ちょんまげボーイズ

連野純也

第1話 CHOMP、デビューする

 ――それは社長の何気ない思いつきから始まった。


「世界進出を視野に入れた場合、『サムライアイドル』っていうのはどうだろう?」


 社長はいつも唐突だ。

 まあその行動力(といいかげんさ)で芸能界を泳いできたのだ。多少なりとも尊敬に値する。なにしろ弱小とはいえ、れっきとした芸能事務所の社長なのだ。

「そうですね、社長。歌って踊れて殺陣たての出来るアイドル、って面白いと思います」

 俺は相槌を打った。上にはこびを、が俺のモットーなのだ。

 今どき時代劇かよ、世界に打って出る前にまず日本で売れよ、と心の中では思っていたが、俺は雇われマネージャーにすぎない。

「女の子を男装させますか? ロックな感じ?」

宝塚ヅカじゃあないんだ。ガチな男の子のグループだよ。剣道の段持ちが欲しいな。衣装はずっと着物で、本物のちょんまげにしよう」

「マジですか……」

「コンセプトはCHON-Mage alluring Party(ちょんまげの魅力的な集団)、通称CHOMP」

 ――だっせえ。

「人選は君に任せるよ。西織にしおりくん、がんばってくれ」

「丸投げですかあ、社長」

「絶対売れるよ。なんかピピっと来たから」

 社長の勘は五分五分だからなあ。ってーか、そういう勘が当たるなら事務所はもっと大きくなってるはずなんだが。

 まあ、やるしかないか。ふう。

 俺、西織浩二にしおり こうじはオーディションの段取りを始めた。


 集められたのは六人。

 人当たりの良さで目立たないが、男らしい筋を通すタイプのリーダー、御末正章おすえ まさあき

 やや斜に構えた居合の切り込み隊長、森木大輔もりき だいすけ

 頭脳派で『デンタク』のあだ名を持つサブリーダー、雷電卓司らいでん たくじ

 すぐにぶつかり合う大輔と卓司をフォローする気苦労の多い石垣六郎いしがき ろくろう

 ボディービルで鍛えた巨大な肉体を持ちいつもニコニコしている剛力新伍ごうりき しんご

 天然系で小柄なマスコット的存在、草刈弘くさかり ひろし

 踊りはともかく歌はまあそれなり(一人を除く)なので、そちらのレッスンと髪を伸ばすのに半年。


 着物に着替え、模造刀をさした彼らは――まるで幕末の志士のように格好良かった。さすがに武道をたしなんでいるだけあって、立ち振る舞いが美しい。

 ――あれ、もしかして社長正解?

 俺は知らず知らずのうちに、彼らに入れ込んでいた。


 そうして、デビューライブの幕が上がる。

 事前の宣伝に結構使ったおかげで、客の入りもまあまあだ。

 ガッツポーズをして、俺は彼らをステージに送りだした。




 そのとき、信じられないことが起こったのだ。


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