Ep.7 いざ尋常に勝負
対決の日。……と言うと大袈裟だが、要はリヒトが指定したイグニスとの勝負の日。
実家の中庭にてカナリアは二人の王子を出迎えた。
周りに被害が出ないよう結界が張られた試合場で向き合う二人に、勝負の見届け人を命じられたカナリアがルールを読み上げる。
「今回の試合は魔力の使用は無し。互いに使用出来る武器はお持ちの模擬剣のみで、体術による打撃も一切禁止。相手に『参りました』と言わせるか、先に結界の外に弾き出した方の勝利です。お二人とも、準備はよろしいですか?」
「あぁ、もちろんだ!」
「僕もいいよ、いつでもどうぞ?」
漂う緊張感にそぐわないそよ風が真逆の色をした二人の髪を揺らす中、カナリアは頷き掲げていた手を振り下ろした。
「では、いざ尋常に勝負!!!」
その声と同時に飛び出したのはやはりイグニスだった。ふり下ろされた一撃目を自分の剣でリヒトが受け止める。ぶつかり合った二人の剣がキィンと嫌な金属音を響かせた。
一撃目以降も全く引かずに激しく繰り出されるイグニスの猛攻は速く、かつ力強い。まだ中学生の歳なので大人に通用するかは別として、同級生であれをいなせる者はそうそう居なさそうだと感じた。口先だけじゃなかったのね、と感心すら覚える。
(すっごいパワー……、腕力だけで見たらイグニス様の方が強いのね。意外……でもないか、如何にも体力ある熱血キャラだもんね、彼)
カナリアの目ではもはや太刀筋が追いきれないイグニスの猛攻を、リヒトは自分の剣で受け止めいなしている。すべて弾いてはいるものの、その足が段々下がっているのはリヒトの方が圧されているのだろうか?
イグニスも手応えを感じたのだろう。結界から弾き出されるギリギリまで追い詰めたリヒトに向かい、両手でトドメの一撃を振り下ろした。
「……さて、もう満足したかな?義兄上」
「なっ……!?」
が、その瞬間イグニスの目の前からリヒトが消えた。正確には、軽やかにジャンプして攻撃をかわし、そのままイグニスの背後に着地したのだ。
「お遊びの時間は終わりだ、今度はこちらから行くよ?」
そうにこりと笑んで攻撃に転じたリヒトの動きは、ただただ美しかった。
力強く攻撃主体で攻めるイグニスに対して、リヒトはしなやかで速い技術の剣だ。一部の無駄も無く洗礼されたリヒトの攻撃に見惚れて、ふと気づいた。
(リヒト様、イグニスの繰り出してた太刀筋をそっくりそのまま真似してやり返してるわ……!)
息を切らし、何ヵ所か服を裂かれながらも必死にリヒトの剣を防いでいるイグニスも気づいたのだろう。汗ひとつかかず、表情も変えず、自分の“本気”をそっくりそのまま真似して越えていく
先ほどまでは、手加減されていたのだと。
「馬鹿にしやがって……!」
「ーっ!!」
ギリッと悔しそうに歯噛みしたイグニスが捨て身の反撃に出た。防御を全て捨て、リヒトの剣の隙間を狙い懐に飛び込んだのだ。
一瞬の出来事にカナリアが、周りが皆息を飲む中、二人の王子の剣がぶつかり合い。鋭い金属音と共に、一本の剣が宙へと舞った。
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