新人冒険者ジーク
第14話 ダンジョンよさらば
『【詐術】を習得しました』
(まさかこんなスキルを習得するなんて……そんなに嘘ついてたかな?……ついてたか)
「はぁ……」
「どうしたの?ため息なんてついてるけど」
「いや、なんでもないですよ」
「そう?」
レイラがシークの顔をじっと覗き込んだ。
「まあ、強いて言うなら、今になって疲れがどっと来た、ってとこですね」
「あっ、あの化け物と戦ってたんだもんね。それに色々訊かれてたりしたし。そりゃ疲れるか」
シークの応答に、レイラは勝手に納得してくれるのだった。
(レイラさんに嘘つくのはちょっと申し訳ないけど、夢を叶えるには必要なことだからね……)
一抹の気まずさを感じたシークは誤魔化すように話題を変える。
「そういえば、レイラさんってどこの冒険者なんですか?クレールじゃ見たことなかったと思うんですが」
シークがその話題を選んだのは、話をそらすと言う目的が半分、実際に気になるのがもう半分といった具合であった。
「あ、私はアルマの冒険者だよ」
「そうなんですね。道理で」
アルマはクレールの隣街である。といってもこのダンジョンを挟んで隣、といった立地が関係しているのか、隣街としては行き来が少ないのだが。
(クレールに戻ったら知り合いがたくさんいるしな……。これを機にアルマに行ってみるか)
「じゃあ、アルマまで一緒に行きましょうか」
「え、いや、ジーク君はクレールに住んでるんでしょ?それは悪いよ」
とは言うもののその提案が嬉しかったのか、顔を僅かに綻ばせるレイラであった。
「いえ、大丈夫ですよ。自分もちょうどアルマに行くところだったので。それに、レイラさんの洋服の調達もありますからね」
「あ、それはそうだね!……なら、一緒に行こっか」
「ですね、ふふっ」
レイラの笑顔があまりに微笑ましくて、シークはつい吹き出してしまう。
「あ、また笑ってる〜!」
「いや、笑ってないですよ。……ふふっ」
「やっぱり笑ってるじゃーん!!」
そんなとりとめのない会話をしながら歩き続け、漸く出口へと辿り着いた2人。そんな2人の目には、大地を赤く染める綺麗な夕焼けが映っていたのだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「創世神アトラス〜!大変ですぅ!!」
「またか、ガトレア。そんなに驚くとは、あのグールがついにダンジョンから出たのか?」
「ええっと、そうと言えばそうなんですけどぉ、そうじゃないと言えばそうじゃなくてぇ……」
「ええい、はっきり言えい!」
「うぅ、じゃあ、はっきりと言っても驚かないで下さいよぉ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、グールが神気を出すことよりも驚くことなんてあるまいて」
「そんな感じのこと言って、前も驚いてたじゃないですかぁ」
「今度はもうばっちりじゃ。主に心の準備がの」
「じゃあ、言いますよ……?」
「うむ」
「……実は、あのグール、神になってましたぁ」
「な!なにぃ!!!?」
「やっぱり驚いてるじゃないですかぁ、3度目ですよぉ?このくだり」
「いやいや、これは驚くほかあるまいて!神……といっても恒常的に肉体が地上にあるということは亜神、か……」
「やっぱそうですよねぇ」
「うぅむ……。どういう成り行きでそうなったのか分からんのか?」
「ダンジョンの中で起こったことなのであんまりわからないですぅ……。あ、でも、魂は同じなのに肉体は変わってるっていう感じでしたぁ」
「……ならば、転生したということか?いや、まさか……」
「それで、対応はどうすればいいですぅ?」
「……話を聞かねばなるまい」
「どうやってですかぁ?」
「奴が亜神じゃというなら神域に招くとしよう」
「ほ!本気ですかぁ!?」
「うむ、新たな神が自然に現れたなど、今まで一度もなかったことじゃ。それに邪神にでもなられたらまずいことになる……。これは六大神を集めてでも話さねばならん内容じゃろう。ガトレア、すぐに連絡を取るのじゃ」
「は!はぃ!分かりましたぁ!」
「最悪、今の内に摘み取らねばならんしの……」
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シークとレイラの2人がアルマについたのは、もう夜も更けて幾分かといった頃であった。
(これがアルマ、か。これは、すごいな……)
初めてみるアルマの夜景に唯々圧倒されるシーク。
アルマはクレールの隣街ではあるが、街の趣はかなりクレールとは違う。そうシークは感じていた。彼の言葉で言うならばクレールが質素、アルマが豪奢、といった所だ。
「ふふっ、アルマはすごいでしょ?」
面食らった顔をしているシークを見てレイラは自慢気に言う。
「はい、正直に言うと、驚きました。クレールはこんなにキラキラしてないですから……」
自分の住む街が褒められて鼻が高いのか、ますますレイラは自慢気になった。
「……でも、何で隣街なのにこんなにもクレールと違うんでしょうか?」
「それは、クレールの街にはほとんど人間しか住んでないからじゃないかな。それに対してここは亜人が多いの。アルマは亜人を優遇してるからね」
「なるほど……?」
(それだけでそんなに変わるものなのか……?)
どこか腑に落ちないな、と思ってシークが訊ねると、レイラが力説してくれた。
「ああ、それは夜型の私達みたいな種族がいたり、物を作るのが得意なドワーフがいたり、他にもいろんな種族がいて、それぞれがそれぞれの個性を出し合ってるからなの。だから、ちょっとごちゃごちゃしてる、って言えばそうなんだけど……。でも、素敵な街でしょ?」
シークは大きく頷いて応える。
「レイラさんはこの街のことをすごく愛してるんですね」
「う、うん。まあ、そうなるかな」
口をついて出るシークの言葉を聞いたレイラは、微かに照れた様子を醸してそう言った。
「それにしても、ジーク君も亜人なんでしょ?クレールで色々問題に巻き込まれたりしなかったの?」
(この間亜人になったばかり、なんて言えないよな……)
「まあ、亜人ってことを一応隠して生活してましたからね。だから、さっき亜人だってことがバレたのもアルマに来るなら丁度良かったんですよ」
シークはまた一つ、嘘をついた。
『【詐術】のレベルが上がりました』
(ううっ、このスキルのレベルはできれば上げたくないな……)
「そ、そういえば今から冒険者ギルドに行くんですよね?」
「え、あ、うん。そうだけどどうかしたの?」
「自分も行っていいですか?」
「うん、もちろんいいよ」
「じゃあ、行きましょうか」
シークは強引に話を終わらせ、レイラに連れ立ってギルドへと歩き出した。
目抜き通りをしばらく歩くとギルドの扉が見えてくる。
(ここでもう一度冒険者登録をして、俺、いや、
そうして覚悟をして扉を開けると中の喧騒が聞こえてきた。
「だぁからあ、そうゆうとるやろ〜!」
「いえ、ですが……」
どうやら青髪の冒険者が受付の女性に絡んでいるようだ。
(ギルドの中の酒場で飲んでたのかな……?)
「あんなぁー、ちっとは融通利かせてくれたってえぇんやないのぉ〜?」
「いえ、ギルドの規則なので……」
面倒臭そうな絡みだ、と思ったシークはすれ違って隣のカウンターに行こうとした——
——時にその冒険者がよろめいてこちらにぶつかってきた。
「いたっ!何ぶつかってきよんねん!」
(いやいや、そっちが勝手にぶつかって来たんだろ……?)
「いや、それはそっちが——」
「——すみません。うちの連れが迷惑をかけました」
文句を言い返そうとしたシークをレイラが遮った。
「(ジーク君、こういうのは、まともに相手しちゃダメなのよ)」
「(うっ、すみません)」
そうして場が収まった、と思いきや、男は全く引かずに絡んでくる。
「なんやぁ?あんたは関係ないやろが、わいはそいつに用があんねん」
「(……レイラさん、それでも絡んでくるんですけど)」
「(そ、そんな人がいるとはね。……てへっ)」
レイラはこてん、と自身の額を叩いた。その仕草があまりに可愛くて、シークはこのような状況であるのについ微笑んでしまった。
「あぁ?なにわろてんねん!こっちは怪我したんやぞ!?どう責任取ってくれるんやぁ?」
(はぁ……仕方ないか)
シークは納得がいかない面持ちでありながらも、その瞳には諦念を宿して男の胸元に手を当てた。
「あ?なんのつもりやねん。ふざけ——」
途端、神聖で冷涼な魔力が男に迸る。
(【形質反転】)
体に魔力が走るその快感に、男は体を震わせた。
「——てたのは私の方でした。すみませんでした」
「「……えっ?」」
先程まで絡まれていた受付の女性と、そばで見ていたレイラは、男のそのあまりの変わりように呆けた顔をしてしまう。
「(ちょっと、ジーク君。何したの?)」
「(まあ、ちょっと酔いを覚ましてあげただけですよ)」
「(そうなの?)」
「(まあ、ちょっと魔法を使って)」
「(ふ〜ん)」
(そう、ただ〖エンジェルオーラ〗を体に通して酔いを覚醒へと〝反転〟させただけだ)
——それはつまり、二つの意味で〝覚醒〟って訳ね!
(……ソフィア、最近テンションおかしいよね)
——だって……シーク全然構ってくれないんだもん!
(そ、それは……ごめん、ソフィア)
そんな念話をソフィアと交わしていると、青髪の男が再びシークに謝ってきた。
「本当にすみませんでした。酔った勢いで、つい」
「いや、分かってもらえたならそれで大丈夫なので」
素面だとしても、これ以上絡まれるのは面倒なのでそう受け流した——
「あの、私、D級冒険者のソレヴィアと言う者です。見たところあなたは私の酔いを覚まさせる技術を持った方と見受けられる。迷惑をおかけした手前申し訳ないのですが、少しお願いを聞いてもらえないでしょうか」
——つもりだったが、どうやら受け流しきれていなかったようだ。
いや、酔ってる時との言葉遣いの高低差が凄いな、といったことを思ったシークは、思わず驚きをその顔に浮かべた。
——耳キーンなる?
(……なるね。それにしてもお願いか、うーん、めんどくさい、どうしよう)
——うぇーん、シークがつれないよー。
(ごめんごめん。後でたくさん構ってあげるから今はちょっと待って)
「お話を聞いて無理そうであれば、勿論断っていただいて結構ですので」
そう言ってソレヴィアは頭を深く下げる。
(まあ、話を聞くだけならいっか。無理そうなら断れば良いって言ってるし)
慇懃なソレヴィアの態度を見たシークは、それくらいならいいかと考えを改め、とりあえず話だけなら、と応えた。
すると、その返答を聞いたソレヴィアは青色をした目を輝かせ、すぐさまお願いを語り始めるのだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「私、酔い癖が酷いので、私の専属酔い覚ましになって欲しいんです!!」
「……え?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
次回、〝シーク、酔い覚ましになる〟
※この予告はフィクションです。
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