狩り後ときどきカレー
「シェーナ、見えた?」
「おう、そのまま真っ直ぐ……止まって」
ぺすん、と小さな銃声が上がる。ルガー・ラングラーから発射された22口径ロングライフル弾は狙っていた首の付け根に吸い込まれた。
「やたッ」
被弾した鳥は、けたたましく鳴きながら飛び上がり跳ね回って倒れた。最期は恨めしげな声で、ひと声鳴いて静かになる。
「あの断末魔は、何度見ても馴染めないけど」
「そう? あれも丸々太って良い鳥だよ?」
あたしたちは、北に向かう旅の前に食料確保をしようと狩りに勤しんでいた。
肉へのダメージが少ないラングラーを使い、前にドワーフのターイン爺さんから聞いた、“大きな飛べない鳥”を小一時間で四羽仕留めた。
ちなみに“北に五哩ほど行ったところにある”と教えてもらった低木や茂みが広がる一帯は、なぜか北西側に十キロくらい進んだ位置にあった。移動したとも思えないので、爺さんがうろ覚えだったか、もしくはあたしたちが迷って別の似た場所に辿り着いたのかもしれないけど。
その“飛べない鳥”、名前は知らない。七面鳥のような姿とサイズで、土漠での保護色か羽の色は茶色い。あたしからすると、どこか名古屋コーチンっぽい印象を受ける。
飛べない代わりに隠れるのが上手く、走るのがスゲー速い。歩きだとどうにもならず、ランドクルーザーを使って荷台から撃つことになった。
「良いね、その銃」
運転席のジュニパーがラングラーを褒める。
「うん。威力はないけど、撃ちやすいし命中精度も高いな。ジュニパーも使ってみる?」
「ありがとう。でも、ぼくは運転の方が好き」
「ミュニオは?」
「大丈夫なの……やッ!」
風魔法、とでもいうのかカマイタチ的な何かが、遠くを逃げてゆく七面鳥コーチンの首を刎ねた。
「すげえ、でも怖えぇ! ミュニオ、なにあの技⁉︎ やっぱ“ウィンドカッター”とか詠唱したりすんの⁉︎」
「……ういんど? ううん、精霊魔法で、名前は知らないの。詠唱も、したことないの」
この世界、なんか“思ってたんと違う”ってことが、ままある。厨二病に優しいんだか厳しいんだかである。
仕留めた鳥は計五羽、たぶん解体しても十キロ以上はあるので、しばらく肉には困らなさそう。下処理はどこか夜営したときにでも落ち着いてやることにして、明るいうちに移動を続ける。
「“ツノの長い鹿”、いなかったの」
「爺さんは“鳥より鹿の方が美味い”っていってたから、本命は鹿だったんだけど」
「きっと“かれえ”にしたら、鳥も美味しいよ?」
「ジュニパー、カレー好きなのな。あたしもだけど」
「わたしも好きなの」
「そんじゃ、夜はカレーにしようか」
「「わーい♪」」
晩ごはんがカレーってだけで明るいうちからワクワクするとか、君らは昭和の小学生か。
その日は三、四時間くらい走って、明るいうちに夜営できそうな場所を探す。ひとや獣が近付いてきたら発見や対処がしやすいところが良い。
「ここを、キャンプ地とする!」
「「わー」」
いくぶん疑問形ではあるけれども、ミュニオとジュニパーは乗ってきてくれた。もちろん、元ネタなど知るはずもない。
キャンプ地に決めた高台の岩陰で、焚き火をして鍋を掛ける。三人揃って、鳥の羽根を毟る。
「熱湯に入れたら抜けやすいって聞いたけどな」
「いまは現実的じゃない方法だね。ものすごい水の無駄遣い……」
「出来たの♪」
「「へ?」」
「“浄化”の魔法で、毛や羽根を“不浄”として扱うの。そしたら……ほら」
「すげー」
ミュニオが毛抜きと洗浄を引き受けてくれたので、料理は格段に楽ちんになった。前から思ってたけど……エルフの魔法、なんか女子力が高い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます