ゾディアテイマー

アリエッティ

 星の獣

 大都市コスペルでは野性が飢えていた。陸、海、空、全ての境界で争い続け、生存を食い散らかしていた。

数ある星の獣、上位を統べる12星座。

それを筆頭に獣達を扱う使者がいた。


彼等は、ゾディアテイマーと呼ばれる


 「はっはっ..はぁ!」

森の草木をかき分け必死をこいた足が土を踏む。後からは翼の生えた獣がクチバシを突き立て迫り来る。

「何匹いんだよ!?」

草道を抜け、大きな広場に出ても数は減らず、隠れる場所を失った事でより焚きつける事となってしまった。

「もうダメだ..」

ギィギィと鳴く鳥たち、つんざく用意はとうに出来ている。

「キャンサー。」「えっ?」

突如背後から水飛沫が飛ぶ。

少年を避け翼目掛けて吹き掛かる。

「子どもか..下らんな」「何..?」

黒髪の長髪、装いも同じ黒一色で愛想は皆無。目つきが悪く、こちらを見下げて睨んでいるようにも見える。

「貴様、テイマーか?」「あ、あ..」

「...聞いてるんだ、答えろ。」

尻餅をつき、何かに怯えている。少年は、男の背後を指差し叫ぶ。

「カニ..蟹がいるっ!!」


「オレのことカ!」

「何なんだよソイツ!」

「何を驚いてる?

ただの召喚獣だろう。周りに寝ている

連中と何も変わらんぞ」

「全然ちげぇヨ..鳥と蟹じゃア。」

「く、来るな!」「....何だ」

仮にも救われた身でありながら助っ人を化け物扱い、大半は蟹のせいだが。

「そうか

お前はそれも知らないのか。獣が懐けば背後に憑き召喚獣となる、コイツは俺の召喚獣という訳だ。」

蟹座に位置するキャンサーは12星座の一つ、海に存在する水の星である。

「召喚獣っ!」

「なんだ、知っているじゃないか。」

「それって鳳凰もなれるか⁉︎」

「...鳳凰、そういう事か。

この森の鳳凰座を狙っていたのか」

奥に眠るという鳳凰の化身を手懐けるという事は、森全体を手中に収めるという事だ。

「..いいだろう、鳳凰とは相性が良いキャンサー、力を貸せ。」

「オ前のタノミなら聞いてやるヨ!」

水を甲羅に身に纏い、男の肩にがっしりと脚を絡ませる。


「おい、雑魚ども!」

男が吠えると寝たふりの鳥達は慌てて

起き翼をバタつかせる。

ぬしを呼べ」

戸惑う鳥達、ここで漸く12星座の一つだと感覚で気が付いた。

「主を呼べと言っている!

聞こえないのか、今すぐ呼べ!!」

「くるゾ。」「..何が?」


『騒がしい、何を喚いている?』

低く響く声がする。あかい焔の尾が鳥達を摩り、慰めていく。

「傷が治ってる..」

「鳳凰は治癒能力に長けている、あの程度擦り傷にもならん。」

「不死鳥なんて呼バレてるんだナ!」

正確には治癒ではなく再生、傷んだ箇所を元の形に戻して修正する焔。

『私のは森を傷つけない、灰になるのはお前たち愚者に限る。』

「すごい..!」

大きさは然程でも無く、蟹より一回り違うくらいだが圧に呑まれ、鋭い気迫に刺される。

「関心している場合か、構えろ。」

「え、こ..こう?」

手を前に突き出し、間抜けな姿勢を取ってみる。

「いくぞキャンサー」「はいヨ!」

これでいいようだ。


『立ち去れ、侵入者!!』

全身から焔を噴き上げ熱波を発する。

対して此方は流水を強く放射させ、炎を打ち消さんと背後より、蟹が助力を施す。

「その手、ゼッタイ引くなヨ〜⁉︎」

「は、はいっ!」

押し出すイメージで腕に力を込め前を向き直す。相性が良いというように水はガリガリと炎を侵食し呑み込んでいく。

「仕上げだ」「そーらヨ!」

『なんだこれは..。』

キャンサーがはさみを大きく振るうと波が発生する。連続して生じる波は鳳凰を巻き込み大きく拡大する。

「身体全体がのまれた!」

「..キャンサーは12星座の一つだ、この程度容易い。」

水は火に強い、単純な道理だ。それは星も同じ事。

『くっ..!』

「再生しきれるか?

事切れて終わるぞ、このままではな」

『甘く見るな!!」

「キャンサー。」「悪いナ!」

水を継ぎ足し噴き掛ける、火の星である鳳凰には悶える程の激痛である。

「ちょっと、やり過ぎだろ?」

『情けを掛けるか..餓鬼が...。』

森を護ったきた化身にとって人に同情される程の屈辱は無かった。ましてや侵入者の小童こども如きに。


「死なれちゃ困るんだよ!」

『不死鳥の死を案ずるか?

愚弄するのも大概にしろ童!』

「馬鹿に出来る立場か?

その子供はお前を手懐けたいといっているんだぞ」

『我を手懐けるだと!

フハハハハ、滑稽だ、恥を知れ!!』

頑として人には屈しないと、森の威厳を見せつける。その身を溶かされ、削られようと、見せる気迫は変わらない


「おいおい、ホントに死んじまうゼ?

ありゃァやばい状況ダ。」

「..鳳凰、子供と一体になれ」

巫山戯ふざけるな!

何故我が人の餓鬼と共に...!』

「..その子供はお前を目指し、単身この森へ入った。侵入者では無く、お前に用があってきたのだ」

『それが何だ!

我にとっては侵入者、目的など知った事では無い!』


「森がそれほど心配か?」『..何?』

「雑魚共には任せておけないか?」

蟹座は元来温厚な性質を持つが、扱う人物はその真逆といってもいい。情は薄く、表情は無い。禁句という概念を無視して言いたい事を平然と云う。

『......餓鬼、名前は何だ?』

「コースケ。」

「そいつは、お前の仲間共に追い掛けられても一切危害を加えなかった。一方的にやられてもな」

『……』

「そりゃ怖かったけどさ、痛めつける趣味は無いから...ね」

「どうだ?」

「お前はズイブン殴ってたけどナ。」

確かに傷を癒したとき、跡はみんな流水による殺傷だった。嘘ではないと、記録にまで残されている。

「このようなやつが森を荒らすか?

果敢に飛び出す鳥達が、森を守れない

ほどお前には弱々しく見えるのか?」

『....!』

周囲の焔が上昇し、熱を高める。

全快とまではいかないが、体表を修復し大きく翼を広げた。

「キャンサー」「おう..」

『待て!』「....わっ!」「おい!」

燃えさかるひづめで捕らえ、がっしりとコースケの体を掴む。しかしコースケは燃えておらず、熱も感じていない。

『貴様、我を手懐けたいといったな?

いい度胸だ。』

「あ..う、うん。ありがと。」

『連中が驚かせたようで悪かった、嫌な者共ではないのだ』

「それは分かってるよ、怖いけど..」

不気味なほど圧を下げ柔らかく接する鳳凰は最早気迫を纏っていない。

「はじまるゼ?」「ああ..。」


『配下とはいかないが、そこまで欲しているならばお供くらいはしよう。』

「えっ、ほんとに?」

「決まりだな。」「テイマー誕生ダ」

「え、え?」『うおっ!』

男がコースケの肩を軽く叩くと、吸い込まれるようにするりと背後へ鳳凰が付く。テイマー認証の成功である。

「なんだこれは?」

「お前は今から専属の召喚獣だ、子どもに力を貸すなり護るなり好きにしろ森は鳥もどき達にでも任せてな」

「お前達何者だ?」

「お前らと同じテイマーだ。

召喚獣はキャンサー、俺の名はシルマ水の星、蟹座を扱うもの」

「蟹座を扱う者..」

「お前、12星座か。

成る程道理で、やられたな」

焔を消して、尚且つ傷を与える事など並大抵ではままならない。加えて再生力を上回る程強力な威力、そんなものが出せるのは12星座の他にいない。

「さっきの..アナタがテイマーにしてくれたんですよね。なりたかったけどなんでオレをテイマーに?」

「..訳あってテイマーだ必要だ。

数は多いほうが良いと思ってな」


「オレたちはどうなんの?」

「お前たちには一緒に来て貰う」

テイマーコースケ、鳳凰と共に戻れぬ未来へ。



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