街はスイカの中のように暗かった


街はスイカの中のように暗かった。

黙って眠ったように立ち並ぶビルの間を

王者は馬に乗っているかのように、強く歩いた


ア・トライブ・コールド・クエスト

     「The Low End Theory」

さびが靴にこびりつく。

睦月の風、針金の音を立てる。

これはヘンゼルとグレーテルを再現するのかもしれない。

誰かが、この道をもう一度歩くだろう。

朝か夜か、この王者とは関係ない人が、

関係ない理由で。

それが道というものだから。


彼女を見てると半分は憧れて、

残りの半分は悔しくなる。

「君は重力の強い人間だ」

思わず言ってやった。悔しかったからだ。

目が吸い寄せられる、が、それは彼女の確固かっこたる何かに、

多くの人間が残った一片の花びらのように、

やっともつなけなしの自己を、心底しんそこ恥じるから。


負けず劣らず王者はあるく。

高価な塩のバターを熱いパンに乗せる、すると溶ける

王者は朝食にそれを望む、それを夢見る。

王者だけは重力の彼女に負けない。

彼もそれは引き寄せてきた。

初めて現れた、存在を対しあう、ライバルであった。

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