第3話 影を追う

 最初の広間にいた6人全員で移動をする。俺はシンとレイに両腕を捕まれ連行されている。長い廊下を通りさっきまでいた広い部屋と全く同じ作りになっている部屋にたどり着く。唯一の違いはこの部屋のソファーには誰も腰掛けていないということだけであった。部屋の奥には暖炉を挟んで二つの扉があり、右側の扉には金色の獅子型のドアノッカーが施されており、獅子の鋭い眼つきはまるでこちらを睨みつけているようであった。レイは獅子が咥えているノッカーでコンコンと二度ノックをした。


「エーベルハルト殿。緊急事態故に報告をさせていただきたいことがある。入室の許可を頂きたい。」


レイが入室許可を求めてから数秒で返答がきた。


「入りたまえ。」


鍵が開く音が聞こえ扉が年季の入った音を立てながらゆっくりと開く。しかし扉を開いた者は見当たらない。部屋の広さは8畳ほどであり、部屋の外枠を囲む本棚の他には大きな書斎机のみがある。机に向かっているのは50代ほどに見受けられる男。


「君は初めて見る顔だな。こちらから招待をした覚えはないが、どこから湧いてて出てきたのだろうか。」


おそらくこの男がエーベルハルトと呼ばれるこの館の主であろう。堀の深い顔の整えられた髭が印象的であった。今更ではあるが、今まで出会った人たちはシンを除き皆外国人の容姿をしているが、しっかりと日本語を話している。まるで吹き替えの映画を見ているようだ。そんなことを考えているうちにレイは、エドが殺害されてから俺を発見・拘束し、事情聴取を行なったまでの流れをエーベルハルトに説明した。彼は少し考えた後に書斎机の引き出しに手を伸ばし、何かを取り出そうとする。


「まったく。他人様の家で面倒ごとを起こしてくれたな。ましてや殺人など、いかがなものであろうか。私はそんなことのために君たちを招待したわけではないのだがな。なんにせよ、何者かが嘘をついており、その者が犯人であることは間違いがない。」


エーベルハルトは不服そうに引き出しから取り出したロザリオのようなものを書斎机に置く。


「さて、ここにいる皆に問おう。この中にエドワード・ハルマンを殺害したものはいるか?」


エーベルハルトはロザリオをかざしこちらを睨みつける。当然ながら全員が殺していないと答える。しかしロザリオに反応は無い。


「・・・少なくとも君たちは”殺人は”行なっていないようだな。」


シンはこの結果に納得できず、エーベルハルトに詰め寄る。


「おい、その魔具壊れているんじゃ無いのか?どう考えたってコイツが犯人なんだ。」


シンは乱暴に俺を指差す。

「不可解なことが起きているのは事実であるがこの魔具は壊れてなどいない。これは裁判で使われる正式な一級魔具であり、その効果にも疑う余地はない。例えば・・・」


エーベルハルトは再びロザリオを手に取り、レイの前にかざす。


「君は私に疑念を抱いているな?心の底では信用していない。そうだろう?」


レイはそれを否定する。すると、ロザリオは暖かな光を放つ。おそらくこの反応が”嘘”を見抜いた際のロザリオの反応なのであろう。レイは咄嗟に社交辞令として否定したのであろうが、それは悪意はなくても”嘘”であることには変わりない。シンもレイもきまりが悪そうに肩をすくめる。


「では、侵入者よ。貴様は殺人を犯していないことは証明されたが、この館に許可なく忍び込んだことは事実であり、当然それは罪である。」


俺は、意図があって侵入したのではなく異世界からここに突然転移されてきたことを説明する。当然信じてもらえるわけもなく、エーベルハルトは呆れたようにため息をつく。


「愚かな言い訳を。どうせ貴様も私の保有する特級魔具を狙ったネズミの一匹なのであろう。今すぐにでも罰を与えたいところであるが、私も紳士だ。貴様に情状酌量の余地を与えよう。」


エーベルハルトは疲れ切ったような顔つきでゆっくりと足を進め俺の前に立つ。


「私は面倒事が嫌いなのだ。そこで君にチャンスを与えよう。エドワード氏殺人事件の犯人を捉え私の元へ連れてくるのだ。さすれば、不法侵入の罪は不問としよう。」


不可抗力とはいえ異世界転移してきたことを証明できない以上、俺はこの機会を逃すわけにはいかなかった。深呼吸をして頭の中を整理する。そして、エーベルハルトが「面倒ごとが嫌い」と言った理由に気付く。それは嘘を見抜くことができる「魔具」とよばれていたロザリオが証明してしまった厄介な事実である。この部屋にいる6人を見渡し、俺はその厄介な事実をつい声に出してしまう。


「この中に犯人はいない。」

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