デンオブデロス

 さて、くだんの土ドワーフ集団であるデロ。食うだけ食ったら満腹して満足そうにダンゴになって寝とる。かまわんけどな。どういう連中なのかいまひとつよくわからない。どう扱っていいのかもわからん。

 ヤダルさんや姐さんたちに任せて、あたしたちは退散するのもひとつの手ではある。ただ、ちっこいとはいえ十二人。ミスネルさんは放り出したりしないだろうが、間違いなく足手まといになる。


「拾っちまったもんは、しょうがない。どっか送るにしろ住まわすにしろ、後始末くらいは手伝うか」

「そうだね。悪い子たちじゃ……なさそうだし」


 途中いくぶん間があったものの、ジュニパーがいう。ミュニオも苦笑交じりで頷いた。


「わたしも、それがいいと思うの」


 あたしたちも部屋の端に場所をもらって雑魚寝させてもらった。寝袋も毛布もあるけど北上するごとに暖かくなってきてるので特に必要もない。マットレス代わりに敷いて寝てみたが、案外快適である。なんだか、野宿やら雑魚寝やらに慣れてきた気がする。


 翌朝、出掛けるかどうか迷っていたあたしはデロの集団にどうするかを訊いてみた。帰る先があるなら送ってやっても良いしな。


「ぼくら? いえに、かえる!」

「かえる!」

「ああ、うん。お前ら、ウチどこなんだ?」

「ここ!」

「あっち!」

「そこ!」

「バラバラじゃねえか。つうか、指してんの全部ここの町だし。居残るつもりか?」

「ちがーう! こ・こ!」


 そんなん力説されたところで、指差してんのは、あたしたちがいる建物の床だ。

 ……いや、地面?


「地下か? ここの?」

「「「そー!」」」


 ヤダルさんとミスネルさんが少し驚いた顔でデロたちを見る。彼らも、デロの巣というか家というか、本拠地がどこなのかを把握はしていなかったみたい。


「こいつら、ここら辺に住んでんの?」

「いや、地下で暮らしてるとは聞いてたけど、場所までは知らんな」

「わたしも初めて知ったわ」


 どっか近くに入り口かなんかがあるようだ。彼らは特に警戒する様子もなく案内してくれる。


「ここ?」

「そう!」


 町外れにある古い祠のような遺跡のような廃墟の陰。墓石なのか石碑なのか不明な構造物を擦り抜けた先に、いわれてみればわかるレベルの入り口があった。


「こういうの、いっぱい」

「あちこちに出入り口があんのか。ミスネルさん、これ知ってた?」

「ここの前は何度も通ってたけど、気付きもしなかったわ」


 地下に降りるのは縄梯子みたいな形に編まれたツタ。ちっこくて軽いデロたちはともかく、あたしたちの体重では軋みを上げて怖い。


「あたしは、やめとく。どのくらい深いか教えてくれたら飛び降りるよ」

「おっけー」


 身長高くて筋肉質のヤダルさんとバインボイーンのジュニパーはちょびっと不安が残るので、いっぺん地上で残留。最初はあたしとミュニオがデロの子たちと降りることになった。


「ミスネル、あいつら送ったら、すぐ戻る。お前らは引き払う用意を頼む」

「わかった。シェーナちゃんたちも、気をつけてね」

「「「はい」」」


 あたしたちが潜ってる間に、ミスネルさんたちお世話部隊は地上の隠れ家を撤収するため荷物をまとめるそうな。


「うわ暗いな。ミュニオちょっと待って、ライト出すから」

「“らいと”?」


 サイモン爺さんから調達して使ってなかった、“マグライト”っていうデカい懐中電灯を取り出す。

 このマグライト、本体が重くて頑丈なので棍棒にもなるという優れ物。振り抜きやすいようにL字型というか横棒が片側だけ長いT字状になる付属グリップが装着されてる。思い切り振り回したら野豚くらい撲殺できそうだ。しないけど。

 しばらく降りると、地下空間らしきところに降りた。両手が空いたので、早速マグライトで周囲を照らしてみる。


「きゃッ!」

「まぶしッ!」

「ぼくら、あかるいの、にがて」

「はれてる、そと、こげちゃう」


 そうなのか。地底人かモグラみたいだな。


「この穴、どこまで繋がってんだ?」


 デロに尋ねると、“よくわかんない”という答えが返ってきた。アリの巣状に広がっていて、ソルベシアの南西部一帯半分にまたがる規模なのだとか。


「なんで南西部?」

「はんたいがわ、みず、でる」

「東部は山脈から流れてくる地下水が流れてるから、だと思うの」

「そー、ほってたら、どばーって」

「ちべたいの」


 デロたちのリアクションから察するに、ミュニオの推測が合ってるっぽい。

 とりあえず長居したい場所ではないな。さっさとデロのコミュニティと接触して引き渡そう。


「ぼくら降りても大丈夫?」

「いいよ。地面は、かなり硬い」


 地上からは十メートルくらいか。たぶん上にいるふたりなら、飛び降りるのに不安はない。念のためライトで周囲を照らして距離感を伝える。


「深さ、このくらいだけど、行けそう?」

「うん」


 ジュニパーもヤダルさんも迷わずヒョイと飛び降りてきた。戦力になりそうなの、みんな来ちゃったな。


「ヤダルさん、すぐ戻るつもりだけど、地上に残してきたひとたち大丈夫かな?」

「問題ないぞ。ああ見えてミスネルは、あたしより強い」

「……うそやん」

「ウソなもんか。あいつは怒るとあたしより怖い」

「「「あー……」」」


 あたしたち三人はリアクションに困って顔を見合わせる。余計な詮索は身を滅ぼしそうなのでやめよう。ここは、さっさと送り届けるだけだ。


 地下に広がる空間は、高さが百七十センチくらいか。長身のヤダルさんだと少し屈まなきゃいけないくらい。幅は三、四メートルあり、奥に行くとさらに広くなっているようだ。空気が淀んだり篭ったりしてないので、どこかに通気口くうきあながあるんだと思う。


「ああ、ここ魔物とかいない? 穴熊とかさ」


 あたしが訊くと、デロの何人かが嬉しそうに頷く。


「いるー♪」

「いるのかよ。なんで喜んでんだ」

「あなぐま、おいしいよ?」

「ああ、そうな。たしかに、あれは美味かったけどさ。危なくないのか?」

「だいじょーぶ」

「つちまほうで、どーんて」


 なるほど。あの隷属の首輪だかを装着されていなければ、彼らは――少なくともホームグラウンドの地底では――それなりに強いのか。


 あたしたちは、彼らの代表みたいなひとと会うため地下迷宮の中心部に向かうことになった。

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