第25話 異世界転生者

「殺人鬼レイ・アルメリア!!」


レイは笑顔で手を降ってくる。


「素敵なセリフだけど、そんな姿だと締まらないね。縄で拘束されて、涙でくしゃくしゃの顔で。どうやって私とやり合うつもりだい?」


レイは余裕そうに扉の方へ振り返り、ゆっくりと扉を閉める。俺はレイが背を向けた隙にベティが腰に隠していた彼女の護身用のナイフを使い、縄を切った。そしてそのナイフをレイの首筋目掛けて投げる。しかし、刃はレイの首筋ギリギリのところで動かなくなり、そのまま床に落ちてしまう。


「驚いたな。この一瞬でどうやって縄を解いたんだい?」


レイは振り返り、言った。今の力は奴の異世界特性オリジナルであろうか、それとも別の何か?どちらにせよ奴は何らかの力を使い、ナイフを止めてみせた。


「ははは。ナイフを止めたのは異世界特性オリジナルなんかじゃないよ。ただ魔具を使っただけだよ。」


魔具?異世界転移者がどうやって使ったというのだろうか。


「気になる事があるなら聞けばいいじゃないか。意外とシャイなんだな君は。」

そう簡単に手の内を明かすとは思えないが、俺は情報入手を試みる。

「じゃあ聞かせてもらおう。なぜお前は魔具を取り扱える?そういえばエウルールが使った魔具もお前に反応していたな。」

「別に特別なトリックなんてないさ。なぜなら、私は。」


マキナが着いているということは、転移をしてきたという証拠になる。いや、そもそも何か根本的に違っているのかもしれない。


「そうだ。根本的に間違っているよ。」

「・・・な?!」

「なんだい?気づかなかったのか?さっきからずっと私が君の心を呼んでいることを。」


まさか、これが奴の・・・


異世界特性オリジナルだ。心を読める。便利だろう?」


異世界特性オリジナルが使えるということは、やはりこいつは異世界・・・


だ。君とは違って私は一度死んでいるのだ。」

「異世界転生・・・。異世界で命を落とした者を他の異世界に召喚する禁忌とされている儀式。」


マキナがそう語った。つまり、奴はということであろう。その結果、異世界特性オリジナルと魔具の両方を使う事ができる。ならば、”魔具が効かない”という噂は偽りということになるが。


「ちなみに、私にも魔具が効かないという噂も正しいよ。」

「魂の揺らぎ・・・。」


マキナは小さな声で独り言のようにそう言った。


「さすが純正マキナだ。その通り。魂の揺らぎが私には起きたのだ。」


俺が理解していないことを察し、マキナはその説明をはじめる。


「魂は原則一つの世界にのみ定着します。例えばシンが命を落とせば、その魂は元の世界に戻ります。なぜならあなたの魂は元の世界に定着しているからです。そして次の魂に作り変えられ次の命が始まります。しかし、異世界転生はそのルールを壊します。異世界から魂の召喚を行うことで、を生み出すのです。それが魂の揺らぎです。」


マキナは一呼吸を置いてから話を続けた。


「その揺らいだ魂は、所持者のに一時的に定着します。つまり、レイ・アルメリアが自分がだと認識すれば、魂はこの世界に定着し魔具が使用可能になり、だと認識すれば異世界特性オリジナルが使用可能になり魔具は効かなくなります・・・。」


それが支配者デューオと呼ばれている者の力。魔具も異世界特性オリジナルも自由に使う事ができる。すなわち、この世界の人間は彼女と対峙すれば一方的に攻撃を受けることになる。しかし、彼女の異世界特性オリジナルは心を読むものであり、同様に魔具が効かない異世界人に対しては攻撃性が薄い。つまり、勝敗を決めるのは物理的な戦闘能力の高さである。俺は奴の懐へ飛び込み、動きを封じようと決めた。


「まったく、物騒だな君は。女性に対して暴力を振ろうだなんて。」

「いくら心が読めたとしても、身体がついて来なければ意味がないだろ?」


拘束される時にカールに刀を奪われてしまっていたため、残された攻撃手段は・・・。ここで俺は瞑想状態に入った。


「おや?声が聞こえなくなったな。君はそんなこともできるのか。やっぱり厄介だな。君がいなければタクトだってもっと簡単に手に入っただろうに。」


レイの懐まで一気に距離を詰め、右手の親指を彼女の右目に突き刺そうとしたその時。かすかに開かれていた扉の隙間から声が聞こえた。


魔法妨害マジックコンフューズ!」


空気の塊はレイの脇を抜け俺の頬をかすめる。



扉の隙間からは、怒りの表情を俺に向けたタクトの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る