第10話 契約成立
「俺は、借りのある人間の事は絶対に忘れない。俺はいつも何か事件がある度に在日だからと色眼鏡で見られ、常に偏見を受けて来た。だがあんただけは、他の奴らとは違っていた。最初から偏見に満ちた目では見なかった。あんたは、自分の中にしっかりした定規を持っていた。自分で見た物、聞いた物しか信じないし、感じようとしない。またいくら他人から何を言われようが関係が無い」
その言葉に思わず笑った。
「自分の見る物しか信じられないタチなんだよ」
「わかっている」
「そんなあんたが、今日は何の電話だ?」
現在、安はフリーランスで仕事をしている。フリーランスと言えば聞こえはいいが、地上げ、金品の取り立ての用心棒などを生業としていた。安は決して相手に対して怒鳴ったり、殴ったり、物を壊したりはしない。そんな事をすれば恐喝罪で警察にパクられると知っているからだ。常にギリギリのところで安は生きてきた。それが犯罪になるか、ならないかというボーダーラインにいることをわかりながら動く事で、自分の活路を見出してきた。身長191センチの長身を生かし、切れ長の目をした感情を露わにしない人相をしていた。この上背でイカツイ顔面で4歳くらいの女の子なら見ただけで、泣き出してひきつけをおこしてしまうだろう。
金を借りたまま返さないという人間が、取り立て人として安が現れ、何も言わずにずうっといるだけでチビって有り金をすぐにでも返そうと思うだろう。また安は、肉体をキックボクシングで鍛えており、両腕はたくましく、腹筋は6パックに割れていた。存在感だけでも充分凶器だった。
「今、手は空いてるか?頼みたい仕事があるんだ」
「蛇喰さん、そいつはおかしな物のいい方だな。手が空いているかどうかという質問をするのではなく、いつから、仕事にかかれるかと訊くのが正しい。あんたが、俺に仕事を頼むというのならどんな用事よりも優先する」
大阪府警の刑事の時に安と出会ったのだが、まさか警察を退職後一緒に仕事をするとは思わなかった。それなのに、この義理堅さは何だ?
「わかった。では、頼みたい仕事がある。ボディガードの仕事だ。早速今日、夕方からでもいい。京都の嵐山の方面まで来てくれないか?」
「車でか?」
「任せるよ」
「夕方までもかからない。今すぐにでも行くよ」
「ありがとう。助かるよ。そして、後もう2人、腕のいいボディガードに適した人間が必要だ」
安が少し考えているのか、間が少し開いた。
「1人知っている。元K1のファイターだ。今は個人でミナミでジムを開いている。金を十分に出すのなら仕事を受けてくれるはずだ」
「月100万でどうだろう」
「うむ。それなら大丈夫じゃないか?」
「その人物に連絡を取ってもらえるか?こちらにいつ来れるか相談してくれないか?」
「わかった」
そう言うと、電話が切れた。藤澤が、電話のやり取りが終わるを待っていた。秘書の嶋田詩織に契約書を持ってくるようにインカムで指示した。今日依頼人に会って、いきなりすぐに契約の段取りとなった。
THE CUSTOMER IS ALWAYS RIGHT.
そうお客様は、神様です。そして、神様に逆らうとバチが当たる。
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