第39話 ラブイズオーバー
そう言って、五十幡のつぶらな瞳を見つめていた。ゴマフアザラシ並みのつぶらな目をしていた。このまま後10分見つめていると、南極基地の隊員なら抱きしめて保護してしまうところだ。
「ここで働いていて楽しいか?」
そう訊ねると、「うん、うん」と何度も頷くと、目からボロボロと大粒の涙が溢れ落ちて来た。五十幡は、すすり泣きながらゆっくりと膝をつきながら立ち上がた。まるで小さな子供が、500円玉をドブの溝に落としたように泣きじゃくっているかのようだった。頬が赤く腫れていた。
「俺たちの所に来れば、麻雀のルールは覚えなくてもいい」
安がそう言って、優し喰い五十幡の肩をポンポンと叩いた。
「お、おい、おまえら、俺らをば、馬鹿にしやがって」
崔がそう言いながら立ち上がった。
「五十幡を連れていくぞ。いいだろう?まだおまえには、他にもその床に散らばっている仲間がいるじゃないか?」
「こんな奴ら、役に立たねえ!その麻雀のルールも覚えられないマヌケもな!全部持ってけ!」
そう吐き捨てるように言った。
「五十幡だけでいい」
そう言うと安は、五十幡の胸倉を掴んで雀荘を引っ張り出した。店を出る時に後ろを振り返ると、崔が床で伸びて動けなくなっている連中を蹴飛ばしながら喚き倒していた。階段を降り通りに出た。
「お、俺は、どうしたらいいですか?」
「ボディガードの仕事を頼みたい。勿論金は払う」
驚いたような顔をこちらに見せた。
「お、俺に?」
「おまけに正業だ。後は何の心配もいらない。崔の所で働いているより稼ぎは良くなるだろう。断るか?」
「も、勿論、は、働きたいです!」
近頃の高校生よりは、やる気があるらしい。
「勿論、契約書も交わす。ボディガードの仕事が終わればおまえはフリーだ」
そう言うと、五十幡はボロボロとまた泣き出した。
「レ、レインボーリーチでは、ま、麻雀の、か、賭けの負けたツケで、ほとんど、た、ただ働きで、か、金を貰っていなかったんや」
泣き声と必死に話そうとする言葉とが入り乱れ、引き釣りながら五十幡がやっとそう言った。
「アイツらに、相当食い物にされてたんだな」
下を向いた顔を覗きこむようにそう言うと、更に顔をくしゃくしゃにして泣いた。
残酷な世の中だ。少し知恵のある者が、オツムの足りない者から搾取する。金という弱肉強食の酷い世界の中で虐げられている者は、ずうっと搾取され続けるのか?安が軽く歌い出した。
「♪ラブイズオーバー、泣くな男だろう?」
それを聴いて、更にグズグスと泣き出した。五十幡って、こんな濡れた雑巾のような奴なのか?大男の間で泣いている姿を見て通行人が振り返る。
「まいったな」
安が思わず呟いた。こちらも全く同じ気分だった。地下鉄の入口に降りながら、五十幡がいつ泣き止むのかと思いながら階段を降りて行った。
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