他人事な襲撃
ミュニオも(たぶんジュニパーもだけど)隠れていた彼らの反応自体は、ずいぶん前から察知していたようだ。
「殺意とか、敵意は感じなかったの。待ち伏せしている感じでもなかったから、何してるのかなって、思ってたの」
「うん、それで良かったと思うぞ。ありがとな、ミュニオ」
「シェーナ、ひとりで大丈夫なの?」
「あたしは気にしないでいい。みんなを守るのだけ、お願い」
「わかったの」
あたしは運転席から降りて、男たちに近付く。両手は上げたまま、掌を見せて武器を持っていないことを示す。
「止まれ!」
「まあまあ、落ち着けよ。な? ほら、なんも持ってないし、なんもしないからさ」
「……お、……お前たちは」
「ただの旅のもんだ。ずいぶん民家を見なかったからさ、ひと休みできそうなら寄らせてもらおうかと思っただけだ。何があったんだか知らんけど、出て行けっていうなら、そうするさ」
適当に話しながら、男たちの反応を観察する。怯えているというミュニオの読みは正解だ。緊張と恐怖で、こちらの言葉はあまり耳に入っていない。目線がキョロキョロと泳いでいて、あたしたちの他に近付く者がいないか警戒している。
「なあ、アンタたち何を怖がってるんだ?」
「こ、怖がってなんて……!」
「おい、来やがったぞ!」
槍持ちのクマ獣人が叫ぶと、弓を持った人間ふたりに北側、ソルベシアのある方に指差す。
あたしには何も見えないけど、たぶん彼らが恐れている何かが来たんだろう。弓持ちふたりはランドクルーザーの陰に回り込み、矢をつがえた。山刀を構えた虎獣人があたしの肩を押さえ、車内に戻そうとする。
「お前、危ないから、そこに入ってろ。上の連中も、伏せてろよ!」
「イスタ、エルタ、マルカ!」
またクマ獣人が叫んで、槍を構えて西側を向く。馬に乗ったのがふたり、四、五百メートル先から駆けてくるのが見えた。これは、狭い角度の二方向から挟まれた感じか。
「あれは、アンタたちの敵か?」
「ああ、ここらを荒し回る盗賊だ。平地で弓じゃ、射ち負けるかもしれん。手が届く距離まで引き込めれば、どうにかなると思ったんだけどな」
さほど焦った風でもなくいうけど、諦観めいた感じに聞こえた。なんとなく、わかってしまった。あたしたちが目の前をウロチョロしたせいで姿を見せて待ち伏せの機会を潰したわけだ。もう助からないと覚悟して、あたしたちだけでも守ろうとしてくれてる。
「それは悪いことしたな。ミュニオ?」
「西に二、北西に七。みんなエルフ」
エルフの盗賊? ピンとこないけど、そんなもんもいるのか。いるよな。魔導剣士だかいうエルフの凄腕が、穴熊をけしかけて遊んでたバカ貴族の犬になってたのを思い出す。
「任せて、シェーナ。こちらを殺そうとしてきたら、殺すの」
「お前ら……なに、いってる」
連続して銃声が上がり、二百メートルほど先のふたりが馬の上から転げ落ちる。地面に叩き付けられた後は、ピクリともしない。音に怯えた馬が棹立ちになって、鐙か荷物か拘束を振りほどく。不満そうに嘶くと、そのままどこかへ駆けて行った。
「あのふたり、弓を引いたの。だから敵。でも、もう大丈夫」
「北側の七人は?」
「手槍と短剣だけだけど、村の方に向かってるみたい」
「なにッ⁉︎」
ミュニオの声に慌てて駆け戻ろうとする男たちが半分も行かないうちに、
「あ……あのね、シェーナ。村の柵を、壊そうとしてたの」
ミュニオ姐さんは“あたしたちを殺そうとしたわけじゃないけど……”っていう感じの声で申告する。
厳密にはルールに沿ってないのを気にしてんのか。そんなことで怒ったりしないっつーの。
「ありがとな。悪い奴らじゃなさそうだし、いまのはミュニオの判断で合ってると思う」
「もし、間違ってたら?」
「そのときは、みんなで後悔しようよ。ジュニパーとあたしとミュニオでさ。どんな結果だって、誰かひとりだけの責任じゃない。だろ?」
防衛団員みたいな村人たちは草っ原の途中で立ち止まって、こちらを見た。村の前で射殺された盗賊たちを見て、またあたしたちを見る。“どうすんのこれ”みたいな顔で。
いや、知らんし。なんだそのリアクション。いちいちこっち見んな。素直に喜べ。
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