勇者の戯言

睦月むう

第1話 誕生


「俺は勇者だ!」

「俺は勇者だ!」

「俺は勇者だ!」

「俺は勇者だ!」

「俺は!」

「俺は!」

「俺は勇者……」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ある時から、魔王という存在が人々を恐怖に陥れていた。

剣を振り乱し、魔法を使い、モンスターを使い、人々の生活を邪魔し、街を破壊していく。

そんな中世時代の世界。


 そんな日々の中で、ある街に男の子が生まれた。

その男の子の尻には、☆印がついており、それが赤く染まっていた。

村の村長に見せる。


「これは勇者の紋章!」


代々引き継がれた古本により判明したその☆印。


 伝説の勇者の子をアンソニーと命名した。

突然変異によって生まれた勇者の子供を大事に育てていった。

すくすくと育っていくアンソニー。


 アンソニー14歳の春。

アンソニーは、村人達を集めて、英雄団えいゆうだんと言う組織を作った。


 街の兵達つわものたちが集う集団。

剣術や、武術、格闘技や、魔法やモンスター使い。

各々が役割を持ち、打倒魔王に向けて、訓練が始まった。


 日々、打倒魔王として、厳しい鍛錬。

最初は、街近くのモンスターが出現するエリアでの戦闘のみであったが、

それを倒していく毎に噂は広まって行った。

 世界中の猛者たちが、情報を聞きつけて、集まりをみせた。

先生が良ければ、訓練や鍛錬も日々進化していく。

そして、たった3名で始まった、英雄団はどんどん膨れ上がった。


 徐々に、地域ごとのモンスター達を、殲滅できるまでに強くなる。

人数も30名へと膨れ上がる英雄団。

 だが、厳しい鍛錬で抜けていくものも多い。

そしてモンスター退治で死す者も多かった。

アンソニーが18歳を迎える頃には、たったの7名になっていた。


アンソニーは仲間に言った。


「世界中を探索し、もっと強くなりたい。いずれ魔王を退治する!」

仲間もそれに賛同し、みんなアンソニーに向けさかずきを交わした。


「お前が勇者の隊長になるんだ!」


 そして旅立ちの日。

村長がアンソニーたち7名のパーティに、ある先代勇者が残していった刀鍛冶の話をした。


「まだ生きていれば、お前達の刀も最強にしてくれるだろう! めげずに世界を救ってくれ!」


 旅立って10日が過ぎた。

街の近くのダンジョンでは無く、さらに奥地の初めて踏み入れるダンジョン。

ある程度、それまでは帰ってこれる距離で鍛錬していた。

だが、旅立ちから10日も過ぎれば、帰る場所もない。

回復魔法のMPだより。

薬草も底をつきかけていた。


 そんな中でのダンジョン。

アンソニーのパーティである、魔法使いや、モンスター使いは、

ダンジョン攻略は、「薬草をためてから」と言っていたが、

アンソニーはそれを無視して、強行突破を図った。

なんとか抜ける事が出来たアンソニー達だったが、

モンスターの攻撃は予想以上で、そのダンジョンで2名の死者を出してしまった。


 まだ、死者を蘇らせる魔法を身につけていなかったアンソニーは、

自分の勝手な思いでパーティの2名を失った事に戦意喪失をした。


 泣き暮れる日の夜。

アンソニーは、仲間を受け入れずに一人、外れの宿に泊まった。

それを聞きつけた一人の同じパーティの女性魔法使いクララッカス。

夜な夜なアンソニーの部屋に入る。


「アンソニー?起きてる?」


 部屋に入ると灯りも灯らない、暗がりの部屋の中。

アンソニーの影がブツクサと独り言をつぶやいていた。


「俺は、勇者……」

「俺が、勇者………」

「俺だから、勇者……」


「アンソニー? 大丈夫?」


「だっ? 誰だ!」

「誰って、クララッカスよ?」

「あぁ、君か……」


 一瞬強張った顔つきのアンソニーを見てクララッカスは不思議に思った。

だが、クララッカスは、慰めの言葉と、暗がりの部屋を利用して、身につけていた羽衣も脱いだ。暖かい曲線美が月光にあたり、アンソニーを温めた。

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