散文
サトクラ
そして正義は執行された
僕の両親は人一倍「常識」というものにうるさかった。僕の物心がつく頃には言葉遣いにはじまり、箸の持ち方、法律、慣例などありとあらゆる「常識」というものを叩き込まれた。その教え方は厳しく、時には手が飛んでくることもあったが、僕は両親のことを心から尊敬しているし感謝もしている。彼らが一通りの「常識」を教え込んでくれていたおかげで、小学校に上がってすぐ天涯孤独となった僕が社会から爪弾きにされずに済んだのだ。現代の「非常識」な人に対する世間の風当たりは、戦前と同じ国とは思えないほどに強い。「常識」という正義のもとに「非常識」な人間をリンチする案件が後をたたないほどだ。警察や司法も見て見ぬ振りをしている現状で、一度でも「常識」から外れてしまえば想像以上に厳しい人生を歩むことになる。
◇
ーーー本日未明、××ビルの屋上で男性の遺体が発見されました。所持品から男性は、佐藤一郎さん21歳と判明しました。警察はーーー
物騒だけれどよく聞くニュースを流しているラジオを聴きながら電車に乗っていると、どこか見知った顔の男性と目があった。いっそ芸術的な天然パーマと黒縁メガネ、ヒョロリと伸びた手足に、小さい頃一緒に遊んでくれていた隣の家の兄ちゃんの面影をみた。頭の中によぎった名前を思わず呼ぼうと口を開きかけたところで、男性は特に表情を変えることなく目線を外すと丁度停車した駅で降りてしまった。しばらく呆然と彼の後ろ姿を眺めていたが、おそらく人違いだったのだろうと思い直すことにした。もし彼が本当に隣の家の兄ちゃんだったのならば、僕との歳の差は10歳。彼は今26歳ということになる。そんなことは到底あり得ない。
二十歳になるまでに神に命をお返しする。
それがこの世界の「常識」だから。
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