第11話 豪炎の少女

 シンと共にベティーナの部屋の前にたどり着く。シンは不服そうな顔をしながら扉をノックする。


「ベティ。俺だ。君に話がある奴がいるんだ。少しだけ良いかな?」


扉がおそるおそる開かれ、ベティーナが警戒しながらその姿を現した。


「シン、なんでその人と一緒にいるの?」


シンは焦りながら経緯を説明する。彼女に対してのシンの態度は極めて慎重であった。それは気分屋な彼女に対する気遣いというよりも、怒らせてはいけない相手へ細心の注意を払っているような・・・。

ベティーナは完全に納得している様子ではなかったが、シン同席のもと話は聞いてくれることになった。

俺はレイから受けた注意を思い出していた。


 -彼女は生粋の”異世界人差別者”だ。


下手に出れば焼き殺されかねない。今まで何度も異世界人であることを主張してきた俺は、既に彼女からは最大限の警戒を受けている。なるべく刺激を与えないように話を進める必要があった。


「えぇっと、話す時間をくれてありがとう。今回の一連の事件について色々聞きたくて・・・」


話を始めようとしたその瞬間、ベティーナが話を遮る。


「私は、異世界人に祖父を殺害されています。だから異世界人だと主張するあなたに信頼を置くことができません。それが嘘であろうと、真実であろうと。」

「わかった。それでいいよ。言いたくないことは言わなくて良いし、出て行って欲しいなら出て行く。ただ、君を含めてこれ以上犠牲者を出さないためにも事件に関係していそうなことは聞かせて欲しい。」


ベティーナの不信感を拭うことは無理であろう。それに彼女の親族の不幸に異世界人が関わっているようであり、なおさら慎重に質問をしていかなければいけない。


「じゃあ、一つ目の質問。エドが殺害された時に、君はなぜあのタイミングでエドの部屋を訪れたの?」

「・・・エドさんを呼びに行ったんです。エドさんが調味料を取りに行ってからしばらく戻ってこなかったので。エドさんの部屋に向かうまではずっと広間Aにいました。」


ベティーナは一切目を合わせずに答えてくれた。エドワードは魔具調合のプロフェッショナルであり、その調合技術は調味料の作成にも使われていることはカールから聞いていた。


「君がエドの部屋に行くまでの間、広間Aにいなかった人物は覚えている?その時広間Aにいなかった人物がエドを殺害した可能性も視野に入れたいから。」


「・・・。夕食の前だったので、全員が広間Aにいました。エドさんが部屋に戻る瞬間も、私がエドさんを呼びに行くときも全員がその場にいました。」


また謎が深まった。この事実から推測できる犯人は、俺か”外部の者”だけだ。エドが部屋に戻ってからベティーナが彼の部屋を訪れるまでは約10分ほどであったとのことだ。やはり、あのとき俺が見た謎の”影”は”外部の者”のものでありこの館の宿泊者の中には犯人がいないのであろうか。俺が記憶を探りながら”あの影”の特徴を思い出そうとしていると、横にいたシンに肩を叩かれる。


「おい、もういいだろう。」

「いや、最後にもう一つだけ聞かせて欲しい。ヨハンさんが殺害された夜は、どこにいたの?」

「・・・。この部屋です。」


ヨハン殺害の疑いは全ての人物にかかっている。なぜなら誰も自分のアリバイを証明できなからだ。そのため犯人はそれぞれ別に存在していることも考えられるが、殺害方法に統一感があるという疑問が残る。一応殺害動機があるか確認しようと質問を行おうとしたとき、先に彼女が口を開いた。


「あなたの質問に答えていて、やはりあなた以外に犯人がいないとあらためて確信しました。」


さっきまでうつむいていた彼女と目が合う。そして彼女の右手の人差し指にはめられている指輪から火花が散り始める。この展開はまずい。


「異世界人は、人の首を切ることがお好きのようですね。これは、天誅です。」


彼女が立ち上がろうとしたその瞬間、シンが静止に入る。


「ベティ!落ち着け。ここで”それ”を使えばこの部屋ごと吹き飛ぶぞ!」

ベティーナは目を見開き、怒りを飲み込むように抑え、俺たちは部屋からすぐに出て行くように指示を受けた。



彼女の部屋を出て、シンからは「もう彼女には関わるな」と言われた。

危うく焼き殺されるところであったが、それなりに収穫はあった。犯人が”外部の者”である確率が高まり、結界が貼られた後も同様の殺害方法での殺人が発生した事実から推測されることは、その”外部の者”がこの館にずっと潜伏しているということであった。


 俺は頭を整理するために一度自室に戻ることにした。自室の扉を開くと、そこには窓をぼんやりと眺めるマキナの姿があった。そのとき、ハッと一つの可能性に気付く。

まさか、”外部の者”って・・・?


「お帰りなさい、タクト。」



 シンと異世界人が退出し、自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

彼は、彼が犯人であることは明白であるのに、無駄な探偵ごっこをしている。なんとも不快であった。それに、あの殺害方法。

エドとヨハンの殺害現場と、心から尊敬していた祖父の部屋で見た最期の光景とが重なる。祖父も同様の手法で殺害されていた。あの現場にいた全ての者にアリバイがあり、残る可能性は異世界から”悪魔”が転移してきたということだけであった。完全密室の状態で極めて短時間で祖父の首が切り落とされていた。


「きっと、あの男がおじいさまも殺したんだわ。おじいさまの仇を、私が取らなきゃ。」


豪炎の少女は決意した。

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