千年の彼方

にぃつな

第1話

――空が青い。


――そう感じたのは初めて洞窟を抜けたころだった。

 当時の記憶は覚えていない。


 色も光もない。冷たくて凍えるような寒い場所で目が覚めた。


 音がわずかに聞こえ、その音を頼りに進んでいた。


 気づけば、洞窟の外にいた。

 アクアブルーの髪をした女性に抱きかかえられ、どこか知らない場所へ運ばれていくのを最後に――真っ白になった。


「――記憶処理?」


「ええ。とても重要なことなの」


「どうしてそんなことを…?」


「あの子にとって残酷な現実を知られたくないの」


「正直言って。これは正しい選択だったのかい」


「私はそうだと信じたい。なぜなら――」


 少年を病院に送った後、あの洞窟を調べに戻った。

 洞窟の中で見てしまったのだ。


「グリッド。みんながそう言っている異形の仕業。しかも、どういうことなのかあの少年ただ一人生き残り、グリッドは全滅していた。こんなことを政府の人や組織の人たちに知られたくないの」


 グリッド。恐るべき異形の怪物。

 人間の姿に変え、日常生活に溶け込み、人を油断して襲い掛かる怪物。


 一部の人間だけが駆除方法を知っている。

 それが解剖(シャクレス)組織が発明した魔術(ユクロ)。


 あの子のことを知られれば、いづれ組織の人間があの子を調べるために捕縛してくる。そうならないためにもあの子の記憶を処理し、洞窟の一連を『異形同士の争い・もしくは共食い』と報告することで少なくともあの子の監視が薄めればと思ってのことだ。


「あの少年は酷な時代に生まれたものだ。グリッドに解剖組織、魔術。あらゆる敵を回すことになるぞリセット」


 アクアブルーの髪をした女性はこう答えた。


「私は、あの子に託したいのです。私の研究すべてが赤の他人に奪われたくない。それに、あの子は私の研究に興味を持ってくれた。きっと、政府や組織に惑わされない強い子になると信じているから」


 リセットは希望に満ちていた。

 自分の余命があとわずかでしかないと悟りながらも、洞窟で手に入れたグリッドの死体(サンプル)とあの子についての詳細が、この世界にかかった呪いを解いてくれると信じて。


「バカな娘をもって後悔するよ。まあ、私も力を貸そう。いずれ、世界の不幸の種がばらまかれる前に対処する必要があるからな」


――この話は今から千年も前の話。


 少年がまだリセットたちの想いや世界にかかった呪いのことなんて知らないまま、時が過ぎ、そして少年は再び目を覚ました。


『おかえり、カナタ』

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