12話 この方が魔法を使いやすいよ

 シーナが再び無詠唱で魔法を使おうとする。


 ただ集中が乱れているようでまともに魔力が放たれていない。

 やっぱりいきなり試してみる……というのは難しいものがあったかな。


 まずは何かコツを掴んでくれたら、とシーナが放った魔法と呼べない魔力を調整して綺麗な形まで持っていく。


「あれっ、なんだかいつもと近い感覚……?」

「うん、少し魔力の調整をしたからそれで魔法を使ってみて」

「うんっ!」


 嬉しそうにシーナは魔法を使う。

 すると彼女の手から雷の槍が現れる。

 そして、それは真っ直ぐに飛んでいって、壁にぶつかると同時に消えていた。


「り、リーノ君……、今の……」


 シーナがまるで信じられないものを見た感じの表情を見せてくる。


「うん、ちゃんと成功したみたいだね」


 僕が微笑むとシーナの顔が次第に笑顔へと変わっていく。


「そっか……、私が無詠唱を……」

「ただ、今のは僕がサポートしたから。次は自分だけで挑戦してみるといいよ」

「うん、頑張るね」


 頷いたシーナは再び無詠唱の魔法に挑戦し始めた。


 すると、次はマシェが僕の服を引っ張ってくる。


「どうしたの?」

「私にも教えてほしいな……」


 マシェはもうほとんど使えているような感じだったから僕の力は必要なさそうだけど、何かわからないことでもあるのだろうか。


「どこがわからないかな?」

「……全部」


 まさかの回答に僕は思わずマシェの方を振り向いてしまう。

 するとマシェは顔を俯けて、一度だけ小さく頷いていた。


「マシェは出来てたと思うんだけどね。もう一度魔法を使ってくれる」

「……んっ」


 マシェが魔法を使ってみせる。


「…………」


 完全に詠唱を破棄することができないようで、少し魔法名が聞こえた気がした。

 そして、壁に向かって氷の塊が飛んでいった。


「だいぶ省略はできるようになったけど、完全に消すことはできなくて……」


 もう少しでできそうだとは思うんだけどね……。

 マシェが無詠唱をできないのはおそらく自分はできないものだと心の中で思っているからだろう。

 それが迷いになって無詠唱が成功しないのだろう。

 魔力にも少しだけ淀みのようなものを感じる。


「マシェは……」


 もっと自分を信じたらできそうだね――。と言おうとしたのだが、どこか期待の籠もった目を見せられていたのでためらってしまった。


 マシェは何か別のことを期待している?

 でも、僕にできそうなことは……。


 そこで先ほどシーナにした魔法の練習。それをマシェもして欲しいのではと思ってしまった。

 目を輝かせながら見てくるマシェ。


 やっぱりそうなんだ……。


 ため息を吐くとマシェの後ろに回り込む。


「特にマシェには言うことはないんだけどね。とにかく魔法を使ってみてくれる?」

「……うん」


 シーナほど動揺した様子はなく普通に魔法を使ってみせるマシェ。

 やはり初級魔法だと何も言うことはなさそうだった。


 ただ、マシェだったらもっと強い魔法も使えそうなのになんで初級魔法しか使っていないのだろう?


 少し疑問に思いながらしばらくマシェの魔法に付き合っていた。

 すると最終的に自信が持てたようで一人で無詠唱もできるようになってくれた。


「リーノのおかげ……」


 成功したときにマシェが嬉しそうに微笑んでくれた。

 その表情を見てなんだか僕も嬉しくなった。

「次は俺の番だな」


 いつもなら考えられないのだが、アデルが僕の前にやってくる。


 どうやら彼も無詠唱の魔法が使いたいようだ。

 もう詠唱自体は破棄できるのだから練習していけばできると思うんだけどね。


「えっと……、アデルもつきっきりで練習するの?」


 一応聞いてみると、その瞬間にシーナとマシェが睨みつけていた。


「いやいや、俺は教えてくれるだけでいいぞ。本当なら俺だけでやってもできるんだけどな。一応聞いてやる」


 腕を組み、そっぽ向くアデル。ただ、耳だけは僕の方に傾けているようで、そわそわした様子を見せていた。

 知りたいなら素直に聞いてくれたらいいのにね。


 苦笑を浮かべながらシーナやマシェにしたようにアデルにも詠唱破棄のやり方を教えてあげる。

 その結果、まだ完全にはできないもののかなりの部分を省略できるようになっていた。


「今日のところはこのくらいだな。みんなもう魔力が少なくなったもんね」


 僕がさっと感知した感じだとシーナとアデルがほぼ魔力を使い切っていた。


 まだやりたそうな感じだったけど、魔力が尽きたら魔法が使えないわけだし仕方ないよね。

 魔力回復ポーションがあれば回復できるんだけど今は手元にないもんね。

 ただ、使い道はありそうだ。作っておくのも良いかもしれないね。素材は町に行けばかえるだろうし。

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