サラとひまわり
伏谷洞爺
序章 生まれた場所
ほの暗い空間だった。明かりと呼べるものは、切れかけの蛍光灯ただ一つ。
バチバチと明滅を繰り返すそれを頼りに、浩一郎は作業を続けるのだった。
「……ふー、終わったぁ」
ボフッと椅子に座り込む浩一郎。その傍らには、寝台に横たわる全裸の女性があった。
女性……と考えてから、浩一郎はふっと微笑んだ。
いや、自らを嘲笑したと言うべきだろうか。そこには、照れや高揚といった類いの感情は垣間見えなかった。
「……我ながら執念だな」
ぼそりと独り言ち、再び立ち上がる。
かなり疲れていた。このところろくに眠らず作業をしていたのだから当然だ。
ふらふらになりながら、寝台に近付く。
ここに横たわっているのは、女性と呼べる代物ではない。
見てくれは確かに人間のようだが、実のところは全く違う。
人型アンドロイド。かつてSF小説の題材としてよく使われた空想上の産物。
それが今、現実の物として浩一郎の目の前に横たわっているのだ。
「……後は、うまく起動してくれればいいんだけど」
これを作ったのは、他でもない浩一郎一人。もし他の仲間と一緒に作り上げたのなら、ここまで不安にならなかっただろう。
ごくりと唾液を飲み下し、浩一郎は彼女の無機質な頬に触れる。
冷たく、柔らかい感触だ。人間のようでいて、人間ではありえない感覚。
見た目は銀髪碧眼。かつて浩一郎が愛した人をそのまま模している。
これも、我ながら執念だなと思った。
――いや、執着というべきだろうか。
「キスでもしたくなっちゃうな」
そうしたら、毒林檎を食べた白雪姫のように目を覚ますだろうか。
そんな馬鹿げた考えに憑りつかれてしまうのは、寝不足からだろう。
「……今日はもう寝よう」
起動実験は明日にして。そう思い、浩一郎はソファに寝転んだ。
布団を被る事すら億劫に感じ、そのまま目を閉じる。
全く疲れは取れなかった。が、すぐに眠れたような気がする。
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