第二羽


そして二時限目が始まる鐘が鳴った。



≪トイレの話をするとトイレに行きたくなる事ってあるよね?≫


≪ない≫


≪ないよ≫


≪どーしてこんな時ばっかりノーコメントじゃないの、コマドリちゃん!≫


≪だから行っておけとあれほど言ったのに。しっかり教員に断ってから行くんだぞ≫


≪あーん、晒し者だよー。嫌だー。一度しか言ってないのにあれほどなんて誇張して言うタンチョウが憎い≫


≪困った奴だな。ゲームなんてしてるからだ≫


≪早く行け≫


≪うん、我慢は良くない≫



 そして僅かの沈黙の間にタンチョウはノートに板書をしつつ事態を簡潔にまとめた。



≪それでどんな物が盗られたのか分かったの?≫


≪いや、そこまでは突き止めていない≫



 二時限目の間のメッセージはそれが最後だった。


 授業を終えるとタンチョウは再び吉田の事を調べるために体育館へ向かった。吉田はバレー部に所属している。


 屋上へ向かって駆け下りて来た吉田生徒と同じように体育館やバレー部室へ行ったタンチョウはほとんど成果は上げられなかった。


 休み時間が終わりそうだったのでタンチョウは教室へ引き返した。そして三時限目が始まる。



≪俺は収穫はなかった。リミットは放課後前だろうな≫


≪そうみるべきだな。リミットの指定はない≫


≪思うんだけど、犯人がライバルとは限らないんじゃないかな。意地悪のためにやるってこともあるよ≫


≪確かに。そんな奴は最低だけどな≫


≪該当者はいるのか?≫


≪調べはそこまで進んでない≫



 四人の調査は順調とは言えない。犯人の特定も出来ていなかった。行き詰っている。



≪プレゼントは小物だろうね。それとよく使う物だよ、きっと≫



 キセキレイが初めて調査報告らしい事を言った。



≪もー、まったく暗いよー、暗すぎるー。やっぱりわたしが盛り上げなくちゃこのメンバーは明るくならないんだよね。仕方がないなー≫


≪どうして小物なんだ?≫


≪一年三組は二時限目が体育だったから見てきた。

 吉田くんはあれだね、気が小さくて友人も少ない。いや、ちょっと違うな。心を許している人を選んでる。限られた仲間と接してそれを広げようとしない。

 あと、自己主張もしないし。家も裕福じゃない。だから小物で、プレゼントとして成り立つ程度に希少な、よく使う物が誕プレだよ≫


≪どうして友人関係が分かるの?≫


≪体育を見てきたんだ。

 サッカーをやってたんだけど彼ったらゴール前でパスをもらったのにシュートしなかった。他の子にパスを出してたんだ。体育の授業のサッカーなんて適当にポンポンと打ってりゃいいのに。

 フィールド上を走ってるんだけど近くには仲のいいメンバーが必ずいた。パスを受け取って出すのも同じ人ばかり。あんまり仲のよくない生徒がボールを持つと動かないけど、仲のいい生徒が持つと一歩二歩と前に出る。

 積極性に欠けるねー、点数は三だぞー≫


≪つまりどういうことだ?≫


≪自己主張しないし気が小さいから贈る物も主張の強くない小物。

 履き古した靴を使ってるのは買えないって言うよりも愛着が湧いてるから。筆箱とブレザーを見てきた。

 ブレザーは他の人の名前が書いてある譲ってもらった物、筆箱はちょっと高価だけど年季が入ってる長く使った物。吉田くんは物に愛着が湧きやすい。だから人に贈る物もそういう選択になる≫


≪なるほど≫


≪さすがね、キセキレイ≫


≪わーい、コマドリが褒めてくれたー、嬉しいよー≫


≪一度だけだから≫


≪またまたー≫


≪でも、どうして一年三組の二時限目が体育だって知ってたんだ?≫


≪え、だって全クラスの時間割を把握してるから。写メってるの。こういう風に校内で活動するなら必要でしょー。持っておきなさいよー≫


≪私も持ってるけど見に行こうとは思わなかった≫


≪素直に賞賛を送ろう≫


≪いや、待て。みんな変だぞ。どうして注意してやらないんだ。授業を抜け出すなんてダメじゃないか!≫


≪うるさい、黙れタンチョウ≫


≪なんだとお≫


≪でも、何を贈るつもりなんだろう?≫


≪プレゼントの中身を推測するなんて無粋だよ≫


≪だな≫


≪タンチョウは碌な物をプレゼントに選ばないだろうねー≫


≪なにぃ、しっかりとその人に合った物を選ぶさ≫


≪じゃあ、わたしに何を贈るか言ってみてよ≫


≪そうだな、キセキレイに贈るならただ一つしかない≫


≪なに?≫


≪ゲームだな≫


≪どんなのを贈るの?≫


≪うん、チョイスは重要だからな。慎重を要するがパッと閃いた物がある。ゲーミングキューブだ≫


≪ああ、あったなあ。そんなの≫


≪べ、別に嬉しくないんだからね。そんなの貰っても。ノリオパーティとか、超乱闘とか、ペーパーノリオとか面白いゲームがたくさん出来る上にわたしがまだやった事がないなんてそんな事は全然ないんだからね!≫



 そんなこんなで三時限目は終わった。


 休み時間が始まった直後に再びメッセージが入った。



≪それはそうと休み時間にはしっかりとトイレに行けよ≫


≪うるさい、タンチョウ≫



 トイレを済ませたタンチョウはある確信を持ってトイレから出た。犯人は未だに吉田の誕プレを持っていてどこかに保管しているという事を。


 三時限目の間に彼は頭をフル回転させて考えていた。


 恨みを持つならゴミ箱だ。意地悪をしたいなら別の場所に置いておく。だが、阻みたいのなら持っておくだろうと結論を出した。


 時間はあまりない。最善なのは昼休みに見つけてしまう事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る