ガールズ温泉回

 集会所の裏手にあるという風呂は、驚くほど大きく立派な露天風呂だった。直径五、六メートルほどの円形で、洗い場の周りを木の塀で囲ってある。男女を分けているのは、中央に立てられた衝立。

 夕食の後、夜の露天風呂にテンション上がっていたあたしだけど、どこか見覚えのある光景に首を傾げる。

 塀際に小さな木を植えてあるところとか、山水画みたいな感じに組まれた岩とか、なんというか、すごーく日本ぽい。


「これ、ホントにドワーフが作ったのかな?」

「テームさんは、そういってたの」

「ホントよー?」

「どわーふの、おじちゃんだってー」

「ちょびっとの、まりょくで、あったかくなるのー」


 あたしの疑問に、一緒に入ってきた仔猫ちゃんたちが答えてくれる。気持ち良さそうにプカプカ浮かびながらだけどな。シッポが水面でユラユラしてて可愛い。

 魔石に魔力を流して炊くというお湯はぬるめだけど、出力の問題ではなく、獣人たちの好みの温度みたいだ。これがまた、全身に染み渡るみたいに効く。夕食の調理中に少し飲んだけど、水に温泉成分はなかったはず。煮込んだスープの味も、ふつうの水だったように思う。


「このお湯、なんか入ってる?」

「はっぱー」

「え?」


 ネルがチャプチャプと泳いでいって、風呂の端に浮かんでいる木の葉の束を持ってきてくれた。


「これは、薬草?」

「えるふの、ひやくー」

「そうなの? ミュニオ、わかる?」

「そうなの。簡単だけど、すごい組み合わせなの。傷を癒して疲労を回復する効果があるの」


 へえ。これも赤い格好のひとらメンインレッドもたらしたものか。やっぱり、こっちの世界の人間べつくちかな。


 翌朝、泊めてもらった集会所のテーブルに日持ちする食材と敵から奪った弓と矢筒を置いて、その上に銅貨と大銅貨の詰まった皮袋をいくつか乗せる。


「ありがとうな。楽しかった」


 見送りに来てくれた仔猫ちゃんたちに、袋入りのドライフルーツとエナジーバーを渡す。みんな喜んでくれたけど、シッポはちょっとだけユラユラしてる。


「また、きてくれる?」

「そうだな。ソルベシアまで行って、また帰ってくることがあったら寄らせてもらうよ」


 なんか、いいたそうな感じで三人は視線を合わせ、リーダー役なのかネルがあたしを見る。


「しぇーな、みゅにお、じゅにぱ」

「うん?」


「じゃま、しないから。ぜったい」

「だから、つれてって」

「ソルベシアに? 引っ越すならお父さんとお母さんも一緒だろ。乗せてくにしても、ちゃんと話して……」

「「「ちがう」」」


 ハッキリとした意思表示。ネルは目を怒らせ、ハミは泣きそうな顔で笑い、ルーエは静かにこちらを見据える。それぞれに、あたしたちを見ている。あたしたちの、目の奥を。


「いくんでしょ? ……てーこくぐん、たおしに」


 そうな。女の子は、どんなにちっこくても多くのものを見て、多くのことを考えてる。良くも悪くも。猫を殺すのは好奇心かもしれんけど。でも女を殺すのは、いつだって。

 げられない自分なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る