第11話
プロローグ 11
物語は、ほんの少しだけ、時間軸を遡る事になる。
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「司令、海軍の輸送機が到着しました」
「来たか、どれ出迎えに行こうか。
例の奴さん、様子はどうだい?」
「はい、何ともありません。
極めて安定しています。
このままトンネルの中で住むつもりなんでしょうね。
水が切れるか、非常食が尽きるか、どちらかでしか出てこないと思われます」
「そうか、じゃ合格だな。
出てきた時が面白いな、軍曹。
ごねるかな、彼は?」
「どうでしょうか。
心理特性から考えて、憤りはするでしょう。
しかし、ごねるまではいかないと思います。
まずは、問い出されるでしょうね。
答えが不味かったら、ごねられる可能性が高いと思います」
「ほう、君も私と同じ考えか。
では、どうすればいいと思う」
「簡単です。
正直に言います。
君の安定性を測るのが目的だと。
そして、君は君自身の安定を証明した、極めて優秀だと。
追い打ちに、日当プラス陸軍考査協力金が出ると。
そして、それは面接が終わって初めて支払われると ・・・・
たぶん、それで片が付くと思います。
札束で引っぱたくわけじゃないですが、
思っていた以上の金が手に入るとなれば、人間は憤りを忘れる物です」
「ふふふふふ。
君もあれだな、えげつない言い回しをするものだな。
今も昔も金の無い学生にとって、あの検査は良い臨時収入だからな。
まあ。なんだ。
トンネルから出た後の検査、しっかり頼む。
医療処置が必要な場合はすぐに対応を、そこに躊躇いは不要だからな。
その可能性は小さいと考えるが、万が一を考えると入院処置等すぐに対応を」
「はい、その点は十分注意します。
では、
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403駐屯地の滑走路全域が、まるで昼間のごとく煌々と照らされていた。
そこが真昼の様に明るく照らされるのは久々だった。
通常であれば、年一回の統合演習の時ぐらいにしか夜間全面照明なんてすることはない。
それ故に滑走路の全面を明るく照らす照明、その明かりのきらびやかさはこれから到着しようとする大型機を正に歓迎しているよという意味を含ませるのに成功していた。
予定時間になった。
管制官が進入誘導灯を点灯させていく。
進入誘導灯が、華やかに点滅を繰り返していく。まるで、大切な大切なお客様を誘うように。
やがて、遠くからゴウというエンジン音が聞こえてくる。
その音は次第に大きくなり、エンジン音を轟かせて、それがやってくる。
それは海軍の輸送機だった。
銀色に輝く機体に夜間航空灯が美しく映えていた。
銀色の大型輸送機が、ゆっくりと降下してくる。
初めての訪問なのに、何回も到着しているような規定通りの正確さで着陸態勢に入っていた。
滑走路に滑らかに進入してくる。
きらびやかな照明の中、いかにもベテランの操縦と思わせるような滑らかさでの着陸だった。
着陸態勢から双眼鏡で監視している管制官がうむとばかりに頷き、まるで操縦教本に記載されているかのようなみごとな着陸になっていた。
銀色の機体が滑走路を照らしている照明を身に受けて、待機している地上整備員の眼を奪う。
それほど美しかった。
「銀色の鳥が舞い降りた」
管制官がそうつぶやいた。
陸軍403駐屯地の付属飛行場が一気に活気づいていく。
久しぶりにやってくる海軍の輸送機、しかも新型の大型輸送機。
いつもより気合いを入れて、地上整備員が誘導を開始する。
地上整備員の誘導で指定された駐機場へと、しずしずと機体を進めていく。
大型機を誘導している地上整備員の指図の動作がゆっくりとゆっくりと変化していく。
その6機のエンジンを持つ大型輸送機は整備員の動作に同期して、地上移動の速度を低下させていく。
整備員の動作が止まり、走行停止を意味する動作へと変化した。
大型機に制動が掛かり、その銀色の巨体が停止していく。
整備員は大型機が完全停止したのを確認すると、エンジン停止の動作指示へと移行する。
その指示の通りにエンジンの停止操作がなされて、6発のプロペラの回転が見えるようになっていき、そして停止する。
プロペラの停止を確認した整備員は、無事誘導終了の動作のあと、その大型機のに向かって歓迎を意味する敬礼をしていく。
大型機の機長が窓越しではあるが、整備員に答礼を返していた。
機体が完全停止すると、待機していた整備員が駆け寄り機体点検をしていく。
初めての6発エンジンの機体、物珍しさもあり非番の整備員まで出てきていた。
タイミングを計り、待ちかねていたかのように燃料給油車がゆっくり近付いていく。
所定の位置で停止して、燃料給油の作業許可を管制室へ申請となる。
作業許可は直ちに下ろされる。
係員が給油口の確認の後、大型機から申請のあった量の燃料が給油されていく。
それらの整備員の一連の動作は、通常時よりもきびきびとした動作になっていた。
「司令 ・・・・・・ デカいですね。
海軍はたった一人の移送に、わざわざこの
「うむ、間違いなく海軍の新型機だな。
特七式輸送機だ。
帝国初めての6発輸送機で、かつ、帝国初の戦略輸送機になるな。
私も写真でしか見たことない。実物を見るのはこれが初めてだ。
機体番号末尾が ・・・・ 3 だな。
おいおい、新造の3番機をわざわざ用意か。
海軍も太っ腹だな。6発機だから、連絡機6機分の経費が掛かるぞ。
このでかぶつ、海軍での運用が先になる。
まあ、悔しいとは言わんが、うらやましいのはホントだな。
まさか、陸戦隊での運用かな。
陸戦隊ならば、たぶん、物騒なことをを考えているぞ。
間違いなく空中投下による機動戦術になるな。
これを導入する事で、海軍陸戦隊の即応能力がますます高くなる。
陸軍もぼちぼちしてられないな。
改良されて
まあ、3年ほど先の話だな」
大型機の後部にある大型の貨物扉が動作していく。
普通ならば搭乗扉に移動階段車が取り付き、そこから乗組員が出入りするのだろが、この大型機は後部貨物扉がそのままスロープの様に地面にまで届き簡単に出入りできるようになっていた。
乗組員が全員降りてきた。海軍機が陸軍の駐屯地滑走路に着陸する。めったに無いわけじゃないがほとんどない。
その時には、駐屯地司令に乗組員が挨拶するのが慣例になっていた。
緊急の要員輸送だった為に駐屯地司令は歓迎の意を込めて、滑走路に出迎えの為に足を運んでいる。
互いに敬礼を交わし、403駐屯地司令は降りてきた搭乗員にすぐ声を掛けていた。
「ご苦労。 403駐屯地司令のシュトックだ」
「機長のマーリン中尉です。
彼は操縦士のウバング少尉です。
そして航空機関士のラロシュ少尉です。
運行途中で、緊急の要員移送の連絡を受けてまいりました」
「この大型機にたった3人なのか。
すごいな、事前の連絡で搭乗員は3人と聞いてはいたが、このデカいのをたった3人で飛ばせるのか。
普通の連絡機が来るものとばかり思っていたからな。
このくらいの大型機ならば、航法士に通信士が必要だろう。
普通に考えれば5・6人で飛ばすと思う。かなり自動化されている訳だね、この新型機は。
私も初めて見る、機長、すまんが機内を見せてもらってよいか」
「ええ、だいじょうぶです、司令殿、どうぞ、見てください」
「はぁぁ、貨物室まで与圧されているのか。高高度域を飛行できる性能を持っているのか」
「はい、試作の初号機はなんと、約13000カール(約1万1千メートル)を超えてまで飛行しています。
空荷での記録ですけどね。最大重量を入れた場合は、当たり前ですがずっと下がります。
実用域高度なんかはすいません。軍機ですので・・・・・
こいつが凄いのは貨物室を含めた機体全体も与圧できます。
操縦室回りは独立して完全与圧されています。
ヒーターなど空調は完璧です。
だから、従来の航空防寒服、高高度飛行服は不要になりますです。
高高度飛行服の、あの操作の面倒な酸素マスクとボンベ一式が無くなるだけも搭乗する者にとっては楽になります。
平服でそのまま搭乗可能です。
これが本機の最大の特徴です。貨物室に完全装備の兵士をそのまま搭乗させる事ができます。
操縦室と貨物室は機密隔壁で分離されています。貨物室は通常は与圧されていません。搭載物によって与圧非与圧を切替となります。
だから、何を入れるか、それで気密するかしないか、決めることができます。
緊急時のみ、その気密隔壁扉から貨物室へ出入りします」
「ほう、操縦席と貨物室は完全分離か、もし、気密扉を開くと気圧が下がる、対処はどうするのかね」
「はい、当然、酸素マスクを付けます。操縦席には緊急時の酸素マスクが常に使用できるように準備されています。
通常、機関士が気密扉を開ける事になりますので、機関士は移動用酸素マスクをつけることになります。
3種類ほど気密の仕様が想定されているようです」
「これが陸軍仕様になると、たぶん、与圧は無くなるだろうな」
「人員輸送専用仕様ならば、それこそあっという間に小隊規模の兵を搭乗できますよ。
陸軍さんの方が人員輸送専用機が必要なんじゃないのですか」
「難しいな、
汎用性・簡便性がすべてに勝る、不要な装備は削れとね。
その辺は民間よりも徹底している。
徹底して簡便化して安く仕上げろ、そして数を用意しろとね。
これが徹底されるからな。
海軍さんは兵員輸送専用機を計画しているのか。
その話は羨ましい限りだ。
たぶん、戦略爆撃機開発に血道を上げるな、間違いなく。
まあ、私の連隊には関係ない話だ。
これを用いた師団規模兵員輸送計画なんて、まっぴらごめんだな。
間違いなく大戦規模になる。
すまん、しゃべりすぎた。
機長、時間の方はどうかな、余裕はあるのかい?」
「司令官、申し訳ないですが、時間がありません。
燃料補給と移送要員が搭乗すれば直ちに進発せよと命令されています」
「そうか、残念だな。
休憩室で美味しい茶でもと思ったがな。
あと少しで、
それと今回の
どのくらい時間か掛かるか、一切情報を与えないでくれ」
「はっ? どんな乗客なんですか」
「実は参軍応募者で、特別召集に切り替わると思う。
つまり
君たち海軍が何が何でも必要とする人物だ。
本人は11ヶ月の教練で済ますつもりで参軍応募した訳だが、
まあ、嫌がると思う」
「しかも、予備検査に来て、
そして、そこから出てきたら、突然に飛行機に乗せられて
わかるだろ。話が違うって。
普通にごねられる。
ごねられたら困るからな。
どこへ行くか、どのくらい時間が掛かるか、運行に関する一切の情報を与えないように頼む。
出迎えの話はもう付いてるから、着陸したらすぐに
「そんな訳だからよろしく頼む。
それと弁当を用意している。
一応、客人饗応仕様の豪華弁当だ、旨いぞ、夜食として食ってくれ。
たぶん、上に昇れば耳が痛くなるから耳抜きを教えてやってくれ。
揺れてゲロをぶち撒かれると厄介だ。それの対応を頼む。
揺れは事前にこれから揺れるぞと言うだけで、ゲロ袋は不要になると思う。
あそこだ、マンリー山脈だ。
あの山を越える時にはしっかりと声を掛けてやってくれ。
あそこを超える時の乱気流は、初めてだとキモが冷える、わかるだろ。
だから、あそこの山越えはできるだけ声をかけてやってくれ」
「わかりました。 弁当ありがとうございます。
我々も運行途中、突然の命令変更でした。
こちらへ寄って何が何でも
それ以上の事は一切なかったです。
そういう事情ならば、乗客の件、きちんと対処します」
「そんなわけだから、うまく対処してくれ」
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