第20話 六大神会議
この世界が生まれる少し前のことである。
ある時、何もかもが存在しない〝無〟の中に1つの〝有〟が現れた。
その〝有〟の名はアトラス。この世界を作った者である。
とある世界の巨人神として君臨していた彼には、その世界の天空を支えるという役目があったのだが、長い間その役目を果たしていた彼は疲れてしまった。
『ああ、もう疲れた。天空を支えるのはもううんざりだ。この役目を今すぐ放り出したい……。でも、この世界にいる限り、役目を放り出したら自分が始末されかねない。ならば、この世界から脱出するとしよう』
その考えを実行に移し、世界を支える役割を放り捨てた彼は何もない場所、〝無〟へと来たのである。
アトラスは自分が天空を支えなければならなかった理由を、世界が自立していなかったからだと考えた。
大地が平面であったからこそ、支える存在が必要になったのだ、と。
そしてそう考えた彼は球状の世界を作り上げた。
その世界こそ、この世界なのである。
そんな世界を作り上げたはいいものの、彼一人では世界の管理が手に余った。
だから彼は自分の体の半分を使って分身を作り上げることにした。
その分身の名はグリム。彼と同じ姿をしながら、彼とは逆の性質を持った存在だった。
しばらくはグリムと協力して世界を支えていたのだが、それでも人手が足りないと痛感した彼は、それに加えて、世界を豊かにするために、また体の一部を使って六つの神を作り出した。
まず、世界を照らす光を、と光神ルークスを。眩しすぎる世界に調和を、と闇神テーネブリスを。
さらに、潤いをもたらす水を、と水神アークアを。世界に活気を、と火神イグニスを。安心を与える下地を、と土神ソーリを。そして、変化を促すものを、と風神ヴェントスを。
この六つの神、後の六大神が司るのが六属性、光、闇、水、火、土、風であった。
この六属性が生物を育み、人間を生み出し、世界を豊かにしたのである。
そして、力を消費し体も小さくなってしまった彼は、安らぎに包まれていく世界を見守るのみとなったのだった。
だが、安寧は続かない。
しばらくして世界が軌道に乗ってきた頃、突然グリムが反旗を翻す。
邪神となり、魔物を生み出し、自身の力に満ちたダンジョンを作り出し、そして世界のどこかへ雲隠れしてしまった。
突如巻き起こった事態に六大神は混乱し、力を失ったアトラスは何もできず、ダンジョンから溢れ出る魔物が人間を始めとする生物を地の果てへと駆逐しようとする。
これではまずい、とそんな魔物達に対抗するために六大神がしたことは、生き物に自らの属性の魔力を分け与えることであった。
しかして属性魔力が与えられたことにより、地上の生物は人間を中心に魔物の支配に逆らい始める。
そんな彼らの姿を見て、支えるために六大神は、六大神の他の神と交わり、観測神ガトレアや、ステータス神カミーリア、ジョブ神ナイトクイーンなどの神を生み出す。
そして生まれた神がさらに交わり、肉体を持った神——亜神を世の中に生み出した。
その甲斐あってか、魔物をダンジョンの中へと追い戻すことに成功し、世界に再びの安寧が訪れる。
そして、今に至るのだ。
今。それは、新たな亜神ジークが生まれた今この時のことであった。
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「ただ今より、六大神会議を始める」
集まった六大神を前に創世神アトラスがそう言い放つ。
「おい、親父、六大神全員を集めるなんて、よっぽどのことがあったんだろうな……?」
気性の荒い火神のイグニスが苛立ちを顔に貼り付けそう言う。
「……なんじゃ?まさか、ガトレア、会議の内容を伝えておらぬのか……?」
アトラスが隣に控えるガトレアを睨む。
「ひ、ひぃ!忘れてましたぁ!観測以外は不得手なんですぅ!」
視線を逸らしてガトレアが言うと、アトラスは溜息をついた。
「……まぁ良い。早速じゃが、本題に入るぞい」
アトラスのいつにない真剣な雰囲気に気を引き締める六大神。
「先日地上で神気が観測された」
「「「「「「なっ!」」」」」」
その事実に六大神に動揺が走った。
「……驚くのはまだ早いわい」
驚愕している六大神を何とか落ち着かせようとするアトラス。
(創世神アトラスも驚いてたじゃないですかぁ)
それを見たガトレアは内心こう思っていた。尤も、ここでは口にしなかったようだが。
「驚くのはここからだ。その神気はダンジョンから観測されていたのだが——」
「——なにっ!」
驚くイグニス。他の神にも動揺が走っているようだ。
「……驚くべきはここでもないのじゃが。まあ、続きを話すぞい。その神気を出していたのはグールだったのじゃ」
先ほどを超える驚愕の事実に六大神全員が言葉を失い、口をあんぐりと開いた。
「……流石に冗談ではないよな?」
そう言ったのは風神ヴェントスだった。
冗談だと思ってしまうのも当然である。そもそも魔物とは、宿敵とも言うべき邪神、グリムが作り出したものである。
魔物と人との子供については許容してる部分もあるものの魔物自体には嫌悪感を隠しきれない神が大半なのだ。
そんな嫌悪の念を抱く邪悪な魔物が神気を出していたと言うのだから冗談だと思いたくなるのも仕方ないことであろう。
「これが、本当のことなのじゃ……」
「まじかよ……」
「え、本当なの?」
「まさか、神気を操る術をグールが……?」
思い思いの反応をする六大神にアトラスが言う。
「で、ここからが本題なんじゃが」
「まだ本題じゃなかったのか!?」
驚愕した様子でアトラスの言につっこんだのは水神アークアであった。
「うむ。ここまでなら六大神を呼ぼうとは思わんかったわい」
「「「「「「いや、呼んでよ(呼べよ)」」」」」」
六大神はもはや驚き疲れたのか少しぐったりとしている。
「それで、本題なんじゃがの」
そのような六大神の様子を気にもせず、アトラスは本題を告げる。
「そのグール、ダンジョンを出たら神になっておったのじゃ」
「「「「「「は?」」」」」」
思わず素っ頓狂な声を上げる六大神。
皆元はアトラスの子だからなのか、六大神は驚き方が似ているようである。
「……肉体を持っていると言うことは亜神か……?」
そう訪ねる闇神テーネブリスに、憮然とした表情でアトラスは答える。
「うむ。それに違いあるまいて」
六大神が頭を抱えたり頭に疑問符を浮かべている中、アトラスが切り出す。
「そこで提案なんじゃが、六大神がおる今じゃし、相手も末席中の末席とは言え神じゃから、これから神界に召喚してみると言うのはどうじゃろうか」
まさかの提案に一同は絶句したが、その提案の妥当性を考え、神界に招くのも仕方ないだろう、と考えた。
が、当然問題がないわけではない。
「でも、もともとはグールなんでしょ?既に邪神よりの存在で、神界で暴れたりするんじゃないの?」
そう言ったのは光神ルークスであった。
「そう思うじゃろう?じゃからなんじゃ。じゃから、六大神を呼んだのじゃよ。暴れたら頼むのう」
そう言うアトラスに一同は再び絶句した。勿論絶句した理由は先程とは違うが。
「でも、観測していた感じだと全然凶暴じゃなくて、むしろ人助けとかしてましたぁ」
弁解するガトレアに、悪態をつくイグニス。
「へっ、どうせ何か欲しさに人助けしたんだろ」
金欲しさである。
「まあ、でも、邪神にしても、何にしても、今のうちに会って本質を確かめないといけないな。そして、邪神ならここで滅ぼす」
満を持して言い放たれた土神ソーリのその発言に一同は納得して、亜神ジークをここ、神界に呼び出すことが決定したのだった。
「よし、では早速呼び出すとするかのう」
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(あと3時間か、どうせだし街の散策にでも行こうかな)
そう思い、ジークはギルドに併設された酒場の席から立ち上がった。
この世界ではお酒は何歳からでも飲めるので、0歳のジークも飲むことができるのだ。
まあ、勿論周りはジークのことを0歳だとは思ってないのだが。
歩き出し、ギルドから出ようと門を開けた瞬間、ジークの体が光に包まれる。
(な、なんだこれは!?)
そして、彼を包む光が無くなった時、ジークの姿は地上のどこにも見当たらなくなっていたのだった。
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(ここはどこだ……?神聖な魔力で溢れてるみたいだけど)
ジークの目の前には、7つの巨大な人のような何かが巨大な円卓を囲んでいた。その横には少し小さな、されどジークよりは大きい2つの巨大な人がいた。
そしてその、人のような何かは、皆ジークを見つめていた。
(巨人……なのか?言葉通じるかな……。っていうか、まずどうやって自分をここに連れてきたんだ?)
「移動神ダリア、ありがとう」
一番奥にいる髭を生やした老人のような何かがそう言った。
(いどうしん……移動神ってことか……?それならこの人みたいな何かは神ってことなのかな?たしかに神なら、自分をここに連れて来れてもおかしくないけど……)
考察するジークにその老人然とした神が口を開いた。
「神界へようこそ、亜神のジーク君」
(しんかい……やっぱ神界のことだよね。ってことはやっぱりここにいるのは神なのか)
「私を知っているようですね。ですが、私は貴方方のことを知らないのです。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
(相手は神なんだから丁寧に接しなきゃ行けないよね)
しばらくの間押し黙っていた何柱もの神だったが、こらえきれなかった様子で、突然笑い出した。
「くっくっく、なんだこいつ。あぁ、俺は火神イグニスだ。存外礼儀正しくて、中々面白いやつじゃねえか」
赤髪の神、火神イグニスがそう笑いながら言った。
「ああ、ふふ、私は水神アークア。珍しく同感だ。面白いやつだな、これは」
水色の髪をした神、水神アークアもそう言う。
「ふむ、儂は創世神アトラスじゃ。してジークよ、なぜお主がここに呼ばれたか心当たりはあるかの?」
その他にも神が名乗ろうとしている様子だったが、それを遮って白い髪をした老人然とした神、創世神アトラスが語りかける。
(……分からない。分からないけど、もしかしたら亜神に勝手になったことが良くなかったのかな?)
「……もしかして勝手に亜神になったことでしょうか?」
ジークは上目遣いでそう答えた。とはいえ、相手は全員ジークよりも遥かに大きいのでそうなることは物理的に必至なのだが。
「おお、分かっておるではないか」
アトラスは少し驚いた様子でそう言った。
(勝手に亜神になるのはまずいことだったのか……)
何が悪いのかは未だに分かっていないが、とりあえず悪いことをしたのなら謝ろう、と考えたジークは早速謝ることにした。
「勝手に亜神になってすみません。ですが、これには退っ引きならない理由があったんです」
謝罪ついでに言い訳を含んだその言葉をジークが言い終えてしばらくして——
——先程とは比べ物にならない笑い声が神界に響いたのだった。
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「ジークさん……。はぁ、私、やっぱりジークさんのことに一目惚れしちゃったのかな……。って、あれ、ジークさんが今光に包まれてたような……はっ!」
(ま、まさか、好きな人は眩しく見える、ってやつなの!?)
「シーア……あの男のこと、好きなの……?」
「ひぃっ!」
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次回、〝シーアの後ろにサーシャ〟
※この予告はフィクションです。
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