ワイルド・オン・ライス
さて、せっかくのカレーなんだから、日本人のあたしとしてはご飯で食べたい。
サイモン爺さんからもらった食料の箱を探って出てきたのが、シリアルみたいな箱に入ったオーガニックのワイルドライス。なんじゃこれ。ブラウンライスとポルチーニきのこが入ってるっぽい。内袋に入った乾燥状態のものを見る限り、細かいパスタというか、いわゆる“お米”という印象はない。
箱の説明書を読むと、水から茹でて蓋をしたまま煮る……大丈夫なのか。計量カップがないので目分量だ。
その間に、焚き火にかけた鍋でミュニオが捌いた鳥肉を根菜と一緒に煮込む。一羽分の四分の一くらいか。鳥自体のサイズが大きいので、それでも鍋いっぱいになる。
カレーの方はミュニオに任せたんだけど、彩りと栄養と、たぶんエルフとしての好みでフリーズドライのミックスベジタブルを投入してる。スープストックで味付けされてるからコクも出るだろう。
女子力高いミュニオは料理が好きみたいだ。手際もいい。見た目はかなり女子力高そうなジュニパーさんの場合、基本的には器用なんだけど料理に関しては無頓着な印象を受ける。あと生人参が大好きっぽい。いまも皮付きのまま一本コリコリと嬉しそうにつまみ食いしてる。まあ、幸せならそれでよし。
「煮えてきたの」
「味付けは、このへん好きなの使って」
「かれえ……♪」
ジュニパーは脳味噌がカレー欲に占拠されてるようだ。
いろんな種類があるカレーのなかから、みんなの好みを聞いてミュニオがチョイスして仕上げる。ガラスボトル入りのマイルド系カレーソースを基本に、紙筒入りのカレーパウダーで辛味とスパイシーフレーバーを追加することになった。
「おお、美味そう。色もいいな」
「すごい……良い匂いぃ……」
「ジュニパー、ヨダレがすごいの」
ワイルドライスも完成したところでテーブル代わりの木箱に布を敷き、大きな深皿を並べて各自で好きな量をよそう。ちゃんと調理したワイルドライスを食べたことないのでわかんないけど、こういうものなのか水加減が微妙だったせいか、ライスというには少しモッチョリした感じになった。
香りは、かなり良いな。というかパスタっぽい匂いがする。ポルチーニの匂いか?
「シェーナ、
「いや、あたしのいた国と少し食材が違うから、どんなもんなのかなって。まあ、いいや。いただきまーす」
「「まーす!」」
大ぶりに切られた鳥肉は、噛むと歯応えが強めながら旨味が濃く脂の乗りも良い。
「パサパサは、してないな。むしろ、かなりジューシーな感じ」
「すごく美味しいの」
「爺ちゃんたちが狩りをした時期には、痩せてただけなんじゃないのかな?」
そうかも。ミュニオの切り分けが丁寧なこともあって部位はなんとなくしかわかんないけど、どこも美味い。ジュワッと肉汁が溢れて、程良い脂が身体に滋養として沁みてく感じ。
一本しか入れなかった腿肉が当たったらしいジュニパーは、骨を持ってモニュモニュと頬張っている。黙っていれば美形なのに、どこか食べ方が山賊っぽい。
「おいひぃ」
「良かったな。
問題のワイルドライス、パラッとした感触なんだけど噛むとモチモチプチプチして、食感が楽しい。ポルチーニのものと思われる芳しい風味がアクセントになって、馴染みはない味ながらも、なかなか悪くない。
「お代わりしていい?」
「もちろん、いっぱい食べて欲しいの」
「おう、どんどん食え。ミュニオも、たくさん食べて大きくなるんだぞ」
「わたしが、いちばんお姉さんなの……」
焚き火とランタンの光に照らされて、みんなで笑いながら美味しいご飯を食べる。
前いた世界では冷えて拗れた家庭に育ったから、仲のいい家族ってこんな感じなのかなって、変に感傷的になったりする。ふと泣きそうになって焦る。ミュニオと目が合って、笑い過ぎて涙が出たみたいに誤魔化す。
自分でも、感情の振り幅が大きくなっている自覚はある。良いことなのか悪いことなのかは、わからない。でも、あたしはふたりに会ってから、どんどん変わってきている。
そんな気がする。
「シェーナ、大丈夫?」
「ああ。すっごく美味いなあ、って感動してたんだよ」
「ありがとう、なの♪」
いつか、あたしは思い出す。ランドクルーザーに乗って、砂漠を旅した日のこと。いろんな人たちと出会って、いろんな奴らを倒したこと。月明かりの下、焚き火の前で笑いながら食べた食事のこと。これから先に何があったとしても。
自分が幸せだった日の思い出として、きっと。
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