高崎家の下宿人達
下之城司
第1話 新たな同居人
「本日よりこちらでお世話になります、
突然俺の家にやって来た美少女は、新たな同居人らしい。
高校一年生という新生活を無事に終え、春休みを満喫していた俺の元に現れた美少女こと九条撫子さん。
どこのかはわからないけどシワのないセーラー服を身にまとい、背筋をピンと伸ばし俺を見つめるその姿は、どことなく育ちのよさを感じさせる。癖の無い綺麗な黒髪を長く伸ばし、化粧っ気を感じさせない顔は端麗で、物腰柔らかく丁寧な言葉遣いのお嬢様系美少女っ感じだな。
「え?」
とは言え、そんな話は聞いていない俺は疑問を浮かべるだけで精一杯だった。
確かにウチは下宿のような事をやっており、今も何人か住んではいるけども。人が増えるなんて聞いていなければ準備もしていない。
そもそも、数年前に祖母が他界してからは新たな入居は一人も来ていなかったのだ。
掃除だけは欠かさずにやっているからその点は問題ないけれど、心の準備はできていないのだから大問題である。
「あ、あの! お爺様から伺っていませんか?」
なるほど。犯人がわかったぞ。
『しばらく留守にするから、家の事は頼んだぞ』
そう、唐突に爺ちゃんに告げられたのが2週間ほど前の話。
一応下宿のような事をやっている癖に、たまにフラっと居なくなる事がある。我が祖父ながら自由な事だと思う。まぁ、一応の責任感があって俺に家の事を頼んだんだろうけど……。
最初からその為に出掛けたのか成り行きなのかはともかく、留守にしている間にこの子と会って、下宿させる事を決めたのだろう。今もまだ帰って来ていない理由はわからないけど。
「申し訳ありません、恥ずかしながら何も聞いていなくて……」
本当に恥ずかしい。そして申し訳ない。
「あっ! お孫さんにお会いしたら渡すようにとお預かりしたものが……」
「祖父がお手数をおかけします……」
九条さんから渡されたものは封筒だった。すぐさま開封し、中を見ると爺ちゃんからの手紙が入っていた。
『しばらく家で暮らすから、この子の面倒見てやってくれ』
要約するとこれだけだ。他に一応九条さんの氏名生年月日連絡先等も書いてあるけど、それだけだ。他にも俺に伝えるべき事があるだろう。
そもそも、事前に連絡とかできないのだろうか。めっちゃ気まずそうにしてるぞ本人。下宿予定の家に行ったら話が通っていなかったんだから無理もないけどな。
爺ちゃんに電話をしても手紙に書いてある事が事実だって位しか確認できないまま手が離せないからと切りやがったし。とは言えそこまで考えなしの爺だとは思いたくないので、きっと理由があるんだろう。というよりもあって欲しい……。
あえて詳しい事を書いていないのは、そういう事なんだと思う。本人から言うなら聞くけど、俺から聞きだす必要もない。
なら俺は爺ちゃんの代理として管理人の仕事をするまでだな。
「すいません、お待たせしてしまって。祖父に確認が取れました。」
「い、いえ! 私こそ急にお尋ねしてしまって申し訳ありません!」
「話を通していない祖父が悪いんですから、気にしないで下さい。むしろこちらの不手際が申し訳ないです。」
マジで、貴女は気にする必要はないからそんな慌てなくても大丈夫です。でも爺ちゃんは気にしろ。
「では改めまして……祖父から聞いてるかも知れませんけど、
「九条撫子と申します。こちらこそどうかよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げる九条撫子さん。
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ、手紙にありましたけど同い年みたいですし。俺も16ですから」
「ありがとうございます、高崎さんも気軽に接していただけると嬉しいです」
そういいながら微笑む九条さん。美形は得だな、これだけでも優しくしてあげたくなるぜ。仕方が無いから部屋に案内する時に重そうな荷物は持ってやった、俺も男だからね。それなりに荷物があるからここまで来るのも大変だったろうけど、引越しと考えると荷物が少ないのは後で宅配されるらしい。
「着いて早々で申し訳ありませんが、簡単に家の事を説明させて下さい」
「とんでもないです、是非お願いします」
家を歩きながら説明をする。風呂やトイレは特に気になるだろうしね。
「それでここが食堂……になるのかな。ただのダイニングキッチンなんですけど。基本的に食事はここでとります」
「はいっ」
わかんないことや忘れたらまた後で何度でも聞いてくれって言っておいたのにかなり真剣だ。根が真面目なんだろうな。
「この時間だとちょうどお昼の準備中かな」
まぁ匂いがしているから薄々感づいてはいるのだろうけれど、会話にさえなれば当たり前の事でも何でも口に出すのさ。
「明、今大丈夫か? 話があるんだけど」
「ん? ちょっと待ってろ」
ダイニングからキッチンに声をかければ、返事と共にエプロン姿の明がこちらへやってきた。
「九条さん、彼は
「九条撫子です、よろしくお願い致します」
「本田明、ここじゃキッチン担当してます。って同い年って事だしタメ口でいいか?」
「はい、もちろんです」
またもや深々とお辞儀をする九条さんに対して初手タメ口を求めてくる明。対比が凄いな。明は体格が良いから怖がられないか少し心配だったけど杞憂に終わったようだ。まぁ見た目は厳ついけど今日も本当は作る必要はないのにお昼を用意してくれる良い男だからな。
「九条さんはお昼はもうとりました?」
「いえ、まだです」
「明、一人前追加してくれ」
「あいよ。じゃぁ俺は料理に戻るんでよろしく」
のんきにキッチンに戻っていったけど、行き成り一人前増えるのは面倒だろうか。苦労をかけます。でも爺ちゃんが悪いんだ、クレームはそちらに頼むぜ親友。
「本人も言っていましたが、あいつが料理を作ってます。食事がいらない場合はなるべく早めにここにあるノートに書置きをするか直接伝えて下さい」
「わかりました! 本田さんもお仕事をなさってるんですね」
「そうですね、まぁバイトみたいなものと思っていただければ」
案内を再開しようとダイニングを出ると、少し驚いた顔をした桐生さんが居た。
このショートカットがバッチリ似合っていて、スタイルもよくてシンプルな服をしっかりと着こなしている一見知的で頼りになりそうなお姉さん。実は全くそんな事はないからな。
「おやおや、大和くんも隅に置けないね。こんな可愛らしい彼女を連れ込むとは」
ほらさっそくからかわれた。
「桐生さん、こちらは九条撫子さん。今日から下宿する事になったから女の子同士色々と気にかけてあげてね」
年上の女性の面倒なからかいはスルーに限るぜ。やれやれって顔でこっちを見るな。ため息をつくな。
「大和くん、九条さんが対応に困ってるよ」
「桐生さんのせいだけどね。九条さん、この人は
「失礼しました! 九条撫子です。よろしくお願い致します」
「こちらこそ。高校生?」
「はい、16歳でこの春で二年生になります」
「ほほう。同い年の美少女が一つ屋根の下にいるなんて、青春って感じだねぇ」
「それだけで青春も何もないでしょ……」
そう、たとえ新しい同居人が美少女だろうと特別何かが変わるという事もないだろう。確かに日常生活に多少花は添えられるだろうけど、それだけの話だ。
そもそもいつまで暮らすのかもわからないし……。
でも、楽しくはなりそうだな。
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