1.直系と傍系

 作中に少しだけ「直系」「傍系」という言葉が出てきたのですが、実はこれにはちゃんとした定義があります。

 ここでは、そのことについて述べたいと思います。


 三つの国の女王、フィラの三家には「直系」と「傍系」の概念があり、直系には「当代」という存在があります。

 ある「当代」が死ぬと、自動的に「直系」の子孫に受け継がれます。

 ですが、死ぬ前に「当代」の意思で「直系」もしくは「傍系」に譲り渡すことも可能です。


 「当代」はその血筋の長ですから、格段に強くなります。そして、ある「当代」の子供が複数いた場合、「当代」は長子に移ります。

 長子に「当代」が移った瞬間、その兄弟縁者は「傍系」になります。「当代」が死んで「直系」がいない場合でも「傍系」の血筋には移りません。断絶します。

 フィラで「ファルヴィケンとチェルヴィケンは断絶した」と思われていたのは、このためです。傍系の子孫はいたのですが、自動的には移らないからです。


 ちょっと作中の例で移り変わりを見てみましょう。



《テスラ》


 『想い紡ぐ旅人』時での「当代」はフレイヤ、「直系」はアメリヤ、ミリヤです。

 その後、フレイヤは女王の位を孫娘であるミリヤに譲ったので、『旅人達の錯綜』『旅人達の永遠』においては、「当代」はミリヤ、「直系」はフレイヤ、アメリヤ、ルレイヤとなります。

 ただし「直系」は子孫の方に流れていきますから、フレイヤ・アメリヤは「旧直系」といったところでしょうか。

 しかしフレイヤは「先代」ですから、「当代」に次ぐ力を持ちます。



《ウルスラ》


 現在の「当代」はシルヴァーナ、「直系」はなし、「傍系」はシャロット、コレットということになります。

 『あの夏の日に』のときはイファルナ女王が「当代」だったので、エレーナ、マーガレット、シルヴァーナ、ギャレット、シャロット、コレットの全員が「直系」だった訳ですが、シルヴァーナに「当代」が移った瞬間、マーガレット、ギャレット、シャロット、コレットは「傍系」に、エレーナは「旧直系」になりました。


 ユズの母親であるヴィオラ(=スミレ)は、女王になったので「当代」でした。

 このとき「先代」が存命だったので、罪を犯して閉じ込められた際、「当代」の資格は剥奪されました(これができるのは「先代」だけ)。

 ただしウルスラの場合は「当代」のシステムと「時の欠片」のシステムは別で、「時の欠片」については本人の意思が最優先だったため、まだヴィオラの中に残っていました。

 ヴィオラはそれを利用して千年後に跳んだ訳です。


 ウルスラは女王の血にミュービュリの血が混じったため、特殊な継承システムになっています。

 他にない独自システムとしては、上記の「時の欠片」の他に「女王の証」「皇女の加護」があります。

 

 「当代」の力が「女王の証」となっており、「皇女の加護」は「女王の証」から分け与えられた力となっています。

 いわゆる「次の女王になる人間の証」ですので、女王に不測の事態が起こって亡くなった場合、「皇女の加護」を持っている人間に「女王の証」つまり「当代」が移ります。これは、直系・傍系などの血筋よりも優先されます。



《ジャスラ》


 「当代」はネイア、「直系」はセイラとケイトです。

 最後にネイアはセイラに巫女の座を譲り渡したので、ネイアは「先代」に、セイラが「当代」になり、ケイトは「傍系」になったということになります。


 テスラ、ウルスラが孫に継承する流れになっているのに対し、ヤハトラでは娘に譲り渡す流れになっています。

 これはジャスラの闇をおさえる任務がかなり過酷で、そんなに長い間続けることは不可能だったからです。

 ネイアの母は特に感覚が鋭敏で体が弱かったため、志半ばで亡くなることになりました。



《フィラ・ファルヴィケン》


 長い間、「当代」はユウでした。

 フィラ侵攻の際、「当代」はユウの母でした。しかし産後で体調が思わしくなく臥せっており、なすすべもなく殺されてしまいました。

 その瞬間、ユウに「当代」が移り、それを悟った赤ん坊のユウはショックでフェルティガを発現し、暴走――これがフィラを一瞬で焼け野原にした真相です。

 その後、ガラスの棺で眠っていた間も死んではいなかったので、ずっとユウが「当代」でした。

 最後、女神が降臨し、身体がなくなったため、暁に継承されました。

 つまり、現在の「当代」は暁、「直系」はなし、「傍系」がレイヤ、メイナということになります。



《フィラ・チェルヴィケン》

 

 『想い紡ぐ旅人』スタート時の「当代」はヒール(=ヤジュ)です。

 朝日は「直系」でしたが、ミュービュリで育ち、フェルティガの干渉を受けることもなかったのとかなり特殊な存在だったことから、明らかな発現というのはだいぶん遅れることになりました。


 そしてヒールの死を看取り、朝日が「当代」になります。捕まっていた間はなかなかフェルティガが上達しなかった朝日が、ミュービュリの上条家で夜斗と訓練している間に比較的成長が見られたのは、「当代」になったおかげでもあります。

 ……とはいっても、朝日は究極の大器晩成型なので『想い紡ぐ旅人』の作中ではへっぽこのままですが。

 ですから、現在の「当代」は朝日、「直系」は暁、レイヤ、メイナです。



《フィラ・ピュルヴィケン》


 現在の「当代」は夜斗と理央で、「直系」が理央の産んだマオニューリとその下の子になります。

 ヤトリオは早くに両親を亡くしていますから、かなり長い間「当代」を務めていることになりますね。

 そしてこの先もかなり長い間務めることに……。



 最後に、ちょっと補足。

 この作中ではフェルティガエの双子が多いですが、理由があります。

 フェルティガエは多くの子を持てません。一人しか産めない人が大半です。

 一組の夫婦から一人しか生まれないとなると、必然的に絶滅の道を辿っていくことになります。

 よって、フェルティガエは双子を産む確率が通常の人より非常に高いのです(ただし、朝日のように次子で双子を産むのは相当、稀なケースです)。


 そして兄弟の場合は長子の方が明らかに力が強いのですが、双子の場合は力の強さも「当代」も折半になります。勿論、本人の意思で片方に託すことは可能です。



~本編がらみの余談~


 『旅人達の永遠』の第3部『天上の彼方』の最後で、朝日が「フィラの三家として双子を育てる」と言っていますね。

 これは、いずれファルヴィケンの「当代」とチェルヴィケンの「当代」を双子にそれぞれ譲る、という意味です。そのための教育を理央に頼むつもりでいます。

 暁はミュービュリ育ちなので、この先どちらの世界でも自由に選べるように、という配慮でもあります。

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