方面の話は1ミリも進まない(宝鏡ほかがみの発見ぐらいか)ので、キャラの心情面に焦点を当てたのが『まくあいのこと。』になりますね。

 あとは『天上の彼方』への伏線、といった感じでしょうか。


 最大の目的はトーマとシィナをくっつけることなのですが、この二人がテコでも動かないので本当に苦労しました。

 結果、シャロットにかなり頑張ってもらった感じです。大人はいろいろ考えてしまいますから、なかなか個人的な事情には立ち入れない。恋愛に疎いシャロットだからこそ突っ込んでいける、ということですね。無知は無敵です。


 あとは、夜斗かなー。

 登場場面も多く、かなりの重要人物なのですが、彼が何を考えて動いていたのかはこれまであまり語ってきませんでした。

 夜斗目線の話は今までもありましたが、彼の役目はテスラ側の説明とか朝日不在の場合の話の進行役で、彼自身の心情を吐露する場面は殆どないんですね。


 だから私も改めて、彼はどういう風に育ってどういう性格なのか、ということを深く考えてみました。

 今まで漠然と捉えていた彼がかなりリアルになった気がして、結構、満足しています。


 暁とシャロットは、せっかく友達になったのでどうにか交流させたいな、と私も作中の朝日と同じように考えました。

 廻龍の設定を決めた時もそうですが、もともとがすべてを決めて始めたシリーズではないので「さてどうすっかな~」みたいな局面はかなり多かったです。

 そんな中思いついた「手紙」と暁の「掘削ホール無限ループ」は割と気に入ってるんですけどね。



⑧天上の彼方(『旅人達の永遠』第3部)


 上記でも述べた通り、もう話は決まっていました。後は時間軸の問題。

 という訳で、今回もExcelでカレンダーを作り、話を書いていきました。

 カレンダー的に言うと、12月30日「水那復活」から3月13日「運命の日」、3か月弱の出来事です。


 カクヨムでの完結日がちょうど3月13日になったのは、偶然ですが嬉しかったですね。作中年月は2019年ですけど。


 ソータと水那については、外伝3の『永遠の貴方』で書いてるからいいかな。

 ちょっと補足すると、漆黒の昔方の最後でソータはソータなりに一生懸命に喋ったんですけど、水那には十分には伝わっていませんでした。だから水那としては、ソータがそんなに自分にこだわるとは思っていなかったんですね。


 ですから、闇から復活した水那はやや積極的です。

 ソータの不器用さ加減が24年という年月の重みでよくわかったので……そして復活してからも全然変わっていなかったので、

「この人は本当に、もう……」

と溜息をついたのではないかと思います。

 ですので、ちょいちょいソータを引っかけるというか、反応を見るような言動をするようになりました。

 やっぱり女の子ですからね。好きだという意思表示はしてほしいですから。


 それと夜斗について。

 実は夜斗に、恋人とまではいかなくても癒しの存在となる特定の女の子を作るかどうか、悩んだ時期があります。

 このとき思いついたのが「声のフェルティガエ」で、喋れない彼女の面倒を見ているうちに……というようなストーリーでした。


 でも全然ピンとこなくて、Nに「夜斗に特定の相手を作ろうか悩んでるんだけど」と相談しました。

 内容について相談したのは、これが唯一ですね。

 ですがNは

「あの夜斗に朝日と暁以上に大切な存在ができるとは思えない」

と即答しました。

 それで、私もストンと納得しまして。

 読者から見てそれが自然なら、たとえ夜斗が気の毒でも(ははは……)それが一番いいのだろう、と思いました。(Nは好きなキャラ第3位に夜斗を挙げていたので、それなりに思い入れがあったようだ)

 そんな訳で、夜斗は『朝日との時間』を得た、と。そういうことになりますね。


 私がこのシリーズの幕引きとして最初に思い描いたシーンは、天界への光が現れる中、ソータが水那に手を伸ばして「行くぞ」と声をかけるところでした。

 この映像に向かって話を作っていた感じです。ちゃんと書けてよかった……。


 そのあとの『人々のそれから』『遺された者は何を想うか』はゲーム「ス○○オー○○○2」のエンディングをイメージして書いています(個別エンディングだったり、カップルエンディングだったり……)。

 かなり長くなってしまいましたね。いかんせん登場人物が多いので、ちょっとずつ描写してもこんな量になってしまいました。


 ここは多分、読者的にはこんなに要らないんじゃないかと思います。トーマとシィナ、暁とシャロット、朝日と夜斗ぐらいで十分じゃないかな、と。

 くどいだろうな、と思ったのですが、ここは私の我儘で入れました。

 この物語はもうこれでおしまいなので、私が登場キャラクター1人1人に

「お疲れさま」

と言いたかったからです。


 そして二人の主人公が語り合う『旅人達の永遠』、と。

 初稿では、夜斗と朝日がソータと水那、駆龍くりゅうドゥンケに会うシーンは書きませんでした。

 朝日が泣いて、でもこれから頑張るぞ、と決意するシーンで終わり、エピローグに繋がっていました。

 するとNに

「話が飛び過ぎて訳がわからん」

と一蹴されたので補完しました。

 読者の想像力に託し過ぎた悪い例です。読者の意見は大切ですね、本当に。

 

 ま、それはさておき。

 230年後、三女神は元の力を取り戻し、ユウは女神テスラの使徒としてパラリュスに帰ってきます。

 ソータと水那はその功績を認められ、三級神になります。

 その後は三女神と三人で、パラリュスを見守るのでしょう。


 エピローグに登場した朝日の生まれ変わりであるオリエは、前世の記憶はありません。

 何か変な感じがしてサンのところに行くと、サンが慌てた様子で引っ張るのでとりあえず飛んできただけです。

 この先も何かを思い出すことはありません。ユウの方はサンに会ったことで思い出すとは思いますが。


 使徒の力を使えば記憶を呼び覚ますことはできるでしょうが、ユウはそれをしません。

 ユウにとって朝日は一人ですから、自分が救ったパラリュスを眺め、自分の子孫が繁栄していくのを、ただ見守るだけです。それでいいと思っています。


   * * *


 ……ということで、以上、創作裏話でした。

 最初にEndマークをつけてから二年半ぐらい経っています。そこから二度の改稿を経て今に至るんですけど、書き始めるといろいろ思い出しちゃいますね。 

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