戦う力

「では、シェーナ。小さなお仲間たちによろしく伝えてくれ」

「……ああ、うん」


 団子になってる仔猫ちゃんたちとミュニオ&ジュニパーの前で、あたしは木箱に腰掛けて爺さんに手を振る。ちなみに木箱の中身は食料品だ。ミチュの村にごっそり置いてきたので、追加で購入した。

 相変わらず過剰なニーズ把握で揃えてくれて、ありがたいといえば、ありがたい。そして、どうしたもんかと思わんでもない。まあ、どうにかなんだろ。


「さて、お嬢さんたち」

「「「にゃ?」」」


 さっきまで立ってた位置と違うし、おかしな荷物も現れてるしで、向こうからするとあたしが急に木箱やらなんやらと一緒にワープしたように見えるんだろう。時間も精神的余裕もないので、そういう疑問は総スルーだ。

 ミュニオとジュニパーは慣れてるけど、彼女たちは彼女たちで何を仕入れてきたか少し不安そうではある。


「砦に連れてくのには、条件がある」

「え、うん」

「全員、弓は置いていけ」


 少しだけ、傷付いたような顔をする。まあ、そうなるわな。

 でも、仔猫ちゃんたちだって、五十だかの兵隊相手にするとしたら自分たちが戦力外だって自覚はあるんだ。正直いえば、そんなもん、あたしだって無理だけどな。

 そこで、“力の差を埋める物イコライザー”の出番になるわけだ。


「このなかで、いちばん弓が上手いのは」

「「ルーエ」」

「よし、ルーエ。ミュニオについて、こいつに慣れろ」


 あたしは、木箱に立て掛けられた銃を指す。ミュニオのカービン銃マーリンにそっくりのレバーアクションライフル。なんでか機関部は金色で、相変わらず木部が赤い。背負うための革帯まで赤い。

 こちらの要求項目に沿って出してきた、サイモン爺さんの自称“ベストチョイス”だそうな。

 これが最適解なのかどうかは、あたしにはわからない。迷っている暇も精神的余裕もない。ここは爺さんを――少なくとも長年武器商人をやっていたらしい知識と経験を――信じて突き進むしかない。


「シェーナ、これも、“マーリン”なの?」

「ミュニオの銃に似てるけど、こっちは“ヘンリー”だってさ。ちっこい22口径のタマが、十五発入る」

「みゅにおと、おそろい!」


 なんか、おとなしいルーエが珍しくテンション高いな。ミュニオも嬉しそうに微笑む。やっぱこのふたり、タイプが似てるのかも。

 あとふたつは、あたしが愛用しているのと同じルガー・ラングラー。こちらも22口径の弾薬を使う、リボルバータイプの銃だ。あたしのラングラーは本体が明るいグレーでシリンダーは濃いグレー(そして握るところが赤)だったんだけど、今回用意されていたのは、握るところはふつうの木製。ただし本体全部が真っ赤だ。

 爺さん“こんなこともあろうかと”とかいうてたけど、意味わからん。セラコートとかいう艶消しの丈夫な塗装で、あたしの大型リボルバーレッドホークと似た表面仕上げだ。二丁とも、ご丁寧に赤い革製のホルスターに収められてる。


「ネル」


 リーダー役の黒猫娘は、あたしが差し出す銃を見て何かを感じたんだろう。小さく深呼吸して、肩の力を抜いた。

 良いな、それ。腹を据えた顔だ。


「これを持て。いまから、これはお前の銃だ」

「はい」

「ハミ、こっちのは、お前のだ」

「は、はい!」


 まだ弾薬は渡さない。武器の使い方と戦い方は、村から離れたところで練習する。


「それは、大人の兵士でも簡単に殺せる武器だ。殺したい相手以外には絶対に向けるな。守れないなら、二度と触らせない」


 それを聞いたネルたちは、一様にホッとしたような顔で笑った。少しくらいは、不安そうな反応をするかと思ったんだけどな。


「もう、だいじょーぶ。だれも、つれてかれない」

「なにも、うばわれない」

「おなか、へらして、ないてるこ、いなくなる。ね?」

「「うん」」


 自分の心配はしないんだな。こんな状況なのに。

 グシュグシュいってる仔猫ちゃんたちを見て、ミュニオが涙目になってる。ジュニパーは鼻水垂れてる。あたしは、泣きべそどもに声を掛ける。


「おい、行くぞ」


 第一声が少しヒビ割れて、台無しだ。ミュニオとジュニパー、その生温かい目で見るのやめてくれるかな。


「お前たちは、もう無力じゃない。砦を攻めるぞ。あたしたちと一緒に、最後まで、六人で戦うんだ。負けたら、一緒に死ぬ」


「「「はい!」」」

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