第20話

「バメン・チェンジ!」


 スーパーでの買い物から帰ってきて部屋に入るや否や、マーちゃんが腕をブンブン振り回しながらなんか変な言葉を叫んでるのが目に入ってきた。場面チェンジなんてそんな言葉を教えた記憶はないぞ。あと大声出すのは近所迷惑になるからやめなさい。そして俺を見るや否や向かってきた。何する気だ。


「んー! んー!」


 マーちゃんは背伸びをして俺に顔を寄せてきた。小さな唇が少し伸びていた。もしかしてこれはあれか。


「……キス?」

「んー!」


 マーちゃんは唇の形を変えることなく頷きながら声を上げた。いやちょっと待て。


「なんで今!?」

「バメン・チェンジでお前と私がキスする場面にした!」

「何その変な言葉……」

「バメン・チェンジはバメン・チェンジだろう」

「いやそれが何なのか聞いてるんだけど」


 マーちゃんは背伸びをやめて意味不明なことを言い放った。とうとうおかしくなってしまったか。いや元々ちょっといや大分おかしかったけど。だとするといつも通りか。マーちゃんは今日もいつも通りだ。


「まさかお前、バメン・チェンジを知らないのか?」

「えっと……場面転換のこと? 演劇とかでやるやつの」

「その様子だと知らないな。やったぞ! ついにこの世界の知識においても私が上回ったな! ははははは!」


 マーちゃんは悪役みたいな高笑いをしながらくるくる回り始めた。俺にマウントを取れるのがそんなに嬉しいのか。嬉しいんだろうな。今まで俺が何かを教えてばっかだったし。


 遊園地のコーヒーカップみたいなマーちゃんをしばらく見ていたら、急に動きを止めてこっちにドヤ顔を向けてきた。


「場面チェンジャーを知らないだなんて人生における大きな損失だぞ。まったく、仕方ないから私が一からお前に教えてやろう。この前テレビのバラエティー番組で特集をやっていたからな、一通りの知識は持っているぞ。あと最近の話は録画してあるから好きな時に見るといい」

「いや場面チェンジャーはさすがに知ってるけど。……ああ、それでバメン・チェンジか。なるほど」

「なにっ!?」

 

 マーちゃんはそれを聞いて小物感溢れるリアクションで動揺した。


 場面チェンジャーといえば毎週日曜日の朝に放送されている人気特撮シリーズだ。子どもの頃、誰もが一度は観た経験があり、自在に場面を切り替えて強大な敵と戦う姿に憧れたのではないのだろうか。もっとも俺は最近は全く見てないし今どんなのがやっているのかも知らないけど。俺の見てたやつは「変換!」が掛け声だったから気づかなかった。


「なんてことだ……」


 マーちゃんはがっくりとうなだれてしまった。そんなに悲しいか。悲しいんだろうな。しょうがないな。


「でも今やってるやつは全然知らないから教えて欲しい」


 俺がそう言うと、マーちゃんはすぐさま立ち上がり赤い瞳をきらきらさせながら俺に近づいてきた。ちょろいな。こんなちょろいとちょっと心配だぞ。


「そうか! だったら私が教えてやろうじゃないか! 今やってるのは学校で告白される場面なんかに敵を飛ばして倒すんだぞ!」

「どういうこと!?」


 俺が見てない内に大分迷走してないか。何だ告白される場面って。少なくとも俺が見てたやつは戦いやすい場面や敵が苦手とする環境になっている場面に切り替えてたぞ。


「好きな女子に告白してフラれる場面にすることで敵に心の傷を負わせて倒すんだ」

「ひどくない!?」

「ひどくないぞ。敵はそれだけのことをされるだけのことをしてきているんだからな」


 最近の敵は一体何をしてるんだよ。実際に見てみたくなってきたぞ。


「気になったか?」

「気になった」

「だったら録画してるのを見てみるといい。私はこれでこの世界の学校生活についてのイメージを得ることができた。あとバメン・チェンジが魔法みたいで懐かしくなる」


 それから俺たちは録画されてるのを順番に見ていった。大会で惜敗する場面とか遅刻したと見せかけてずっと掃除用具入れに入っていた場面とか最早意味不明な場面に飛ばしまくっていたが、決め台詞の「これが、お前の夢の末路だ!」というのはちょっとかっこよかった。

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