6歳のSランク冒険者だけど、普通の学園生活を送ります
空野進
1話 ワイバーンは弱い魔物だよね
漆黒のドラゴン――Sランク級モンスターで黒龍王と呼ばれるドラゴンが目の前で咆哮をあげている。
このドラゴンは周囲に被害を及ぼしながら僕のいる町へ向かって来ていた。
並の冒険者グループがいくつも挑んだが、倒すことができずに、僕に白羽の矢が立ったのだったが……。
ちょっと強そうだね……。
相手がSランクの魔物ということもあり、僕は少し強めの炎の魔法を使った。それでも倒しきれないと思い、次の魔法も準備しながら……。
しかし、僕の予想は外れてしまう。
「あ、あれっ?」
炎の魔法を受けたドラゴンは跡形もなく燃え尽きて、あとに残ったのは尻尾だけだった。
えっと……これで討伐の認定されるのかな?
まさかここまで弱い個体だと思わなかった。さすがに魔法一撃で……、それも跡形もなく燃え尽きるとは思えなかった。Sランクの魔物……というのも過大評価なのかも。
「よし、今日の依頼もこれで終わりだね」
残っていないものは仕方ないので、僕はドラゴンの尻尾を担ぐと街へと帰っていく。
◇
夕方過ぎになり、ようやく街までたどり着くとそのまま冒険者ギルドへと向かう。
何度も通い慣れた道なので迷うことなく、ギルドへとたどり着く。
酒が描かれた木の看板が目印の冒険者ギルド。
その中へ入るとざわついていた店内がピタッと静かになる。そして、僕が通る道を空けてくれる。
「リーノくん、もうお帰りになったのですね。それが依頼の?」
「えぇ、ドラゴンの尻尾です」
カウンターの上に置くと周囲がざわつき始める。
Sランクの魔物は珍しいのかな。
「間違いなく、依頼の黒龍王の尻尾ですね。ただ、その……他の素材はどうされたのですか?」
心配そうに聞いてくる受付のお姉さん。
「それが完全に燃え尽きちゃって……。弱い相手だったみたいで。討伐の認定は大丈夫ですか?」
「あっ、はい。それは大丈夫ですけど、あの黒龍王はSランクの中でも上位に位置する魔物なんですけど、それが弱い……ですか。さ、さすが世界で十人しかいないと言われるSランク冒険者ですね」
少し呆れた表情を浮かべるお姉さん。
「それに普通はSランクの魔物だと複数の冒険者パーティが相手をするものなのですよ……。今回も一応他のSランクやAランクの冒険者達を複数呼んでいたのですけど……。いえ、リーノくんが悪いわけじゃないんですよ。そ、それじゃあ冒険者証を出してください」
お姉さんに言われたとおり、カウンター上に冒険者証を置く。
そこには金色の文字で『Sランク』という文字と僕の名前である『リーノ』という文字が大きく描かれていた。
「確認できました。もっともリーノくんは間違いようがないんですけどね。では依頼達成の報奨金を持ってきます」
慌てた様子でお姉さんが奥に向かっていく。
待っている間、僕は周りの人の話に聞き耳を立てて待つことにした。
「おい、本当にあんな小僧がSランク冒険者なのか?」
「あぁ、この街じゃ有名な話だぞ」
「とてもそうは見えないんだが……」
「お前も聞いたことがあるだろう。六歳のSランク冒険者、それがあの子だ」
「でも、ドラゴンが尻尾しか残らないなんて……」
「しかも、あいつ、燃やし尽くしたと言ってたぞ。ドラゴンって普通、炎に耐性がなかったか?」
僕の話題で盛り上がっているようだった。Sランクになりたての頃はそれが嬉しくもあり、照れ臭くもあったが、今では慣れたもので少し口元が緩む程度になっていた。
仕方ないよね、褒められて嬉しくない人はいないんだし。
「リーノくん、なんだか嬉しそうですね」
お姉さんは大きな袋包みと手紙を一枚持ってきた。
「まずこちらは報奨金の金貨十枚です」
金貨十枚もあれば小さな家は買えるほどの額だ。ただ、ありすぎても邪魔になるんだよね。
僕は空間魔法を使い、その中に金貨をしまい込む。
今どのくらい入っているかは僕には予想がつかない。
「で、こちらがリーノくんの手紙みたいです。なんだか渡して欲しいと頼まれたみたいで……」
手紙を受け取って首をかしげる。
わざわざ手紙を送ってくる相手に僕は心当たりがなかった。両親は僕が物心ついた時にはすでにいなかった。だからこうして六歳であるにもかかわらず冒険者なんて危険な職業を行っている。
ただ、僕に戦闘の才能があったようでみるみるうちに気がつけば冒険者の最上位、Sランク冒険者と呼ばれる存在になっていた。
でも、冒険者パーティを組んだこともなく、ずっとソロで活動してきたので、そう言った面でも誰かから手紙をもらうなんて考えられなかった。
その手紙を開き、中身を読んでみる。
「えっと……、リーノ殿、あなたの素質を見込んでライゼンフォルト学園の入学を許可します……学園?」
「ライゼンフォルト学園ですか。そういえばリーノくんももう入学できる歳になったのですもんね」
「入学できる歳?」
「あっ、聞いたことないのですね。ライゼンフォルト学園は通常六歳から十二歳の間で素質のありそうな子に入学許可を出すんですよ。だからリーノくんはちょうど入学する権利を得たところなんですよ。まぁ、Sランク冒険者のリーノくんが学園に行ったところで学ぶことなんて何もないですよね」
苦笑を浮かべるお姉さん。
六歳から十二歳……つまり僕と同じ歳くらいの子がたくさんいる。学園かぁ……。
いつもは冒険者の人かギルドのお姉さんしか相手をしないから興味はあるかも。
「よし、僕、このライゼンフォルト学園に行きますね」
「はい、では私の方から断って……えっ!?」
お姉さんは僕が断る前提で話を進めようとする。
「だ、だって、学園に行ってもリーノくんが学ぶことなんて何もないですよ?」
「同世代の人と暮らしてみるのは悪くないかなと思ったんですよ」
「で、でも、リーノくんがSランク冒険者だってバレたら距離を置かれますよ。学園に行く子はせいぜい入りたてのEランク冒険者レベルなのですから」
そうなるのは少し嫌だな……。
「わかりました。じゃあ僕がバレないように過ごせばいいんですね。教えてくださってありがとうございます。僕、この学園へ行ってみますね」
「あっ、ちょっとまって。リーノくーん」
僕はお姉さんの制止をよそにギルドを後にした。
◇
能力をバレないように……だね。そのくらい簡単だよ。あまり強い相手を倒さなければいいだけだもんね……。
町の外を鼻歌交じりに歩いていく。
わざわざ依頼を受けなかったらそんな強い相手、自分から倒しに行かないし。
えっと……ライゼンフォルト学園は……ここから山を三つほど越えた先かな。まぁ飛行魔法を使って飛んでいけば朝までには着くかな。
空を飛ぶとそのまま学園へと向かって飛んでいく。
途中でワイバーンの集団と遭遇したが、まぁ軽く倒しておく。
黒龍王みたいなSランク級の魔物と違い、ワイバーンはせいぜいBランク。片手間で倒せるくらいの弱い魔物だもんね。
◇◇◇◇◇
「えっ、ワイバーンが大量に出現したのですか⁉︎」
満身創痍の冒険者が話した内容でギルド内がシーンと静まり返る。
ワイバーンは一体だけならBランク級の魔物なのでギルド内の冒険者が総出で対応すれば対処できる。
ただ、それが大量に襲ってくるとなったら討伐ランクは跳ね上がる。
Aランクパーティが複数かSランクパーティで対処してなんとか倒せるレベルの相手だ。
今ここにリーノくんがいるなら即依頼を出すような相手なのだけど……。
彼はすでに学園へ向かって旅立ってしまった。
たった一人でSランクの魔物を無傷で倒せるような規格外の存在……。本当なら彼が行くのを止めたかったのだが、そんなことできるはずもなかった。
「とりあえずこの街にいる全冒険者に連絡を。緊急依頼です! 幸い、こちらにSランクとAランクの冒険者達が向かっている最中なのでそれまで持ちこたえますよ!」
受付の女性は立ち上がり、大声で宣言していた。
◇
ただ、冒険者が集まるより早く彼女の元にワイバーンがすでに討伐されたという報告が届く。
そんなことが出来るのはSランク冒険者であるリーノくんを置いて他はいない。
「ははは……、リーノくん、全然能力を隠せてないですよ……」
彼の行為を苦笑しつつ、そのおかげで災害が回避できたことを心からホッとした。
そして、彼に聞こえないと分かりながらも呟いていた。
「ありがとう……、リーノくん」
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