ゴーインオン

 ええと……翻訳すると“手向かうなら殺す”、っていうような意味か。厨二感がカッコいいけど、ちょっと表現が伝わりにくいんじゃないかな。向かってきていた兵士たちも戸惑うような躊躇するような顔で足を止めている。意味を理解していないというよりも、近付けば殺されることを理解したせいか。まあ、そちらはジュニパー先生に任せて、あたしはやることをやろう。

 指揮官らしき白づくめの男の前に立ち、懐収納から22口径のルガー・ラングラーを出す。


「訊きたいことがある」

「貴様は、何もッ」


 パシン。


「のおおおおォ……ッ!」

「質問するのは、こちらだ」


 小口径低威力とはいえ痛みがないわけでもなく。足先を撃ち抜くと男は悲鳴を上げて転げ回る。涙目で睨み付けてくる男を見下ろし、目の前で撃鉄を起こす。あからさまに怯んだ顔を見据え、あたしは静かに尋ねる。


「お前たちの向かう先は、オアシスか?」

「そ、そうだ!」

「目的は」

「も、もくてき?」

「そこで何をするつもりだ」

「決まっているだろうが! 我がメッケル家の所有する水源であると内外に示して、帝国との交渉に入るのだ!」


 なんだそりゃ。私利私欲のために占拠するってことか。というか、内外・・? 内部抗争は、わからんでもないけど。って、どこのことだ?


謀反はんらんか」

「我らが奪われた侯爵家領地を取り戻すだけだ!」

「へえ。でもオアシスは、元々イーケルヒだかいう王国のもんだろ」

「イーケルヒはメッケルのひらいた地だ!」


 メンドくせえな。要は……母国イーケルヒが併合されたら帝国に尻尾振って爵位を受けて、左遷させられたから反旗を翻して――ってほど堂々とはしてないけど――旧母国領土を切り取る、ってことか。こいつの言葉が正しければ、だけど。

 帝国軍兵士を使って、帝国領を占領すんのか? それって、おかしくないか?


「まあ、どうでもいいや。現在オアシスは、あたしたちの勢力が占拠している。来るのは構わんけど、こっちの身内に手を出せば殺す。覚えとけ」

「誰が、そッ!」


 パシン。


「ぎぃ、やぁあああァ……ッ!」

「お前の意見は訊いてねえよ」


 もう片方の足先を撃つと、転げ回って痙攣し始めた。痛いのは当然ながら、すぐに死ぬような太い血管はないはず。ショック状態になったら死ぬかもしれんが、そのときはそのときだ。


「奴隷は何人いる」

「あ、ひゃい?」

「連れている魔力供給用の奴隷だ。兵士以外の人間は、何人いる」

「知らん! そんなもんは、砲兵と輜重の管轄だ! 贄の数など、わたしが知るか!」

「このおかしな乗り物に魔力供給しているのは、奴隷じゃないのか?」

魔導走筐マギクローラは最新鋭機材だ! 動力は龍種の魔珠に決まってるだろうが!」


 知らねえよ、そんなこと。だったら遠雷砲だかも魔珠チャージにしろよクソが。話が通じねえのか無意識の罵倒なのか知らんけど、あたしは既にウンザリし始めていた。


「「「おおおおぉッ!」」」


 パカン! パカンパカカカンパカン!


 連射音に顔を上げると、いま名前を知ったマギクローラの戸板の上でジュニパーが金色の空薬莢を振り出していた。瞬時に再装填して兵士たちに向ける。突撃の機先を潰されたのか倒れ伏したまま動かない者が六人、地べたに転がっている。


「ジュニパー、取り込み中に悪いんだけど」

「なぁに?」

「こっちには人質も奴隷もいないみたいだ。戻るよ」


 あたしが自動式散弾銃オート5を構えて兵士たちへの牽制を交代する。リボルバーを胸元に突っ込んだジュニパーが水棲馬ケルピー形態に変わると、周囲にどよめきが起きる。魔物だ魔物だと囁く声。その声に蔑みや侮りはなく、純粋な恐怖だ。この世界、魔法はあるけど万能ではなく、ジュニパーに蹴られたら簡単に死ぬ。


「逃すな! 掛かれ!」


 あたしが離れたことで気が大きくなったか錯乱したせいか、指揮官の男が金切り声で叫ぶ。それに呼応して襲い掛かろうとしていた兵士たちを、ひょいと躍り出たジュニパーが首のひと振りで弾き飛ばす。甲冑付きの巨漢三人がピンボールのように十メートルほど吹っ飛んで転がり、気を失ったか死んだかそのまま二度と立ち上がらない。

 残った大多数の兵士たちはその様を目の当たりにして、進むべきか留まるべきか躊躇したまま動けずにいた。あたしは彼らに向けた散弾銃の銃口を振って、失せろという意思表示を行う。


「“心の平穏・・・・”ってのを望む奴は、前に出ろ」


 兵士たちの視線は上官である白服の男に向かう。いくら見つめたってこいつが“降参して良いよ”、なんていうわけないし。その視線が意味するものは明白だった。あたしは紅い大型リボルバーレッドホークを抜いて指揮官の頭を吹き飛ばす。


「さあ決めろ、いますぐだ!」


 指揮官を殺してしまったことで、“オアシスに来やがったら殺すぞ”という警告は無駄になった。とはいえ、ここからオアシスまでは五十キロメートル前後ある。指揮官を失い、戦力の多くも統率も失った兵士たちだけが自主的にやって来ることはないだろう。

 案の定、あたしが見据えると全員が武器も装備も、全てをかなぐり捨てて散り散りに逃げ始めた。

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