第62話 バトル

ついにドアが壊れた。ドタドタと足音が聞こえる。待合い室の灯が点いた。それを見て慌てて背中を曲げて隣の台所に逃げる。台所には洗濯機と風呂場とトイレがあった。勝手口もある。勝手口には、誰かが待ち構えているかもしれない。台所から包丁1本と、ペティナイフを1本靴下に挟んだ。台所の取手に手拭きとして引っかけていた黄色のタオルを引き抜き、後ろポケットにな突っ込んだ。そして、入口すぐ側の台所のシンクに体を隠すように沈める。包丁を床に置き、掃除機の棒を持って身構える。


「蛇喰、出て来い!」

侵入者が叫んだ。イントネーションがおかしい。例の中国人の仲間だろうか。このまま、「やあ」と言って片手を上げて挨拶したら、上手く国際交流が始まるという訳ではなさそうだ。無事で済むわけがないのはよくわかった。

侵入者が、事務室のドアを開けようと押したが鍵が掛かっているため開かない。我慢出来なくなったのか、体当たりして、またしてもドアの鍵を壊して飛び込んで来た。ドスンと床の上に何かが落ち響く大きな音がした。ドアについていた磨りガラスが割れ、ドア事外れたようだ。さあいいよ、台所のドアを開けて中に入ってくるに違いない。


「蛇喰、もうおまえに、逃げ場は、無い」

そう言って嬉しそうに、事務室横の台所に通じているドアの前に立った。

「ここだな。ここに、いるん、だろう?」

台所のドアが開いた。2、3歩侵入者が台所の中に歩を進めた時、体を倒れるようにながら相手の前に出ると同時に、掃除機の棒で侵入者の左足の向こう脛に振り切った。

「ギャー!」

侵入者が、絶叫した。全盛時の阪神タイガースにいたランディバース並みのフルスイングだ。思わず侵入者が、前のめりになりながら倒れた。手にはトカレフを持っていた。侵入者が体を左から前のめりに崩すと、素早く自分の体を引き起こし、床に置いた包丁で右の尻に2つ目の割れ目を作ろうと突き刺し回した。

「ギャアー!」


立ち上がりながら、掃除機の棒を侵入者の顔面にスイカ割の要領で降り下ろした。侵入者は、尻に包丁を突き刺したまま聞いたことのない悲鳴を上げて気を失った。

「パン、パン」

その時、誰かが台所に向かって事務室から発泡した。「まさか」

思わず呟いた。

壁を砕いて銃弾がめり込む。必死に体を後ろに引いた。掃除機の棒を振り下ろした男は、右手に持ったトカレフの上に覆いかぶさって失神していた。トカレフは奪えない。床を這いずり回るようにしてドアに体が見えないように隠れる。ズボンの後ろポケットに入れていたタオル取りだし手に付いた血を拭い取る。シンクに掃除機の棒を立てかける。そしてシンクの上に乗ると掃除機の棒を引き上げ、壁に背中を合わせドアの隣りで掃除機の棒を引き上げ身構えた。天井近くにあるガラス窓から事務室にいる侵入者たちに、姿が映らないように気をつけながらシンクの上で待った。


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