信仰なき祭壇
「……なんじゃこりゃ」
「さいだーん」
「ええと、祭壇か。お前ら信仰があるように見えんけど、お祈りとかすんの?」
「しない」
「しないのかよ⁉︎」
ツッコむあたしを見て、デロたちは首を傾げる。
「おねがい、するの」
「そしたら、みず、くれるの」
なるほど、見ていると周囲にいるデロらしき奴らが器状にした手を差し出すたびに石の枝からは水が落ちてくる。
祭壇と名付けられてはいても、実態は公共水飲み場というか自動販売機的な存在か。
「ほんで、お前らの親か親分みたいのは、誰?」
「じーちゃーん!」
石造りの木の根元は、ちょっとした水溜りのようになっていた。その前であぐらをかき祈るような姿勢で手を合わせていたデロが、ハッと顔を上げる。
寝てたな。完全に。お祈りしてる賢者ですよってな姿勢は、ただのポーズだ。
「おう、なんじゃ、いきとったか」
毛玉みたいなモジャモジャの髪とヒゲ。ドワーフっぽいっちゃあドワーフっぽい見た目なのに……たいがい几帳面かつ頑固な雰囲気の彼らに比べると、身にまとう空気が明らかにユルい。
「へーたいに、つかまったと、きいたがの」
「つかまったー」
「たいへんだったー」
ぜんぜん大変そうじゃない声でデロの連中が答える。それを聞いた爺ちゃんも、“そうかー”なんつって、ぜんぜん気にしてない感じで頷く。
お前ら、逆にスゲーな。あのままだと死ぬとこだったと思うんだけどな。
「あたしはヤダル。アンタ、デロの長老か?」
「ああ、そうじゃ」
長老って、もっとこう……落ち着いた、賢い感じのキャラなんちゃうん?
「デロの長老は、代々こんなだ。単なるその場の最高齢者で、誰が就いても同じくらい無能だ。だからデロも永遠に無能だ」
あたしの声でも聞こえたのか、ヤダルさんがどこぞの海兵隊軍曹みたいなことをいう。
爺ちゃんを向いたままだから、当然それは本人にも聞こえている。
ヒゲモジャの長老は特に気にした様子もなく鷹揚に頷いているが、それは器がデカいというよりも何の関心もないという印象だった。微妙に、扱いにくい。
「捕まってた奴らは連れ戻してきた。
「わかった」
「お前らもな」
「「「わかったー!」」」
「たー♪」
絶対わかってない感じのハキハキさで、爺ちゃんも野良デロたちも答える。当然のように礼はなく、そもそも助けられたと思っているかも怪しい。
これ以上の用はないという感じで、ヤダルさんはあたしたちを元来た道へと促す。
「ミキマフの、てした、もってた……」
「あ?」
振り返ると、爺ちゃんが眠そうな目でこちらを見ていた。長老なはずなんだけれども、なんか重要な話をしそうな感じが微塵もしない。そのピンボケ長老はミュニオを指していた。
「……それ」
彼女が肩に掛けていた、
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