フォックストロット
「……どう、したいか」
「そうだよミュニオ。お前がソルベシアの住人たちを守るにしろ避けるにしろ、だ。もし皆殺しにしたいっていうなら、それも喜んで付き合うぞ」
「ぼくも当然、一緒にやるけど……シェーナ、皆殺しって出来るかな?」
「結果なんか知るかよ。あたしたちは、やるだけだ。……な?」
「うん♪」
なんだかひどく幸せそうなジュニパーの返答に、イハエルはドン引きである。子狐獣人だけに、チベットスナギツネみたいな顔になってる。
「ああ、待たせてごめんな、みんな。ご飯にしよう」
「「「はーい」」」
食事の支度はできたようなので、コボルトたちには各自取り分けて好きなように食べてもらう。無関係な彼らが面倒臭い話に付き合わされてご飯をお預けなんて、ありえない。
「……敵味方の区別とか、考えないのか?」
「ああもう、うるせえな。考えてるに決まってんだろ。ほら」
あたしはミュニオとジュニパーを抱き寄せて、いまいる場所を示す。こちらの背後には“おはなし、つづくの?”てな顔してるコボルトたち。それぞれ大きな肉を両手に持ってモムモムと美味そうに食べてる。こちらの会話は右から左に抜けてる風。
「あたしたちの仲間は、これで全部だ。少なくとも、ここから
「わかりやすいでしょ?」
「……ソウネ」
イハエルはチベットスナギツネから顔が戻らなくなってる。ただ、自分も“非友好的対象”なのを自覚してか、態度はいくぶん改まった感じになった。勝手にズカズカ踏み込んで来られるより、ずっと良い。
聞いてみれば、やっぱりソルベシアにはいくつもの派閥が入り乱れて誰が敵か味方かわからない状況なのだそうな。群
ここで盗賊にまで落ちぶれていた奴らは極端な例かも知れんけど、そんなもんは他にもいるだろうし、きっと今後もワサワサ出てくる。
子狐イハエルの話によれば、ソルベシアの内紛はいくつかに分かれる。王として求められる力を持たない怪しげな現王ミキマフの一派、テロリストなのかレジスタンスなのか知らないけど王位簒奪を図る諸勢力、そして南下を余儀なくされてバラバラに落ち延びている楽園追放組。
「目的別の三派閥、なんて簡単な話じゃないよな? 魔王を騙ってた盗賊団は
「ええと……いや、ぼくは、どの勢力とも違う。……ぼくは、自分の意思でソルベシアを出たんだ」
「へえ」
あたしは棒読みで答える。子狐の都合は知らん。それで追放組のバカどもに殺されかけたんじゃ世話ないだろうが。
「本当だよ。神木からのお告げを確かめるために、はるばるここまで来たんだ」
「おつげ? なんだそりゃ」
「“ソルベシアに災厄が向かってくる”って」
「ええと……ねえ、シェーナ?」
うん、ジュニパーそれ以上いわなくて良いよ。それはどう考えてもあたしたちなんだろうな。大量の死体を発生させながらソルベシアに向かってきてるのは確かだけど。
「んで? “災厄”を見付けて、お前はどうするつもりだったんだよ」
「それが託宣の通りに“真の王の血を引く者”だとしたら、玉座にお迎えするのが、ぼくら
あたしは溜め息を
「だから、そういうとこだよ」
あたしが何を呆れているのか、イハエルはいまいちピンと来てないみたいだ。精神年齢的な幼さもあるのかも、だけど“自分たちは正しいことをやってる”みたいな迷いのなさがイラッとする。
巻き込まれた側の迷惑とか、そこまでいかないとしても困惑とか、こいつら全然考えてない。
「やっと、わかったの。南部でまとわりついてきたひとたち、わたしに……ニセモノの王に成り代わって欲しかったの」
「そういうことなんだろうね。どう考えても、ミュニオに何の得もなさそうだけど」
「ジュニパーのいう通りだな」
こっちの事情を良く知らないあたしから見ても、そいつらがミュニオを確保した目的は
なんかインチキくさい現王ミキマフは、エルフ以外の連中をソルベシアから排除しようとしてる。
でも、オアシスで会ったドワーフたちやアドネの
あたしがそう話すと、ジュニパーが何か思い付いたみたいにポンと手を打つ。
「わかった。本当は発動しないけど、脅しに使ってるとか? エルフ以外の邪魔な勢力を排除するためにさ」
「う〜ん……」
どうだろ。可能性はあるにしろ、なんかしっくり来ないな。エルフ以外の勢力をソルベシアから排除する理由がわからない。だから、そこまでするほどのことなのかが読めん。
「まあ、いいや。どうでもいいし」
「え」
イハエルの困惑を無視して、あたしたちもコボルトたちに混ざって食事を始める。グダグダやってたせいで肉はちょっと冷めてきちゃってるし、スープは煮詰まってる。飯時にトラブル持ち込むバカってホント嫌い。
「お前も、食いたきゃ食え。その後は好きにすりゃ良いけど、あたしたちに干渉するな」
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