第92話 チキンレース

「いや、おかげさまで、西崎は再起不能です。資材購入という名目で物に報酬を上乗せして支払います」だとか。「まさか、あの刑事崩れがここまでやるとは思ってなかった」とか、「フルタヌキを格安で販売する代わりに、天下茶屋の開発の事業に参入させろ」とか、はっきりとした証拠が得られた。


「いい奴だと思っていたが、残念な奴だったなあ」

安が唸った。

「これで充分ですよね」

松川が言った。

「だな。どうする?」

「ケツを引っ叩きに行きますか?」

安がそう言って運転席を出た。

「松川と五十幡はここで残っていろ」

そう言うと、安と2人で天ぷら屋に乗り込んだ。店員に

「済まない先にトイレを貸してくれ」と断ると、店内を見渡しながら藤澤を捜した。見つけだした。


「あっ、奇遇だな?藤澤さん?」

偶然を装言って話しかけた。

「何やってんだ、おまえら?つけたのか?」

山中と韓が「何者だ」という表現で見た。

「ハンナリマッタリーの空売りを仕掛けた副社長の韓、そして、ここにこんな録音機まで」

スイッチを入れる。

『いや、おかげさまで、西崎は再起不能です。資材購入という名目で物に報酬を上乗せして支払います』

録音機の声を聞いて、3人の顔が引き釣っていた。


「あの襲撃事件は藤澤さん、あなたが仕組んだことだったんだね。警察に行くしかないか」

「そんな音声だけでどんな役に立つというのかね」

「そうか。チキンレースを仕掛けるつもりか?」

「蛇喰、ここまてやるとは期待してなかったよ」

藤澤がそう言った。


「ありがたいね。期待されてなかったので伸び伸び出来た訳だ。では、取引をしよう。これが欲しければ、1000万払え」

「複製があったらどうする?」

「こちらも金を貰ったら恐喝になるので、貰った時点で我々も犯罪だ」

「わかった」

「大阪南港の蛇喰私立探偵事務所に20時30分に来い。金と録音機の交換だ。いいか、おしな真似はするなよ」

藤沢が言った。

「いいだろう」

安と一緒にカローラまで戻る。安が訊ねてきた。

「そんなに金に困っているのか?」

「いいや」

そう言うと、一旦大阪南港事務所に向かう事にした。


20時半までまだ1時間あった。大阪南港の蛇喰事務所に到着すると、安と松川、自分と五十幡という2手に分かれて、安と松川に向かいの木材事務所跡に潜ませる。何も起こらないことを祈っていた。


20時半になった。藤澤が単独でやって来た。待ち合い室のドアを開け、中に入ってきた。事務室で向かい合わせになった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る