淡路島の歌


ガレージに座って、

そこから眺められる景色。

無色の風が子猫の息みたいに、

ちいさく、こまかく、流れる。

肌が寒くなった。

風の中に潜むエネルギーだ、

!!


遠くの山は水蒸気に霞む。遠ければ遠いほど。

そのてっぺんに塔だか、のっぽな木だかが見えた。

白くぼやけて、正体は見えない。

ぼんやりと突き抜けて、

一本、立っている。


換気口の音のみ。

届いてくる。ようやく。

……そらを滑る小さな飛行機も、

畑の向こうの小さな車も、

まったくの無音に見える。

水蒸気に吸収されて隠れてしまうのだ。


雲はうごかず山と並んで絵のよう。

そうすると、無機質な家々も

畑のキャベツまでもが

空からちょこんと置かれたモデルのよう。

フェンスに倒れた自転車、

陽を暖かにうける納屋、

建物の影に隠れた階段。


「どう思う?」

「そのままに情景が浮かぶ」

「——そうなんだよ。けれどね、僕はときおり世界がこれほどまでになく美しく感じる時があるんだ。そうじゃない時は必死で美しい言葉を探して、どうにか取り繕うんだけれど、美しく見えた時は、もうそのまま書くしかないんだね。でも、その瞬間は一番いいんだ。目に見える景色がまったく詩に見えるときだよ」

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