第65話 トカゲの尻尾切り
「その男の連絡先は、わかっているな?」
介抱男がまたもや頷いた。
「電話しろ。今すぐだ。そして、電話に相手が出たら代われ」
介抱男は、携帯電話を取り出し電話をかけると中国語で何かを言っていた。
「電話、代わりますか?」
突然、こちらに向き直ると日本語でそう訊ねた。
「ああ。スピーカーフォンにして前に立て」
介抱男がスマホを親指と残り4本の指で挟みながらゆっくり立ち上がって来た。
「蛇喰だ。おまえは何者だ?」
「さすがだね。蛇喰さん」
中年の男の声がスピーカーフォンを通して聞こえて来た。
「簡単に制圧してしまいましたか。驚かされますね。あなたには」
「おまえは誰だ?言わなければ、侵入者の1人の鼻を削ぎ落とす」
「ま、待ってください。あなたが、陳伶を殺したんじゃないでしょうか?彼女は、私のおてんば過ぎる女の子だった」
「誰だ?」
「昨日のKawasakiのNinjaに乗っていた女性。覚えているでしょう?あなたが殺しました。何で殺した?」
「おい、待て。最初に襲撃して来たのどっちだ?」
理不尽な理由に憤った。
「蛇喰さん、日本刀でベンツが切れますか?あなた、バカなのか?私たちは、ただ脅しただけ。それに対して過激に反応したのは、そちらじゃないか?!」
「何だとぉ!脅しが効きすぎて事故を起こす原因になったとしたらどうするんだ?」
「でもあなたたちは、死んでない。陳伶は死にました。あなたたちに殺されました」
「だがな‥‥.」
そう答えている最中に、遠くからサイレンの音が聞こえて来た。何かを答える前に介抱していた男が慌てて電話を切ると、ズボンのポケットの中に押し込んだ。そして鼻血を出している男に中国語で何かを話しかけると、すぐに立つように指示を出したのか、腕を盛んに何度も引っ張って立てと言っているようだった。鼻から流れ出た血が濃く塊り始めた男が、涙目になりながら何度か目にやっと立ち上がった。
パトカーのサイレンがどんどん大きな音になるにつれ、今度は後ろから首に腕を回した男が暴れ始める。
「よせ、動くな。鼻を切り落とす事になるぞ!」
鼻の横が切れて鮮血がほとばした。男が暴れため、包丁が鼻に触れてしまったのだ。一瞬、驚きの余り、腕に回した手を緩めてしまった。奴は、尻に刺さったままの包丁をそのままに必死で片足を引きずりながら駆け出した。トカゲの尻尾切りみたいに、鼻を落として逃げようというのか。血をヌラヌラと濡らしながら必死に早足で逃げようとしていた。
「待て!」
背中のカッターシャツを掴もうとしたが、上手く体をくねらせ事務室を飛び出した。慌てて後を追いかける。待ち合い室を抜け更に外に出る。向かいの堀の側をパス トカーがサイレンを鳴らし赤色灯を回しながらこちらに向かっているのが見えた。それに目を奪われた瞬間、首の後ろから打撃音がして激しい衝撃が頭を襲い、そのまま突如目の前が真っ暗になり、気を失い玄関先で倒れた。
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