第30話 経営方針

「ああ。それもそうだな。一度こちらの嵐山に来てくれないか?本日のボディガードは一旦終了だ。大阪まで車に乗せて欲しい。それに明日の打ち合わせもある」

「わかった。ユアザボス。迎えにだって行かせてもらうよ」


「物わかりが良すぎるのも不気味だな」

「安正男。別名安素直とも言うんだぜ。お見知り置きを」

「それは知らなかった。初めて聞いたよ。覚えておこう」

そう言うと電話が切れた。周りを見渡す。変にこちらの電話が注目されていた。

「さて、安と一緒に大阪に戻るよ。会社の経営方針はその後でいいだろう?」

思わず藤澤が苦笑いをしてから、「嫌な思いをさせて申し訳なかった」と頭を軽く下げた。

「ボディガードの仕事の依頼を受けた者にとっては、関係の無い話だという事だ」

椅子から立ち上がると、「下の駐車場で安が来るのを待っているよ」と、西崎に言って社長室を出た。エレベーターが上がって来るのを待っていると、弘宗が後ろから追いかけて来た。


「蛇喰探偵さん!」

大きな声で呼びかけて来た。ゆっくりと振り返った。

「社長を。母を、よろしくお願いします」

「ああ」

「あのう。母をどう思いますか?」

「どうって?」

「俺にとっては母親であり社長でもあるけれど、母親としては最悪だった。仕事、仕事で顧みず、そのくせ、僕には父親の記憶が全く無いので、その事を訊ねても何も教えてくれない。そんな母親いますか?勝手に僕を産んでおいて父親の事については全く隠しているなんてあり得ない」


「それをこちらに話したからと言って何になるんですか?私立探偵に話してもそんな事を話しても仕方無い事でしょう?」

エレベーターが到着した。ドアが開いた。中に乗り込み身体の向きを変えた。弘宗と向き合う形になった。何も答えずに弘宗を見ていた。彼は気まずくなって目線を外した。エレベーターのドアが閉まった。弘宗は、中には乗り込まなかった。1階に着くと、エレベーターホールのベンチに谷河口が座っていた。


「安が迎えに来るんだ」

谷河口が頷いた。

「藤澤副社長、どうだい?」

「どうって?」

「今は西崎社長の実直な右腕のように見えるが、昔はかなり派手に豪遊していたんだ」

「昔を知っているのか?」

「ああ。彼は京都で有名だった。酒屋の問屋をやっていて、珍しく酒を取り扱っていた事もあり、祇園や、有名レストラン、旅館などが相手だった。酒を下ろす代わりに色々な店に行っては金を落としていた。そのため、藤澤の交友関係も多かった」

「藤澤は元問屋の社長だったのか?」


「そうだ。時はバブルで更に変わった酒、高価な酒がもてはやされ絶頂期だった。映画の撮影所の俳優たちとも豪遊していたなあ。女も囲っていたんだよ。その女の名前は芹川由梨恵という名前だった。源氏名か本名かまではわからない。彼女と西崎社長と祇園界隈で争った事もあるんだが、1位と2位を争った事があるのだが、1位と2位の差がありすぎた」

そう言って苦笑いをした。








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