少女辺境探査隊 -選抜試験-
@ROTA77Z
少女辺境探査隊 -選抜試験-
「この募集は軍によるものではなく、3群及び帝国、連合間における特別調整機関によって行われているます、ここのところはいいですか?」
面接官の話を聞いている私は、こんな退屈な話を永遠に聞くために志願したのではない、と言いたいところだ。
が、向こうも仕事だろうから聞いているしかない。
要約すると、
・探査遠征の任務には、3カ国合同の探査隊を編成して行う。
・選抜試験については、3カ国の女性メンバーを混ぜ合わせた編成で、必ず10名単位とし、協調性の確認を行う。
・その10名は、共同生活を行い問題発生時はボタンを押すことで、試験を中断できるが、その時点で参加者全員が失格になる。
といった辺りが、面接官の言いたい事のようだった。
大体解れば、後は聞き流しても平気、ところで何で私、応募したんだっけ。
そうだ、セントロの奨学生試験に落ちてお先真っ暗、と思っていた時に、この募集を見たんだ。
西域の再探査、それもたまに戦争をする3国合同なんて有り得ないと思われる内容だし、男女比率が1対10から更にひどくなりつつある今、報酬は持参金としたら、一級市民の第3夫人くらいには収まれるくらいの物だ。
つまり、生還率はあまり高くない任務なのだろう。
でも、このままでもお先が真っ暗なのは変わり無いから、賭けてみることにしたんだ。
「……と言うことで、協調性を持って望んでください。研修所には1週間後の馬車で案内しますが、長旅になるので旅支度を整えて、来ることを望みます」
と言われて馬車に揺られている訳だが、帝国の国境を越えて早2週間、乗り合い馬車の同乗者は居なくなり、寂しい平野を只々進んでいく。
やがて駐屯地のような場所で下ろされて、小さな馬車で山の方に連れていかれる。駐屯地では暖かい食べ物を出してはくれたが、帝国の兵士はいたって事務的だった。
この山の上が最終目的地であって欲しい所だ。
少し大きめな山小屋が4つ四角形に繋がった感じの場所が目的地だった。御者は私が降りるとさっさと引き返していった。
雪の降るなか、小屋の扉を開ける。
「9人目のご到着だ」
「後一人だな」
私は、何だか値踏みでもされているような気がしてきたので、先に挨拶をと、
「カルディナ、メー…」
「新入り、挨拶は全員が揃ってからにしよう」
と金髪の目付きの鋭い娘が言った。
「ああ、じゃあ荷物は何処に置けばいい?」
「好きな空いてる部屋に入れておいて問題ない」
と、黒髪のショートの娘が目で行き先を示してくれる。
「有り難う」
重い荷物を持って、空いていそうな部屋を探す。部屋を出て、繋がった隣の小屋から見ていくが、結局一番反対側の小屋の部屋しか空いていなかった。でも、そこはあと3部屋位は空いていたようだ。
部屋には、ベットと机と椅子、後は衣装入れらしき箱が1つ。服を着替えて、取り敢えずベットに横になる。
あの連中とこれから一緒に暮らすのか、と思うと少し気が重い。
横になると旅の疲れか、睡魔が襲ってくる。眠気にはかなわない、と微睡んでいると、突然の鐘の音が鳴り響いた。
もう朝か? と眠い目を擦りながら起き上がり服を着てから、先程のロビーらしき部屋に行ってみる。
既に私以外の全員が集まっていたようだった。やっと全員が揃ったのかと思えば、そこには、荷物を抱えたふたり組が立っていた。
「おい、何でふたりも居るんだ」
「私達は駐屯地で一緒になって連れてこられたんですけど」
「11人だ」「数が合わない」
各自おかしいと口にして、お互いを見回している。そして、その真ん中には例のボタンとやらが台の上に乗っていた。
「緊急事態だ、10人と言っていたのに11人いる」
「ボタンを押すべきなのか?」
段々とざわついてくるなか、さっきの金髪が、
「静かに、我々は試されているんだ。既に試験は始まっている。この状況事態が試験だと思えばいい」
「しかし、異常事態と言う認識も出来ない無能者と判断される可能性だって有るわけだし」
「私は、この事態にどう対処するかを見られている方に1票」
「私も」「そうですわね」
「あのー、いつまで私達はここで荷物を抱えていれば良いのかな?」
「そうだったな、済まない。さっきの新入り、そばの部屋空いていただろうから、案内してあげて」
「新入りってー、分かったわ、付いて来て」
空いていた部屋に案内する。彼女たちは、荷物を置き、外套を脱ぐとすぐに部屋から出てきた。
そしてまた全員でロビーに集まることになる。
「全員集まったな。取り敢えず今後の方針決めをしよう。その前に、多数決で決定しない限り、ボタンは押さないし、勝手な行動で押すことは許さない。でいいかな?」
全員頷いた。
「では、次は各自が聞いている試験内容の確認からだ」
「それだったら、自己紹介も兼ねて話すのはどうかな?」
周囲の理解が取れたようなので、
「じゃあ、私から。メーベル郡カザルのカルディナ。教えられた試験内容は、各国混合の10人で集まって集団生活の協調性を確認する、と言うことだったわ。そしてボタンを押したら試験は終了、全員失格」
「次は私がやろう」
と先程の金髪が話し始める。
「帝国東部のカリアルから来た、クレディアだ。試験の内容は、協調性及び団体行動の相性を見る事で、問題が有ればボタンを押すことで試験を中止できる。そして参加者は10人1組で、行う。各国混合だが人数比はチーム毎でバラバラ」
それを受けて話し始めたのは、さっきのショートの黒髪。
「わたしも、試験内容については同じなので、省略。連合南部のキャラルの出身。ラズモアよ」
以降も試験内容については、余り違いが無く自己紹介が続いた。11人いると言うことを除いては、まずまずのスタートかもしれない。
帝国西部、クザルのオリンピア。
連合北部、学園都市トーラのユーフォミア。
トルケル郡南部、リーパのララミー。
ウリーゲル郡中部、コラスのフリンジ。
連合南部、ウィスカーのグレミア。
帝国北部、ミューズのイストリア。
帝国南部、スタフォロスのグレイシア。
連合北部、ステインのピクシー。
よくもまあ、バラバラに集めたものだ。知り合いが居ないようにとの配慮だろうが、地域まで見事にばらしている。
金髪のクレディアが、
「この中にお互いを知っているやつはいるか?」
頷くものは居ない。
「面接官の言った通り、見事にバラバラだ」
「ストラバーサイト、サヌルニラ」
「ヌー、フラ…」
「あとそこ、自国語を使うな。ここではオープンに公用語だけで話す、でいいな」
「おい、仕切るじゃないか。実はお前、潜り込んでいる試験官じゃないのか?」
と、注意された連合のグレミアが、食って掛かる。
「お前たちじゃ、らちがあかないからやってるだけだ。それに本当に試験官だったら、最初から目立つことはしないな」
ここは、割り込むしかない。
「まあまあ、私も着いたばかりなのだけど、 他に何かここの情報で共有する事はないの?」
黒髪のラズモアが、
「備品のリストが有っただけ」
備品は、
食料約1ヶ月程度
武器
…
など、最低1ヶ月はゆうに暮らせる位の物資が有るようだ。リストを隣に回す。
「ちなみに、試験期間ってどれくらいだったっけ?」
「特に明言していなかったと思うわ」
「そうね、共同生活をして適正を見る、後はここに来れば解ると思っていたし」
「と言うことは、1ヶ月間でこのメンバーと仲良し子吉になれば良いわけだ」
「いや、1ヶ月と決まった訳じゃ無いぞ」
「なんで?」
「我々の目的は調査隊の結成だ。食料の現地調達や食い繋ぐ事も試験内容に含まれているかもしれないから」
「この冬山で獲れるのは、せいぜい野うさぎ位じゃないのか、確かこの辺りの出身居たよな」
「私の事? 北部とはいえ、もっと東ですけどね。で、今の時期獲れるのは野うさぎとフェルンぐらいかな」
「フェルン?」
「「キツネ」」
「キツネとはちょっと違うのだけれど、まあそう思ってくれてもいいわ。それよりも、この時期下手に大雪が降ったら、3ヶ月は山に閉じ込められるの、これは前提として重要だと思うわ」
「有り難う、小動物は狩れるが、最悪雪で3ヶ月は閉じ込められる可能性がある。他には何かない?」
試験における最悪のシナリオを出していく、
期間は最長3ヶ月は見ておく必要があるが、食糧は1ヶ月分の備蓄。
自給自足を示唆する、武器類の備品。
他には、この場の険悪な雰囲気。
「食糧の管理は、各国から代表者を出して共同で行う」
「何で国で分けるんだ? どの国のやつが11人目かも判らないし、試験の趣旨として国なんか気にしない方がいいんじゃないか」
「わたしは国別に賛成、まずは国ごとに纏まって相互監視をする体制が望ましいし、各国の名誉をかけてそれを行えると思えるから」
「名誉ね、名誉ある戦い、から名誉ある共同作業。上は何を考えているのやら」
「そんな風に考えない方が、良くなくて? 手と手を取り合って、西域の開拓へ進むと言うのは素晴らしい事だと思うのだけれど」
「前にもやったけど、結局潰しあって頓挫したって話」
「それは各国別に派遣して競争させたせいじゃない? だからこそ、今回の混成派遣を模索しているのよ」
「取り敢えず、管理者を決めよう。国別以外の案は?」
「セントロ出のお姉さまはどお?」
「セントロ出自体いるのか?」
おずおずと、ふたりが手を上げる。
「セントロ出ていて、年長者かも知れませんが、それだけで決めてもらうのは何か不愉快です」
「おねーさまー、頼らせてー」
「そこ、ちゃかさない」
「2案が出たが、他には」
「さっきからあんたが仕切っているのが、気に食わないだけだな」
「じゃ、後はあなたに任せるわ、進めてくたさる?」
「わっ!、分かった。他に案がなければ、決を採ろう。セントロ組もいいですね」
「決まれば引き受けますが」
「国別に挙手」
6名の手が挙がった。
「じゃあ、各国で協議して担当を決めてくれ」
結果、
帝国は、イストリア、
連合は、ピクシー、
3群は、私が担当になる。
「では、在庫の確認と配給計画及び、盗難防止策の検討をお願いします」
「盗難防止? この中に盗人がいる前提かよ」
「3ヶ月想定だと、ひもじくなるものも出て来てつい、と言うことを避けたいだけです」
「未然に防止するために宣言をしておくと言うことですね」
「配給計画は考えても良いけど、調達組も組織しないと」
「今時点で、個人持ちの食料も拠出させる?」
「嗜好品を取り上げるって!」
「みんな平等にする必要が有るか、なんだけど総量の確保には有効だし、後で出したら盗んだと思われたりするから。各自で持ってきてもらう? それとも私達で各部屋回って検査する?」
「検査に賛成、拠出だと隠し持っているかもしれないし、みんな検査したっていう連帯感が出ると思う」
「さすがに連帯感までは無理だと思うけど、同じ立場と言う意識付けには成るんじゃないかな」
「それが連帯感なんだけど」
「では、決を採る。拠出がよいとおもうもの」
誰も手をあげない。
「では、一部屋づつ廻るから、その部屋の人は来てね」
各部屋を回って集めるとそこそこの量が出てくるものだ。
ほとんどが、長旅用の携行食などだが、私のようにクッキー等のお菓子類もそこそこの量が有った。
「では、これらも併せて管理してくれ。みんな協力有難う」
「今日は普通の量で作って、明日から徐々に量を減らしましょう。減らしても、1日2食は出せるようにしたいから、調達頑張ろうね」
10日が過ぎた。生活のリズムも決まりはじめている。当日の配給分の材料出して、各国別に集まって料理して食べる。
協調性? は、狩に行くときに獲物を隠匿しないように相互監視をする時ぐらい。
まあ、大きな問題もなく過ごしているわけだが、これが試験の主旨に合っているのかは疑問が残る。
でも、やはり問題は起きた。
夕食時に、グレミアが料理が似通ってきたが、他の種類の材料とか出せないのか? とピクシーに絡んでいる。
ラズモアがなだめているが、少し騒がしい。
「連合には芋料理以外は、大して違いのある料理なんか無いんじゃなくて?」
と帝国のテーブルから、揶揄が飛ぶ。
グレミアは、帝国のテーブルを睨みつけている。ラズモアは引続きなだめ役に徹している。
「その芋料理も、芋しか入って無いんでしょ(笑)」
と追加の野次に対しては、ラズモアが切れた。
「ほー、帝国さまのお口には合わないかも知れませんが、連合の芋料理を舐めて欲しくは無いですね」
「芋娘が作る、芋料理か」
グレミアが、今の発言の主、グレイシアの首根っこ掴んで立たせる。
「もう一回、言ってみろ」
「ああ、何度でも言ってやるさ」
といって、お互いに掴み合いの状況になる。
そこに、今日のうちの料理担当のララミーがトルケル風料理を抱えて入ってくる。
ふたりは掴みあっている手を離したが、グレイシアがグレミアを軽く突き飛ばした。そして、その先にはララミーが……
後には、無惨に飛び散ったトルケルのウサギのシチューパイ……もどきが有るだけだった。
「ララミー、大丈夫?」
「ええ、でも」
と床を見るしかない。フリンジが立ち上がって、
「どうしてくれるんだい、おふたりさんよ。こちとら夕食お預けに成っちまったんだけど」
「こいつが……」
「グレミア!! 申し訳ありません、当方の料理を御一緒しませんか?」
と、ラズモアが場を取りなそうとしている。
「口に合うか分からないが、うちの料理もまだ有るから、食べてくれ。後このふたりは、食べ物を無駄にしたので、明日1日食事抜きの罰、辺りでどうかな?」
とクレディアが、提案してきた。
「これは、被害を受けた私達が決めて良いことなの? みんなの食料何だから、みんなで決めた方がいいと思う」
「……」
「じゃあ、私からの提案。明日の食事当番はこのふたりをメインにやってもらう。そして作るのは全員分。何風にしても構わないけど、全員同じ食事をとる。宗教上とかで食べられないもの有ったりしないよね」
一同を見るが、一応大丈夫そうだ。
「じゃあこの案に賛成は?」
7人の手が上がる。
「それで良いわね。じゃあ、明日はお願い。でもその前に、ここの片付けはしてくださいね」
そして、他のテーブルから食べ物を分けて貰う。
「これ辛いけど、美味しー」
「帝国の味付けは、トルケルよりも少し辛めかな」
「連合のは芋が多いけど、甘いのやら辛いのやら多彩な味付けですね」
「これだったら、明日の料理うちからも一品は出してみたいですね」
何故か被害を受けたうちだけが和気相合と食事をしている。多分、自分達も自分達の味に飽きが来ていたんだろう。
次の日は、フリンジも参加して、3ヵ国の統一感の無い料理が出たが、それなりに好評だった。
暫く食事当番は、国ごとに日にちを決めて担当する感じで、如何に少ない材料で美味しく作るかを競ったりもした。
料理を通じて相手が見えてきたのか、国でどうだとか言ういさかいは、余り見られなくなった、が逆に物事に対する考え方でトラブルが起こることが多くなった。
その一つは、食料調達の遠征についてだ。
歩いて往復2日位の半径は、ほぼ調査と狩りをしてしまっている。それを広げようと言う派と、雪が降って戻ってこれなくなる恐れを懸念する派と意見が別れて纏まらない中、本格的な大雪が降り始めた。
こうなる前に遠征すべきだった、と言う奴も居るが、お互いの不信感でそんな風に出来なかったのは、みんな百も承知だ。
「イストリア、これってどれくらい続くんだ?」
「私の地方だと、長くて1週間降ったら暫くは晴れてるわ。そして、その後また1週間どかっと降る感じ。この辺も似通っていれば良いんだけど」
「半端ない降り方で、もう1週間が過ぎようとしてるけど、やむ気配ないな」
「雪かきでヘトヘトだよ」
そういえば、なにやら向こうの方が騒がしいが。確か、”西域探索をするとしたら、どの様に行うのが良いか?”の検討会だった筈。
「だから、キャラバンの方が不測の事態に対しての対応力と持久力を持った運用が出来る事に成る。そちらの中継点を繋いでいく方式だと、情報収集は都度出来るかもしれないが、何処か中継点がお釈迦になったら、その先の枝の連中は全滅だし。それに、物流を維持し続けるのに、キャラバンの10倍の規模は必要に成るんじゃないか?」
「探索の目的は、情報を持って帰ることだわ。行ったまま、帰ってくるか分からないキャラバンよりも、都度都度情報を物流上で後方に送るこの形態の方が、確実に探索結果を共有できるの。それに規模については、10倍は大袈裟ですわ、まあ5、6倍を見込むのはしょうがないとしても……」
「私達の目的は、何処まで行きましたか、じゃなくて何を見つけられるかだと思うのだが、どうだろう」
「何処までいけました、そこには、何もありませんでした。も重要な情報なのではなくて」
「よーし、一旦休憩にしましょう。つぎはキャラバン組と中継点組入れ替わって議論ね。でも、セントロの授業がここで役に立つとは思ってもみなかったわ」
「ユーフォミア、セントロではどんな感じてこれをやっていたの?」
「そーね、裁判での告訴側と弁護側を想定してやることが主だったわね。内容は相続から殺人まで色々な事例でね」
雪かき以外、外でなにも出来ない状況では、議論も有意義な娯楽の1つとなる。
我々の今度の活動に有意義な内容は、熱くなれるが、果たして合格できるか? は別問題だ。
そして、その3日後、雪が止むのと合わせたかのように、事件が発生した。
久々に雪がやんで、青空が垣間見える。ウズウズしていたメンバーは既に外に繰り出している。
雪かきをしつつ、周りの整備を行っていくが、少し小屋から離れたところまで行った娘たちが、慌てて戻ってきた。
「たいへーん!!道がかなり埋もれてしまってるの」
見に行ってみると、登ってきたと思われる道筋は跡形もなく、白い布を被ったような山肌にしか見えない。
「これ、後1ヶ月位で溶けるものかな」
「この調子で、後数回降ったら絶対無理ね」「これ、少し溶けて、また凍ったりしたら、どけるのもっと大変に成るよね」
遠く山肌を見つつ、みんなでお互いにみつめあうしかない。
「道の整備は出来るところまでやっておいた方が、後から楽に成る筈」
「そうね、調達組と半々で作業しましょう。みんなー、部屋で鈍っていただろうから、体うごかすよー」
天気が良いのと、久々の外なのでみんなてきぱきと動いている。
でも、好天は3日ともたなかった。
外のどんよりとした天気の様相は、部屋の中でも余り変わらない。
交替で雪かきを行う、以外は外に出る訳にもいかない。
残り少なくなっていく食料を気にしていると、段々と気が滅入ってくるのは、私だけではない。
今日は、集めたお菓子類を特別に配給することにした。
甘いものは、多少の空腹感を補ってくれはするが、滅入った気持ちが一気に晴れるほどでもない。
次の日の朝、ユーフォミアがホールで倒れていた。
顔に殴られたような跡と、腕に怪我をしている。見つけたピクシーが応急措置をしたが、巻いた包帯が痛々しい。
何が起きたのか問いただしても、頑なに話すことを拒むユーフォミア。
疑念は色々な所を突き刺し、互いの不信感を煽っていく。
連合内でのリンチから、彼女の配給分のお菓子を奪ったまで、色々な噂が渦巻き大きくなっていく。
「もう、ここで誰がユーフォミアを怪我させたかはっきりさせた方がよくないか?」
「連合の連中を問い正した方がよくないか?」
「そもそも、何が原因なんだ?」
苛立ちが、徐々に言葉に成ってくる。
「追求すべきだろう、ユーフォミアが話したくなくなるようなことをされた、と言うことはこのチームに向かない奴が居るってことだから、今後のためにも、明らかにしておくべきだ」
「彼女が言わないのは、折角出来たチームを思ってことさら糾弾するようなことにはしたくないからじゃないか」
「でも、やった本人は反省しているのか?今心の中で笑っているような奴だったら、絶対に一緒にチームなんて組めないわ」
各自の意見が交差し出して、混乱の熱気がホールを満たし始める。
そんな時、切なく物悲しいフレーズの歌をオリンピアが歌い始めた。
徐々に喧騒は沈静化していき、彼女の歌に聞き入っている。帝国の歌なのに、何故か知っているような気がする。
彼女の歌が終わると共に静寂が訪れる。
ラズモアが、「有難う、オリンピア。素敵な歌だったわ。でも、このままではラチがあかないから捜査を行うか、各自を簡易裁判で尋問するとか検討しないといけなくなるけど?」
「この進め方について、決を採る?」
とクレディア。
「その前に、良い機会だからみんながどんな気持ちでこの試験に臨んだかを聞きたいな」
否定的な意見は出てこない。
「じゃあ、言い出しっぺの私から」
とセントロ落ちてからここに来て感じたことを話す。
「で、応募したときは、自棄だったけど、今はメンバーの事に熱くなれるこの皆で探索に出たいと思っています」
各自、動機や目的意識などは多少違っているがこのメンバーでの絆を感じているようだ。
だから、この事件に対しての熱くなれるのだろう。
全員がお互いの目を見て頷きあっている。
「みんなの気持ちはお互いに分かったと思う、だがその前に、この問題を解決しないと…」
とクレディアが話してると、すくっと立ち上がって、テーブルのボタンを引っ張った娘がいた。
ユーフォミアだ。
「え、なんで?」
など、驚きの声が上がる中、凛としたユーフォミアが話し始めた。
「皆さんは合格です。黙っていて済みませんでしたが、私も同じ受験生なのです。調整官の役割を試験されているので、皆さんがたを成るべく自主的に纏める方向に導くのが課題です」
「成るべく、自主的に、纏める?」
「はい、誰かがボタンを押してしまったり、私が判断して押してしまった場合は、失格となります。逆に合格と判断した場合は、ボタンを引いて知らせますが、あくまでも当初予定の期間を過ぎていないと正式には認められません。皆さんは、予定の期間を3日越えて協調有る方向性に纏まったと判断されました。このテストにおいては、始まって1週間でメンバーの半数に死傷者を出したチームもあり、各員の相性を含めて細やかな調査検討をした上で組み合わせていますが、実際は共同生活の困難を乗り越えられるか、が鍵なのです」
「これから私達はどうなるのですか?」
「帝国の西域に有る基地で訓練の後に、西域探索に向かってもらいます。と言うこと以上は、訓練生でもある私には、知らされていません」
「それならば、みんなで語り合った夢を実現するために旅立とう!」
それでも、結局我々は3ヶ月間雪の中に閉じ込められていた訳なのだが。
実は、ボタンを引くことで、予備の倉庫が開放されて食い繋ぐ事が出来た。
でも、もし押していたら……
考えるのは止めよう、これから探索のための訓練が始まるのだから。
後日談、
「ユーフォミア、調整官とは言えあの時の行動はルール違反なのでは?」
「いえ、私は何も違反はしていませんよ」
「?」
「だってボタンを押してはいないんです、引いたんですから」
fin
少女辺境探査隊 -選抜試験- @ROTA77Z
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます