第5話 皆を護る力を得るために
「まさか、私の歌にこんな効果があるなんて知らなかった……皆様大変申し訳ありませんでした……! 道理で、最後の演奏時に寝ている方々が居たわけなのですね」
「大丈夫だぜ。眠った俺もアイツらも誰も気にしてねぇから、アンタも気にしなくても良いぞ。無理やり魔法か何かで眠らされた不快感みたいなのはなかったしな。むしろ、ストレスが軽減された感じかな?」
演奏会が終わった後、感想を妖精達に聞いて回っていた所、好意的な感想の中に気になる事を言う妖精が居た。俺の歌声を聞き始めてから、気分が落ち着きすぎて眠くなってきたと言うのだ。バイオリンのみの時には何もなかったらしいので、それを聞く限りでは俺の歌声を聞いた者の気分を落ち着かせ、更に眠らせる効能があるのは確実だった。
効能自体は弱いらしく、集まった50人程の妖精の内の7人しか熟睡していない様で、身体に悪い影響も全くなかったらしい。ただ、彼ら彼女らの身体に俺の歌声で影響を与え、驚かせた事は事実なので、それについては謝った。幸い誰も気にしておらず、怒った妖精も居なかったから安心だが……
(こりゃあ、迂闊に人前で歌えないな。でもこの力、上手いこと制御出来る様になれば……魔王軍との戦闘に使えるかも? 好きな歌を歌いながら身を守れる様になれば……最高じゃねえか!!)
頭の中でそう考えていた。とは言え、それだけでは効かなかった時に危ないし、吸血鬼の喉がどれだけの強さなのかは知らないが、恐らく歌ばかり歌っていると人と同様に喉が枯れてしまうだろうし、やはり魔法は必須だろう。
「なあ、それよりも次はいつここに来るんだ? 森に散らばった奴らにも聞かせてやりたいしな」
「次ですか? そうですね……私も魔法や飛行の訓練に、ここの事についての知識も仕入れなければならないですし、他にも色々やりたい事がありますので、1週間に1度なら良いですよ。バノヴァスさんの許可を得れればの話ですが」
「長様の許可を取った上で1週間……よし分かった! 俺が許可取ってきてやるから待っててくれよ!」
思考に耽っていると、この演奏を余程気に入ったらしい妖精の1人が俺にそう声をかけてきた。そんなにも喜んでくれていたなんて演奏者冥利に尽きるし、また来て演奏してあげようと言う気持ちになったが、バノヴァスさんから許可を得れなければここに来る事は出来ない。
それに、飛行や魔法の訓練に趣味としての音楽演奏や絵描き、館の地下にある極大図書館で世界の勉強、他にも色々やるべきことがあるのを考えると1週間に1度位が限度だろう。なので俺にそう聞いてきた妖精に伝えると、あからさまに喜びながらバノヴァスさんに許可を取ってくるから待っててくれと言い、憩いの場を勢い良く飛び出していった。
(あの妖精もきっと、俺みたいに音楽を聞いたりするのが好きなんだろう。もしかしたら、良い友人になれるかもしれないな)
そんな事を考えながら、切り株で作られた風情ある椅子に座りながらのんびり待っていると、出て行った時よりも更にハイテンションになって入ってきた。彼曰く、どうやらあっさりと許可が降りたらしい。
「と、言う訳でルナシー! 1週間に1度頼む!」
「分かりました。約束ですし、1週間後にまた来ますね。他の妖精の皆様も、また今度会いましょう」
こうしてまた来る約束を交わした後、フィリクとフォレナの2人とバノヴァスさんに帰る事を伝えて挨拶を交わし、飛行練習も兼ねて館へと飛んで戻る事にした。
リトルデビルを葬った際に本能的に飛んだこともあって、飛行姿勢は多少はマシになったものの、急降下・急上昇・急旋回等の技術の必要な行動は出来ない。当然、魔力の扱いに慣れていないこの状況で音速~超音速飛行などもっての他である。
(まだまだ先は長いな……と言うか、色々凄い事が起こりすぎて疲れたな。館に帰ったら寝るか)
地球世界では男だった俺が、訳の分からない内に別の世界へ吸血鬼の女の子として転生するなど、一体誰が予想出来るだろうか。加えて、慣れない今の俺の容姿相応の言葉遣いと振る舞いをした上、雑魚とは言え魔王軍と相対したせいで精神的に何だか疲れた。帰ったら寝よう。
それ以外にも今後の事を色々考えながら館へと戻った俺は、館の2階にある寝室として使う予定の部屋に入り、かなりの時間を使ってパジャマへ着替え、ベッドに寝転がって眠りについた。
――――――――――
「ん……ふぁぁ……」
あれから長い時間が経った後、俺は目を覚ました。カーテンを開けて外を見てみると、空には地球の物とほぼ変わらない綺麗な月と星空が見えた。寝る前はまだ昼間であったのに夜中になっているのを見ると、余程俺の精神的な疲れが酷かったのだろう。と言うか、翼の事を考えないでそのまま寝てしまったけど、何もなかっ見たいで
ただ、お陰で感じていた疲労感も綺麗さっぱり消え去ったので、今なら飛行訓練も魔法訓練も勉強も出来る気がする。
「さて、やりますか……」
なので早速パジャマを脱ぎ、寝る前まで着ていた長袖と脛辺りまでの長さのスカートに各種下着を、色々な意味で苦戦しながらも何とか着終えた後ナイトキャップを被り、白いソックスと黄緑色のストラップシューズも履き終えた。これだけで相当の時間をかけてしまったが……まあ、その内慣れるだろう。多分。
そうして着替えを終え、極大図書館の入り口付近の机に置きっぱなしの魔導書を取りに行った後、館の外へと出て早速空高く飛んだ。
(まずは飛行訓練……昼間に日傘を差しながらだとどうも練習しにくくてたまらんしな)
最初に始めたのはより速く、より上手く飛べるようにする訓練である。と言っても、長い時間ひたすら急上昇に急降下に急旋回等をしながら飛び続けたりするだけであるが。
「流石に……速いな!」
とにかく力を込めてある一定の速さまで加速すると、俺の身体に少し圧力がのし掛かる。一体どれだけの速さで飛んでいるのかは分からないが、音速ではないのは間違いないだろう。そう考えていた途中、空を飛んでいる魔物と衝突しかけてしまうトラブルがあったが……危うく寸前で回避する事が出来て良かった。
そうして次は、周囲に障害物や妖精達が居ないのを確認してから
風属性に火属性魔法を会得するために訓練を始めた。まかり間違えて森を燃やしたり、木をへし折ったりしない様に高度をかなり上げ、細心の注意を払う。勿論、火属性最上級魔法の訓練はそれでも危険なのでやらない。
「まずはこれだな……『リヴァーストルネード』」
俺がそう言うと、足下に展開された魔方陣から立ち上る様にして逆竜巻が発生し、俺を囲んで守る様にして周囲を廻り始めた。今は空中に居るから威力を実感しづらいが、恐らくこれを森で使おうものなら辺り一面を吹き飛ばしてしまうだろう。
圧倒的数の敵と戦う際にはかなり有用そうな上級魔法な上、見た限りではある程度の防御効果もありそうだ。まあ、無闇に使うような魔法じゃなさそうだし、防御ならそれに特化した魔法があるから、そっちを使った方が色々な面で良いだろうな。
「さて次は……『ヘルフレイム』」
次に俺がそう言うと、目の前に展開された橙色に輝く魔方陣から猛烈な轟音と共に火柱が10秒程立ち上り、そして消えていった。うっかり魔力の込め方を間違えたせいで疲労を急に感じ、おまけに威力が逆に低くなり、やたらと音が煩くなってしまった。
それに、良く考えたらこんな喧しい魔法、どう考えても夜中に放つ様なものではない。寝ているであろう妖精達を驚かせた可能性が大きいし、やたらと目立ったせいで変な奴らに目をつけられてしまったかもしれないからだ。
その後は一通りの風と火属性の魔法を唱え、能力のお陰で覚える事だけには成功した。ただ、制御の面ではまだまだ素人に毛が生えた程度の腕しかないため、それについては今後の課題だ。
(ふぅ……自分の物にするまで、先は長いな。それと朝になったら妖精達に謝りに行こう)
こうして今日から本格的に身を守り、妖精達を守るための訓練を続けていく事となった。
転生少女吸血鬼、異世界でも音楽と絵を愛する 松雨 @shado5t5
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