11話 訓練場だから壁を壊したとしても元に戻るんだよね
「あれっ、シーナ?」
授業を受けていたはずの彼女となぜか廊下ですれ違う。
「リーノくん、ちょうどよかった。探してたんだよ。急いで来てくれる?」
「うん、大丈夫だけど……」
僕から頷いたのを見るとシーナは腕を掴んで引っ張ってくる。
そして、やってきたのはダンジョンがある地下室だった。
「ここがどうかしたの? みんな訓練してたよね」
「それがアデルが変なの」
「変?」
彼をじっくり見てみるが、特に変わった様子はないみたいだった。
「ふふふっ、俺が突然強くなったことを言ってるんだろう? 当然俺の才能……」
あぁ、どうやら昨夜特訓して詠唱破棄ができるようになったことを言ってるようだった。
今朝、僕には話してくれたが他の人には話してなかったんだ……。
「そうだね。必死に特訓してたら出来るようになることだもんね」
「いやいや、この俺が特訓なんてするはずないだろう」
髪をかきあげながら否定してくるアデル。
「むぅ……、アデルばっかりずるいの。……私も特訓して欲しい」
マシェが僕の腕にしがみついてくる。
「い、いや、僕は特に何もしてない……」
「それなら私も一緒に教えて欲しいな」
シーナもにっこりと微笑んできて僕に逃げ場はなくなってしまう。
◇
「それじゃあ魔法の特訓をするよ」
僕達は訓練場にやってくる。
なぜか先生役に僕がみんなの前に立っていた。
僕の前にはマシェとシーナ、そしてアデルがいた。
「えっと、アデルも教えたら良いの?」
「もちろん、君に教わったら俺ももっと優雅に魔法が使えるようになるだろう?」
優雅……? それはどうかわからないし、うまく教えられるか不安だった。
「まずは詠唱破棄の仕方だね。アデルとマシェは分かってると思うけど、まずはいつもと同じように魔法を使おうとしてみて」
実際に手に魔力を溜めてみる。
「それで、次に使いたい魔法をしっかりと意識して、魔力を放つ」
壁に向けて火の魔法を放ってみる。
ドゴォォォォォン!!
壁に触れた瞬間に大爆発を引き起こして、その一部が脆くも崩れ去っていた。
でも、ここは訓練場だから壊したとしてもすぐに元に戻るんだよね?
そうでないととても魔法の練習なんてできないもんね。
壁の方を気にすることなく僕は三人の方へと振り返る。
ただ、三人は口をぽっかりと開けていた。
「訓練場の壁って魔力抵抗の強い素材で作られてるから壊せるはずがないのに……」
シーナがぽつりと呟く。ただ、それは僕の耳までは入ってこなかった。
「こんな感じで実際にやってみると良いよ」
「……私がしてみる」
まずはマシェが前に出る。
そして、手に魔力を込めてグッと力を加える。
「ふぁいあ……」
詠唱を唱えようとしてしまうが、途中でなんとか堪えてそのまま魔法を放つ。
しかし、イメージが不完全だったのか、出てきたものはふわふわとゆっくり動く火の玉だった。
「……やっぱり詠唱しないと難しい」
悔しそうに口を噛みしめながら一歩後ろに下がるマシェ。
「それじゃあ次は俺が行くよ」
自信たっぷりにアデルが前に出てくる。
「要は普段使っている魔法と同じように使えば良いんだろう? 簡単じゃないか」
アデルは詠唱を唱えようとせずに魔力を放った。
しかし、それは魔法の形すら作ることがなく、魔力の固まりがただ出てきただけだった。
「な、なぜだ!?」
「……詠唱が魔力を操作しやすくしている。詠唱をせずに魔法を使うならしっかり魔力操作をしないと難しい」
マシェがアデルに説明してくれる。
ただ、アデル以上の問題児もいた。
「うー、全然でないよ……」
シーナが険しい顔をしながら手だけを前に突き出して唸っていた。
「うー……。天を穿つ雷よ、大空より来たりて、かのものを薙ぎ払わん。
唸りをあげた結果、普通に魔法を放ってしまうシーナ。
しかし、その魔法も集中を欠いた今の状態だとまともに発動せずに槍の形を保っていない雷が周囲に撒き散らされる。
「危ない!」
マシェやアデルに対しても降り注ぐ雷。
慌てて防御魔法を使い、二人を守る薄い壁を出す。
その壁によってシーナの雷は防がれる。
「シーナ、魔法を止めるんだ!」
アデルが声を上げるが、シーナは慌てているだけで魔法の制御が付いていない様子だった。
慣れない詠唱破棄を使おうとしたから普通の魔法にも影響したのだろうな……。
苦笑しながら僕はシーナへと近づいていく。
「だめっ、リーノ君! 危ないよ」
シーナが注意してくるが気にせずに彼女へと近づいていく。
襲いかかってくる雷は軽く手で払いながら……。
そして、ようやくシーナの前までたどり着くと彼女の手をそっと握りしめる。
するとシーナが驚きの表情を浮かべる。
それと同時に彼女が使っていた魔法が弾けて消えていた。
「ふぅ……、なんとかなったね……」
シーナに微笑みかけると彼女は目を潤ませながら抱きついてくる。
「リーノくーん。ありがとー」
「無理したらだめだよ。僕が後ろに付いてるから一緒に練習しようか」
また暴走されては困ると僕もシーナの背中は回ると後ろから手を取る。
「り、リーノ君!? わざわざ掴まなくても……」
シーナは顔を真っ赤にして慌てふためく。
「この方が魔法を使いやすいよ。それじゃあ早速使ってみよう」
「う、うんっ」
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