第28話 その物語の終わり
カールとマキナの協力もあり、なんとかレイに一太刀入れることができた。即死させられるほど深い傷にはならなかったが、動きを止めるには十分な一撃となった。レイは床を這い落とした剣に手を伸ばすが、俺はその剣を部屋の隅まで蹴り飛ばす。
「もう諦めろ。」
「こんな・・・、こんなことで、こんなところで、私は・・・。」
彼女は必死に手を伸ばそうとする。
「くたばる前に一つだけ教えろ。お前はマキナを使いエドを殺し、意図的にその殺害現場にタクトを召喚し容疑者にすることで、自分に依存せざるを得ない状況を作り出した。そして、その好都合な状況を崩しかけたヨハンを殺した。間違いないな?」
「はは。その通りさ探偵君。加えて君のお姫様が暴れてくれたお陰でタクトは自然と
レイは痛みに耐えていることを隠しきれない声色で、挑発的な返答をした。
「あぁ、くそ・・・。まだ、死ぬわけには・・・。この世界に、あの世界に、私は・・・」
彼女の身体は足先から光の粒に分解され消え始める。この異世界を支配しようとし、そして俺の大切な人の命を奪った者の最期は呆気ないものであった。俺はその姿が完全に消えるまでボーッと見つめていた。すると、トボトボと俺の隣にマキナが歩いて来た。マキナはレイに蹴られた左腕を抑えている。
「痛むか?」
「はい、少し。でも折れているわけではないみたいなので、打撲ってところだと思います。」
「そうか。・・・今回ばかりは助かった。ありがとう。」
「お、おぉ!ツンデレですね。シンがストレートなお礼を言うなんて。」
「おい、また変な言葉を。一体どこでそんな言葉を覚えてくるんだよ。」
マキナは俺の言葉を無視して、消えたレイが残していった衣類に手を伸ばし、魔具を取り出した。
「なんだそれは?」
「見た所、通信用の魔具ですね。おそらく、麓まで来ている軍と連絡が取れるのでしょう。これで彼らの進軍を止められれば、この館に張った結界も、転送魔具による避難も必要なくなるでしょう。一件落着というやつです。」
そこへカールもやって来て、会話に加わる。
「死体も残さずに消えてしまうとは・・・。本当に彼女がデューオだったんだな。とりあえず、私は選択を誤らずに済んだってわけか。」
「私は嘘なんてつきませんよ!そんなことより、この通信魔具を起動してもらえませんか?デューオ軍に撤退の指示を出したいと思います。」
「承知した。・・・さぁ、これでどうかな。」
カールは魔具を起動し、マキナがそこに向かって”撤退の指示”を出す。通信機の魔具からは短く「了解」とだけ返事が聞こえてきた。
全てを終え急に緊張が解けた俺とマキナはその場に座り込み、同じタイミングで大きな溜め息をついた。その様子を見てカールが笑った。俺たちを誤認逮捕をしやがった張本人の笑顔にムッとしていると、倒れていたタクトがゆっくりと起き上がる。
「レイ・・・さん、レイさんは?!」
俺たちは今までの経緯を全て話し、それを聞いたタクトは肩を落とし、放心状態になっていた。デューオに利用されていたというショックと、レイがそのデューオであったというショックによって混乱しているのであろう。その時、縄で拘束されたマキナが部屋に入ってきた。そのマキナの目の色は金色に変色しており、どこか威厳のある雰囲気を醸し出していた。
「シン、マキナ0003。見事です。異世界からの支配者をよくぞ打ち倒してくれました。」
「・・・管理者なのか?」
「その通りです。私はこの世界18002の管理者、オイローペと申します。今はデューオの支配から解放され、マキナ0002の身体を借りて意思疎通を取っています。」
そうか、デューオが倒されたことで管理者も解放されたのか。ということは、俺の役目もこれで終わりとうことなのであろうか。
「シン。マキナ0003を通してあなたへ託した任は見事に達成されました。あなたほど英雄適正のある人物には今までかつて会ったことがありませんでした。心から誇りに思います。そして、心より感謝を申し上げます。これから私はあなたを元の世界に戻すことになります。そして、これだけの功績を残されたあなたには能力の解放許可を与えます。」
「なんだそれは?」
「どの世界においても
元の世界で
「そして、タクト。あなたは不可抗力であったとはいえ、デューオの手助けをしてしまいました。そのため、しばらくの間はこの世界の復興に協力をしてもらいます。まずはデューオ軍の解放からですね。」
タクトは返事をせずに、ただ俯いていた。
三年前と同じ感覚で異世界転移が始まった俺の手をマキナが握ってくる。
「シン。私はあなたに出会えたことを誇りに思います。短い間でしたが、あなたの相棒でいられたこと、共に戦えたこと、忘れません!」
「自分で相棒とか言うなよ。・・・だが、なんというか、俺も、この三年間そこまで悪くなかった。」
「あ、やっぱりツンデレです。」
マキナは屈託のない笑顔を見せた。そして足先からゆっくりと転移が始まる。
完全に転移してしまう前に、俺はベティの元へと歩みを進めた。転移完了してしまうまでの間を、愛した人の側で過ごしたいと思ったからだ。結局俺は英雄になんてなれなかった。色々な人の協力や、犠牲によってなんとかここまで来れただけだ。何より、ベティを失った。守れなかった。本物の英雄が迎えるのは常にハッピーエンドのはずだ。俺が迎えたこの結末は、決してハッピーエンドなどとは言えなかった。
その後、目覚めた俺は真っ暗な部屋にいた。始まりはいつもこの感覚だった。電気のスイッチを探そうと両手を前に出し、探るように壁伝いに歩く。そして何か硬い物に躓き転んでしまった。何に躓いたのかを確認しようと、その硬いものを手に取った瞬間、急に明かりが部屋中に広がる。誰かがこの部屋の扉を開いたのだ。
そこには生首を抱えた首なし騎士、所謂デュラハンが立っていた。
「き、きゃぁあぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!!」
俺が手にしていた硬いものは白目を向いた生首であり、それを見た首なし騎士は悲鳴をあげた。
元の世界に戻ったはずの俺は、
後に『首なし騎士斬首事件』と呼ばれる事件の容疑者になっていた。
---『エウルール館の殺人』編 完 ---
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