第68話 退院
「相手はトカレフを持っていたんだ。拳銃3丁に対しておまえは素手だ。これが過剰防衛になるのか?おまえ以外なら、とっくに火葬場に送られているよ」
「やっぱりそうか」
「さすがだよ。蛇喰。おまえが退職したのは惜しいと思っている。しかし、組織から逸脱したおまえは、やはり俺たちの仲間じゃない。結局、おまえは警察組織にはハマらなかったのだ。普通は、外れないわけだから。言うなれば、仲間から外れる事は社会から、組織から逸脱した敵みたいなもんだ。反乱分子として捉えられかねない。まして、馴染めなかった組織を離れて、警察の真似事のような私立探偵をしている。何故、組織を離れたと思われても仕方がない」
「そうだな。小言を聞きすぎて頭が痛くなって来た。少し寝かせてくれ」
そう言うと、頭に衝撃が走らないように白石に背を向けた。
「また何かわからないことがここに来て訊ねていいか?」
「警察に協力するのは、国民として当然だからな。いいぜ」
そう答えると、白石は席を立ち病室を出て行った。代わりに安が入って来た。
「アイツら帰って行ったぜ」
「そうか」
そう答えながら、体の向きを変えようとした。またもや頭に衝撃が入る。そしてゆっくりと上体を起こした。
「な、何やってるんだ?」
安が、細い目を見開きながら訊ねた。
「外出するんだよ」
「何を言っているんだ?頭打っておかしくなったのか?意識が目覚めても、そこから24時間絶対に安静だと医者から言われてる」
「いつまで寝かせてるつもりだ?看護師を呼んでくれ」
「蛇喰さん、あんた、以前から何処かクレイジーな所があるなあと思って来たが、驚かされるよ。全く」
安が慌てて病室を出ると、ナースステーションに向かった。いつパジャマに着替えさせられたんだろう?そう思いながら、パジャマを脱いでみた。頭痛の衝撃は徐々に収まり始めていた。安が看護師と一緒に戻って来た。
「看護師さん、退院するよ。こんな所に長くいたんじゃ病気になっちまう」
それを聞いた中年太りした看護師は、声が裏返りそうになりながら言った。
「そんなの無茶よ。24時間絶対安静なのよ」
「わかっている。しかし、この病院は、患者の意向を無視するところなのか?」
看護師が困り果てた顔をした。安もそのやり取りを見ていたが、こちらが決めたら絶対そうするのだろうという様子で何処か諦めている様子だった。
「まずドクターの指示を仰ぎましょう」
「ありがたい話だが、出ると決めたんだ。他の意見を言われても承知出来ない」
看護師が、ベッドの側にあったナースコールを押して他の看護師を呼んだ。何とか床に左足を下ろした。必死になりながら右足を下ろす。頭に激痛が走った。まるで体が自分の物ではないみたいだった。もう1人の看護師がやってきた。
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