開かれる扉

第66話 再会

周りは真っ白で、雲の中にいる気分だった。

誰かに見守られ、声が聞こえていた。それは何か優しい気分にさせ、何か花園の上を横たわりながら母親から子守唄を聞かされ眠っている気分だった。

「蛇喰さん!蛇喰さん!」

その呼びかけに目を覚ますと、安がこちらを覗き込んでいた。正直に言えば、目覚めから直後に見たい顔ではなかった。


「こ、ここは何処だ?」

知らない間にベッドの上で眠っていたらしい。頭を動かそうとすると、首筋から激痛が走った。

「痛っ!」

「大丈夫ですか?無理をするんじゃない」

頭を戻すと、ここは病院のベッドの上だと気付いた。

頭と首を出来るだけ動かさないようにして目だけを動かし安の姿を追った。


「一体どういう事なんだ?」

安に訊ねる。

「一昨日の晩、南港の探偵事務所が3人組に襲われた」

「ああ。そう見たいだな。事務所内からトカレフ3丁が見つかった。そしてそこには、血だまりが事務室で2箇所みられた。蛇喰さん、始めはあんたの血かと思ったが、怪我をしていないのでそうではなかった。蛇喰さんは丸腰で侵入者と戦い制圧した。事務所にパトカーがやって来たのを恐れ、侵入者たちが事務室から逃げ出した。それを追いかけてあんたは、外に飛び出した所を棒切れで何者かに後頭部から殴られ気を失った」


「そう言う事か。最後が気に食わないな」

「玄関先で倒れているのを警察が発見し、あんたはここに担ぎ込まれた。あんたのスマホが繋がったままなので、犯人とのやり取りが録音されている。西崎社長のボディガードは、松川と五十幡の2人に頼んでいる。あんたはそこから病院で丸1日寝てたんだよ。良く無事だった」


少し安の方に頭を傾け答えると、頭の上の方から怒鳴るような聞き覚えのある声が聞こえて来た。

「おまえは何だ?俺たちが、暇だと思うから、こんな厄介な事件ばかり起こすのか?」

犬神優だった。大阪府警の看板があるからこそ生きていける男だ。

「あんたの世話にだけはなりたくないと思って活動しているんだが、何でここにいる?こちらのケツでも追って来ているのかい?」


「何だとぉ!」

犬神が憤どおった。安が間に入って止める。

「よせ、よせ。相手は怪我人なんだぞ。何を考えてるんだ?」

「犬神、安君の言う通りだよ」

白石の声が聞こえた。こちらからは姿は見えないが近くにいるらしい。白石は、丸椅子からゆっくり立ち上がるとベッドに近づいた。


「トカレフ3丁、素手でよく防いだな。血だまりが2つ室内に違うDNAが見つかった。1つはおまえの持つ包丁に付着した血の男は、台所付近でかなり出血しているようだ。一致した。室内に何人いたかは知らないが、パトカーのサイレンの音に驚き逃げた犯人をおまえは追いかけた。ところが外で待っていた男に殴られて、失神し玄関先で倒れたんだ。最後がお粗末だな」

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