第38話 不審な死

 謎の男との戦闘を終えた俺は、ドナルドの首元をマキナと覗き込む。彼の傷跡を再び見て俺たちは確信した。


「部屋には争った形跡も無く、この傷跡も不思議なほどに綺麗ですね。やっぱりドナルドは・・・」

「あぁ、可能性が高い。だが、動機がわからない。」

「彼に関する情報が少なすぎますね。あのタイミングで自殺せざるを得なかった何かがあったんでしょうか・・・。」

「さぁな。ただ考えていたって答えは出なさそうだな。情報収集の意味も込めて、もう一度ヴィオラに会ってみよう。ドナルドやに関する話が聞けるかも知れない。」


マキナはあからさまに嫌そうな顔をする。彼女はヴィオラの見た目が苦手なのだ。絵に書いたような悪役魔女の容姿は、マキナにとっては恐怖の対象であった。


 俺たちはドナルドの部屋に再び鍵を掛け、以前ヴィオラと遭遇した東の階段に向かう。


「そういえば、先ほど謎の刺客と対峙した時にシンが最後に使おうとした技はなんだったんですか?」

「あれは桜花流の奥義だよ。失敗したけどな。」

「そんなに難易度の高い技なんですか?」

「・・・俺は一度も成功したことがない。その奥義以外の技は全て使えるが、奥義だけは修行中でさえも上手く使えたことがないんだ。緊張感のある実戦でならば、もしかしたらと思ったんが・・・。」


俺は桜花流の師範であるコジマの言葉を思い出していた。



---今のお前に足りないものが何かわかるか?


---お前に足りないのは『経験』だ。


---その様子だと、まだまだお前は未熟なままだな。



 東の階段に到着した俺たちは、暗闇の中でヴィオラを探す。


「おい、エセ呪い師。隠れてないで出てこい。」

「シン!失礼な物言いはやめてください!刺激を与えてはいけませんよ・・・。」

「おいおい、ビビってるのか?『管理者の使い』が聞いて呆れるな」


オドオドとするマキナを挑発すると、彼女は青ざめた表情で俺の方を見る。そして、背後に何者かの気配を感じ取り振り返る。するとそこには暗闇に溶け込んだのニヤリと笑った顔が浮かび上がっていた。


「私を呼んだかい?」

「「うわぁ!!」」


俺とマキナは叫び、同時に叫び腰を抜かす。


「なんだい。そっちから呼んでおいて失礼な奴らだね。」

「普通に出てこい!」


ヴィオラはヒヒヒと笑いながらその姿をゆっくりと現した。体勢を直した俺は、ヴィオラを呼んだ目的についてを説明する。


「ドナルドという男について、知っていることを話して欲しい。彼は自殺した可能性が高い。」

「自殺?どうだろうね。自殺といえば自殺かもしれないし、他殺といえば他殺かもしれないよ。」

「どういう意味だ?」

「そういう意味さ。あの男も不幸な男だよ。居た堪れないねぇ、こんな貧乏貴族の使いっパシリになっちまったことも、不潔な闇の連鎖に巻き込まれちまったことも。」

「闇の連鎖?それが奴の死とどう関係しているんだ?」


そう問うと、ヴィオラはまたヒヒヒと笑うだけだった。らちが明かないと思った俺は、次の質問に移る。


「あと、奴の部屋にはこれも転がっていた。お前は死の手帳カルネデモルトと思っていたようだが、ただの白紙の本だったぞ。」

「・・・お前、それを開いたのか?」

「あぁそうだ。だが全て白紙だった。ほらこの通り・・・」


俺がこの本の中身を見せようとしたその瞬間、ヴィオラは叫んだ。


「やめろ!!!」


ひどく怯えた表情をした彼女は、叫んだ後に逃げるように暗闇に消えて行った。その急な叫び声にマキナも怯えたようで、俺の後ろに隠れていた。


「な、なんなんだよ・・・。」

「とても怯えているようでしたね。やっぱりその本は死の手帳カルネデモルトなのでしょうか。」

「さぁな。ただ、この本とドナルドの死になんらかの関連はありそうだ。王子にも報告を入れておこう。」


俺たちはアルベルト王子の部屋を目指し、階段を登り始めた。



************************


「やめろ!!!」


 老婆の叫び声が聞こえ、私は咄嗟に身を隠した。シンとマキナを見かけ、声をかけようとしたのだが、何やら揉め事を起こしているようであった。ドミナント教徒の後輩にあたる彼が困っているのであれば助けてあげたいと思ったが、あまりにも悲痛な叫び声に思わず驚き、身を隠してしまった。


 少し時間をおいて、再び彼らのいた場所を覗き込む。そこにはもう老呪い師の姿は無く、彼ら二人だけになっていた。そして彼が手にしている古い本が視界に入る。


その表紙には、対になっている龍で組まれている呪い印が刻まれている。


あの特徴的な呪い印は、初代ドミナターが考案したという『希望の印』だと、前にアルベルト様から教えてもらったことがある。


そしてその印が刻まれた本は、この世界で一つだけ。


そうだ。あれは間違いなく希望の書カルネデエスポワールだ。

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