キャッチ&フォーリン
「んぎゅぅぅぅ……⁉︎」
最初、ジュニパーが斜め上にジャンプしたらしいことはわかった。進行方向にあった木の幹をキックしてさらに斜め上へと方向転換したことも、なんとなくわかった。その間隔がどんどん短くなってく。移動距離が近くなったわけじゃない。
――これ、速度が、上がって……
「むッきゅううぅ……!」
「シェーナ、顔が面白いことになってるよ?」
「なるわッ! こ、風圧! ちょッ、待……にゃあぁああああ⁉︎」
そこからさらにブンブンと空中で振り回され、血が上ったんだか降ったんだか目の前が暗くなる。平衡感覚がおかしくなって、上下左右の感覚もなくなる。
「ジュニ、ぷぁ! こ
「もう少し我慢してシェーナ、もうすぐ……ホラ着いた!」
「へ?」
「そこ、つかまってて、あんまり揺らさないようにね⁉︎」
訳のわからんことをいうジュニパーの声が、暗闇のなかで下の方に遠ざかってゆく。
失神寸前で朦朧としたままトゲトゲかつふんわりした場所に降ろされたあたしは、暗転した視界が回復するのを待った。貧血から回復したときのように――というかまさにそうなってるんだろうけれども――しだいに、真っ暗な視界が紫めいた感じで戻ってくる。
「……うそん」
あたしは、
「しぇーなー♪」
能天気な声におそるおそる覗き込むと、地上で手を振るミュニオと馬姿のまま待機するジュニパーが見えた。
地上までの高低差は二十メートルそこそこのはずだけど、恐怖のせいかふたりがアリンコくらいのサイズに見える。
ヤバイ。目を逸らさないと。地上から。いや現実から。でないと、全身からいろんな
なんせ、いまいる場所は大小の枝で編まれた鳥の巣の上だ。直径が一メートル半ほど。樹冠を芯に固定はされているけれども、あたしの体重移動で大きく揺れる感じをみる限り、強度はあまりない。親鳥と雛が乗れればいいのだから当然か。
巣のなかには、卵のかけらと骨や羽毛が転がっていた。雛のものか餌の残骸かは不明。それと、穴を開けられた卵がひとつ。中身を引きずり出したようだ。他の生き物に殺されたらしい。この木を登ってくるような動物か虫か、他の鳥か。
なんにしろ、それは終わった話だ。赤ん坊は……と。
「シェーナ……?」
こちらの反応がないので不安になったのか、地上でジュニパーの声がした。返答したいのは山々だけれども、赤ん坊が見当たらない上に、泣き声も聞こえない。
背後からグズるような音が聞こえて振り返る。あたしの尻の後ろにある、ボロ切れの山がモゾモゾと動いていた。
「危な……もう少しで座っちゃうとこだった」
布をめくると、思ったより元気そうなプクプクした感じの赤ん坊が現れる。小麦色の髪に、淡い色の肌。獣人ではないように見えるけど、エルフやドワーフの赤ん坊だとしたら、あたしには見分けられない。この際、人種はどうでもいい。
ボロ切れごと抱いて離脱の準備に入る。なんか、触れていると違和感がある。その理由がわからない。
「ジュニパー! 赤ん坊、捕まえたー!」
「わかったー! シェーナー! 赤ん坊しっかり抱えてー! 立って、お尻向けてー!」
「え、尻? なん……でぇッ⁉︎」
ジュニパーの声に思わず地面を見下ろして後悔する。この高さ、ビルでいうとギリひと桁階ってとこだろうけど中途半端にリアリティあってムチャクチャ怖えぇ!
こんなグラグラするとこ、座ってたって怖いのに立ってケツ向けろとか、ムチャいうな。
「行くよぉーッ!」
またピョンピョンと樹木の間をすごいスピードで反復横跳びしながら、見るみるこちらへ迫ってくるジュニパー。
「……いや、待って。待って待って待って、どうやって戻る気……ちょい!」
「つかまえ、たふ!」
半身になったズボンの尻、ベルトあたりを馬ジュニパーにがっぷりと食いつかれて、あたしは空中に放り出される。まさかの紐なしバンジー。血の気が引くけれども今度は視界もそのまま失神もできない。ぐんぐん近付いてくる地面と笑顔のミュニオを見ながらあたしは悲鳴を上げる。
「ぎいゃあああぁ……! しぬしぬしぬーッ!」
「だいじょーぶ!」
落下速度は地面近くで急激に遅くなり、最後は意外に優しくふわりと着地した。なんだか知らん魔物の力で減速したようだ。これ前にも体験したな。どこだっけ。“
ポテリと地面に降ろされて、足腰膝がガクガクのあたしは赤ん坊を抱えたままヘタリ込む。どうでもいいけど、さっきから過去の記憶が切れ切れに瞬いてるの……
これ絶対、走馬灯だよな⁉︎
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