屠る者たち
「左回りか……」
敵陣を西側から回り込む爺さんたちのサポートとなると、あたしたちのルート取りは東から敵に向かって反時計回りになる。右利きのあたしが長い
ジュニパーは笑って棒を拾い、砂の上に簡単な図を描く。
「中央の奥側は、ミュニオが弓と“まーりん”でサポートしてくれるでしょ?」
「うん」
「だったら中央東寄りを突っ切って、左回りで帰ってきたら良いんじゃないかな?」
輜重部隊と歩兵部隊の間にある、わずかな布陣の
「良いかも。爺さんたちの射程に入らないかな」
「大丈夫。お爺ちゃんたちが“りぼるばー”を撃つ方向は、“ほいーるろーだー”の後ろ側だから」
考えてみれば、そうか。ホイールローダーの尻があたしたちのいる方角を向く頃には、たぶんこちらは帰還してる。左回りで旋回してくれるなら、あたしの射撃はずいぶん楽になる。
「よし、それだ」
「行くよシェーナ!」
水棲馬形態になったジュニパーが腰を落としてあたしを誘う。鞍があるわけでもないのに乗ってて不安を感じたことがないのは、彼女の気遣いによるものなのだろうなと今更ながらに気付く。乗馬経験ないからな。普通の馬に乗ると、こんな簡単にいかないんだろうな。
「ありがとな、ジュニパー」
「ぷひゅン!」
褒めたり礼をいったりするたびに真っ赤になって鼻水を噴くのは変わらない。いつまで経っても慣れないのね、この子。
「じょ、にゃ行ってくる、よッ!」
「噛み噛みじゃねえか」
「気を付けて、ふたりとも。こっちは任せるの♪」
早くも南側の戦場からはリボルバーの連射音が響き始めている。遠過ぎてポップコーンが弾けるくらいにしか聞こえないが、そもそも悲鳴と怒号と破壊音が大き過ぎるのだ。
「あたしたちも、やってやるか」
「突入までは全力で行くよ、掴まって!」
「お、おおおおおおぉッ⁉︎」
あまりの加速に思わず仰け反る。速度はそのまま伸び続け、遮蔽や荷物や兵士を軽く飛び越え、近付くものを呆気なく弾き飛ばしながらジュニパーは矢のように突進してゆく。その速度は体感で優に時速百キロを超えていた。視界が縦に狭まり、突入予定だった陣形の隙間が一瞬で目の前に引き寄せられる。
「ひゃあああぁッ!」
あたしだって、遊びに来てるわけじゃない。怖がってばかりもいられない。
あっという間だった。五十発近くを消費しながら、仕留めた数はおそらく二十人に満たない。その代わり数倍の人間に重軽傷を与え、戦力外として敵の足手まといを作ったはずだ。
「ミュニオ、どうなった?」
「大丈夫なの。お爺ちゃんたち、無事に……思ってた以上の戦果を出してるの」
「あら、本陣を丸ごと潰しちゃったみたいだね」
ジュニパーの声に振り返ると、人混みの奥で煙が上がっていた。
「本陣には大きな炊事用の天幕があったみたいなの」
「ああ、偉い奴の飯はあったかくて美味いのが出るわけな?」
「そう。そこから、火が出たんだと思うの」
大小の爆発みたいのが起きてる。なんだろ。こっちの軍だと火薬兵器とかないと思うんだけど。
「あれは?」
「魔道具用の蓄魔力装置か、魔力充填装置かな。火魔法用の魔石を直火に掛けると、たまに破裂するから……」
「うぉう⁉︎」
ドゴンと激しい轟音が響いて、敵陣深くに真っ赤なキノコ雲が上がる。アニメみたいに大仰な爆煙なのに色が派手過ぎて現実味がない。爺さんたちの乗ったホイールローダーは、既に敵陣の西側に抜けようとしているところだ。距離も開いているので、爆発に巻き込まれることはないだろう。問題は、対応に出てきた重装騎兵の集団か。
「迎えは要るかな?」
「大丈夫、だと思うけど……」
「平気。わたしが援護するの」
ミュニオが滑車付きの
数百メートル離れたそれを正確に視認はできない。あたしには、ただ転げ落ちる兵士の姿が見えるだけだ。
「お、おお……おぅ」
「ミュニオ、すごーい……」
敵陣の奥で死角に入り、しばらく見えなくなった後、ゆっくりと東側から戻ってくるホイールローダーの姿が見えてきた。
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